第30話 ケンカするほど仲がいい
「お、おじゃましますわ……」
「おじゃましますね~」
「おじゃましま~す」
クラリッサ、シンシア、そしてルカの3人が私の部屋にやってきた。
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ。お茶の準備ができてますよ」
エメリアがにこやかに3人を出迎える。
「へぇ~ここが2人の愛の巣ってわけですね~」
「あ、愛の巣って、も、もうっ、シンシアってば……私とお嬢様はまだそういうのでは……」
「え~? でもこの前2人でお茶した時は、エメリア散々私に惚気てきたじゃないですか~。アンリエッタ様が~アンリエッタ様が~って」
「そ、そういうシンシアだって、クラリッサ様の事ばっかり喋ってたじゃないですかぁ!!」
メイド同士で知らない間に仲良くなっていたらしい。うんうん、いいことだ。
新たな友情を微笑ましく眺めていると、ルカがすすすと近寄ってくる。
「ん? 何?」
「あのさ、アンリのベッドってどっち?」
「え、そっちだけど――」
指を指した途端に、ルカがベッドにダイブした。
「ん~~いい匂~い。アンリの匂いがする~」
私の枕に顔をうずめて匂いを嗅ぎまくっている。なんて自由な子なんだ。
「ル、ルカ! なんてうらやま……じゃなくて、ハレンチですわっ!!」
「ん? クラリッサも嗅ぐ? いい匂いだよ~」
「そ、そんなにいい匂いですの? ではわたくしも……」
こらこら、ハレンチはどこへ行った。秒で彼方へポイしてるぞ。
でも匂いフェチとしては堪らないものがあるのかもしれない。前に小さくなった時も散々嗅がれたし。
「ああ~~っ、な、なんていい匂いですのっ……たまりませんわっ……!!」
恍惚の声をあげながら枕を抱きしめている。しかしあまり人の枕の匂いを嗅がれると、さすがに恥ずかしいんだけど。
「お2人とも何してるんですかっ!!」
おっエメリア、そうだ、言ってやれ!言ってやれ!
「お嬢様の枕を嗅ぐのは、お嬢様専属メイドたる私の特権なんですよっ!!」
エメリア、お前もか。
というか今までも枕を嗅がれていたのか。いや悪い気はまったくしないけど、少し照れる。
「そうですよ~お嬢様。それはお世話をするメイドの特権なんですからね~。メイド基本法にもちゃんと明記されてるんですよ~」
「そうなんですの!?」
「ウソですけど」
またクラリッサがからかわれている。素直だからしょっちゅうシンシアに騙されてるのよね。そのたびにシンシアのほっぺをつねっているけど。
そして何か静かだなと思ったら、ルカが毛布を掛けて私のベッドで寝る気満々になっていたのでゆすって起こす。
「こらっ。期末試験の勉強しに来たんでしょ。おーきーろー」
「ううん……結婚したら毎日私のこと起こしてねっ……」
寝言を言っている。まだ寝てないだろう。
「はいはい、結婚したらね~。ほら、起きた起きた」
ずるずると引っ張り出す。ルカが一番成績やばいはずなのだ。友達のため敢えて心を鬼にする。
「うえ~勉強したくないよ~」
「でもルカさん、赤点とったら補習で部活出来なくなりますよ?」
エメリアの指摘に「うぐっ」という顔をする。やっぱり赤点とったらペナルティはあるよね。
「そうですわよ。いくらスポーツ専攻とは言え、単位はしっかり取りませんと」
「従者科はそこまで勉強きつくないですけどね~護衛術とかお世話とかの実技中心なので~」
「え、そうなの? 私もそっちにしておけば……いや、でもお嬢様と同じクラスになるためですし!!」
しかし期末かぁ……もう半年たったのかと思うと、時間のたつのは早いなぁと思う。授業は未だに基礎魔法学中心で、基礎基礎基礎の毎日だけど。
今期の一番の成果はやっぱりミニスカメイドを流行らせたことだ。
最近ほんとよく見るようになって、学園の廊下を歩いていてもメイドさんのたぶん4割はミニスカになっている。
エメリアは恥ずかしいのか、未だに部屋の中でしかミニスカになってくれない。でもこのままミニスカが世間の当たり前になったら、そのうち外でも着てくれるだろう。
そうなったら2人共ミニスカメイドになってデートをしようと企んでいるのだ。その日が待ち遠しい。
「ふふふ……楽しみね」
「お嬢様? どうかしました?」
「ん~ん、何でもないわ」
私はごまかすように机の席につく。
「あっ! 私アンリの隣とった!」
「じゃ、じゃあ反対側は私が……!」
食堂とかでおなじみの配置になろうとしたエメリアの腕を、シンシアがガシッと掴む。
「まぁまぁ、ここはメイド同士、隣に座りましょ~」とか言って、私達の反対側の席に引っ張っていく。
「と、となるとわたくしはアンリエッタの隣ですのね……!! ま、まぁここしか空いていませんし、仕方ありませんわっ!!」
それによって空いた隣にクラリッサがちょこんと座って来る。
「む、むぅ~っ」
「エメリアはアンリエッタ様と普段からイチャイチャしてるからいいでしょ~?」
「い、イチャイチャとか、してないからっ!」
いや、結構イチャついてます。膝枕とか。最近はマッサージまでしてくれるようになったし。もちろん健全な奴である。
「それとも、私の隣じゃいや?」
「そんなことはない、よ?」
「えへへ~。じゃあいいよね」
シンシアがエメリアの腕にぎゅっと抱きつく。メイドさん同士のイチャイチャ。うむ、これもまたいいものだ。
そんな二人を見てルカもぎゅっと私の腕に抱きついてきた。
「ル、ルカっ、勉強の時はそういうのはいけませんわっ!!」
「だって私こうしたらやる気でるし、片方空いてるんだからクラリッサも抱き着けば?」
片方って、残った私の腕か。両方抱きつかれたらどうやって勉強すればいいんだ。
「わ、わたくしはそんなハレンチなことできませんわっ……!!」
枕をクンカクンカするのはハレンチじゃないのだろうか。
ルカは見せつけるように更に抱きついてきてるし。
前方からは「むぅぅぅ~~っ」って目でエメリアがにらんできている。可愛い。
「クラリッサももっと素直になればいいのに~」
「す、素直ってなんですの!? ただわたくしは、隣にいれば魔法薬学とか教えてあげやすいから、隣に座るだけですわ!! 他意はありませんのよ!!」
「はいはい。素直素直~」
私を挟んでキャンキャンとケンカしている。でもこの2人も何気に仲いいよね。ケンカするほど仲がいいというか。
まぁでもこの2人は私の百合ハーレムに入った後でも、こんな感じで仲良くやっていくんだろうなぁ。
そう思いながら、私はエメリアのいれてくれたお茶を味わうのだった。




