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第28話 お帰りなさいませ。お嬢様

 私は自信満々にメイド喫茶の説明をしたけれど、店長からの反応はない。ただ黙って聞いているだけだ。

 うむむ、これは不評だったかな? あくまで職人さんだし喫茶店とか興味ないのかな、とか考えていたら。


「…………素晴らしい」


 泣いた。泣き出した。泣きながら抱き着いてきた。物凄い力で背骨が折れそうだ。


「素晴らしいぃぃっ!! いいよそれ!! そこに行けばいつでもメイドさんに会える!! なんて素晴らしいのっ!!」

「め、メイドさん好きなんですかっ」

「好き! 大好き! 作ろう! ぜひ作ろう! むしろ自分で毎日通う!!」


 ここにもメイドの沼に堕ちたものが……私も大好きだけどね、メイド。


「刺激的なミニスカメイドさんのお店と、落ち着いた雰囲気の普通のメイドさんのお店を分けて出したりして」


 ミニもいいけど、やはりクラシカルなロングもたまらないのだ。ぶっちゃけどちらがいいかなんて選べやしない。両方いいものなのだ。


「いい! どっちもいいもんね! ミニスカも普通のも! ニーズに合わせた店舗展開! やっぱり天才でしょ!!」


 さらにここでメイド喫茶には欠かせないあのセリフ。


「入店時はもちろんお客様にこう言うんです……「お帰りなさいませ。お嬢様」」

「うひょぉぉぉぉぉ!! 悪魔的発想!! 天才通り越して悪魔的!! お帰りなさいって言われたいいいぃ!!」


 興奮しすぎて野生に帰ってるような。若干身の危険を感じるぞ。主に背骨に。


「仕事で疲れた人々に癒しを与えるメイドさんの喫茶店――名付けて、メイド喫茶!」

「シンプルイズベスト!!」


 腕にさらに力がこもる。いよいよもって背骨がやばい。


「喫茶店やってる友達いるから声かけて……あ、いやでもミニスカメイド服の売り上げで資金はたんまりある……! 

 ここは自分で勝負に出るべきか!? 私と我が友アンリエッタのメイド王国を作るために!!」


 メイド王国……! なんか火が付いたみたいで目が燃えている。いや、萌えているかな。とりあえず面白そうなのでこのまま見守ろう。でもその前に。


「あ、ちょっと思いついたんですけど、試運転としてこの店の店員さんに着てもらうというのはどうですかね?」


 その手があったか! みたいな顔をされた。盲点だったらしい。


「それ採用!! ぜひ頼んでみよう!! メイドさんに囲まれた職場……ああもう最っ高」


 うむうむ。喜んでいるようで何より。でももう一声だ。


「ついでに店長さんもどうです?」

「え? 何が?」

「いやメイド服、着てみませんか」


 それを聞いた途端、店長さんが私からバッと離れる。私なんか変なこと言ったかな。

 ぼさぼさの頭をかきながらうつむき加減にもごもごと喋りだす。


「い、いや、でもほら、そういうのは私みたいな可愛くない女がやってもさ……」

「そんなことありませんよ。ちょっと貸してください」


 目にかかっているぼさっとした髪をヘアピンで上げ、乱暴にまとめただけの後ろ髪をほどいてちょちょいと三つ編みにしていく。

 野暮ったいメガネは隅に転がっていた、古いけどちょっといい感じのメガネに代えてあげる。

 やはり磨けば光るじゃないか。もったいない。いわゆる地味っ子可愛いってやつだ。


「うん、いいじゃないですか」

「そ、そんなわけ……」

「可愛いですよ! ほら、メイド服着てください! みんなに見せちゃいましょう」

「え、でもそんな私なんて……」


 ええい、じれったい! ここはこの手だ。


「あれ? 自分では着れないような服を作ったんですか?」

「んなっ!? そんなことないわよ!! 私の腕は誰にも負けないんだから!!」


 私の挑発にムキになって反発してきた。


「じゃあ着れますよね、はいこれ」

「なっ……!?」


 しまったという顔をする。こういう子はプライドを刺激してやるといいのだ。

 ここでさらにもう一押し。


「そういえばまだ名前聞いてませんでした。お名前は?」

「モニカ……モニカ・ルゼール」

「じゃあモニカ、私も着るから一緒に着ましょ?」


 ぎゅっと手を握ってうながす。


「アンリエッタも着るの!?」

「ええ、モニカが着るなら着ますよ」


「うぐぐぐ」と頭を抱えてうなりだす。羞恥心とメイド好きとしての魂がぶつかり合っているようだ。


「アンリエッタのメイド服姿……見たい! 凄く見たい! ああっ……でもっ」

「ほらほら、早くしないと私帰っちゃいますよ?」

「わ、わかった……着る!! 着るから!!」


 落ちた。私はニヤリと笑う。


「じゃ、じゃあ着替えるから……見ないでね?」


 それは見ろってことかな? そう思ってたらトタタと物陰に隠れてしまった。ちっ。

 私はその場でポンポンと服を脱ぐと、メイド服に着替えてモニカを待つ。


「こ、これでいい……?」


 おずおずと物陰から出てきた。おおお、なかなか。

 そこには巨乳メガネ地味っ子ミニスカメイドがいた。属性てんこ盛りだけどこれはこれでいいものだ。


「こんな恰好したことないから……恥ずかしいんだけど」

「大丈夫ですよ。私も着てますし」

「う、うん、似合ってるよアンリエッタ」

「モニカも似合ってますよ」


 褒められ慣れてないのか、モニカが照れてくねくねしてる。


「これからはその服でお店に出ましょう。美人ミニスカメイド店長が作るミニスカメイド服、これは話題になりますよ」

「び、美人なんて……!」

「美人というか可愛い系ではありますけど」

「か、可愛い……!?」


 そこですかさず手をがしっと掴む。モニカがびくっとするのが伝わってくる。


「これも宣伝です! 私達のメイド王国のための!」

「私達のメイド王国……うん、そうだね! そのために頑張らないとね!!」


 そして私達は店に出る。「きゃ~~っ!」とお客さんからの歓声がわいた。


「店長かわいいぃ~~!!」

「いいなぁ~私も着ていいですか?」

「店長……はぁはぁ……」


 店員さんからの受けも上々だ。若干1名、目が怪しい子がいるけど、見なかったことにしよう。

 しかし評判が良くてもやっぱり恥ずかしいみたいで、「ふひゃうっ」って変な声を出して胸を隠している。


 ほらね、やっぱり自分で言ってた通りじゃないか。

 普段野暮ったい仕事着を着ている子が、こんなに可愛い服を着て恥じらう姿……なんて素晴らしいんだろうか。



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― 新着の感想 ―
なんだっけ、いんがおうほーだっけ? …ぢょっと違うかな? …まぁ、因果は巡るってね()
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