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第22話 えっち!! ヘンタイ!! ケダモノぉ!!

「アンリエッタぁぁぁぁ!!」


 壊れるんじゃないかと思うような勢いでドアが開かれ、ルカが放課後の教室に飛び込んできた。


「な! なに! いきなり何なの!?」

「ルカさん!?」

「び、びっくりさせないでちょうだい!!」


 いきなりの登場に教室がざわついている。


「良かった、いた!!」


 全力で走ってきたのか肩で息をしていて、目もぎらついている。ちょっと引くくらいに汗だくだ。


「どうしたの、そんな慌てて。あ、それヤキュー部のユニフォーム? 似合ってるね」


 でもルカはそんな言葉に答えず一直線に目の前までやって来た。


「ごめん、ちょっと付き合って」

「へっ?」


 腕を凄い力で掴まれ、そのまま私は教室の外へと引っ張られていく。


「お嬢様!?」

「な、なんですの、一体!?」


 遠ざかっていく教室からみんなのざわつく声が聞こえてくる。

 え? 一体何が起こったの? ルカに聞こうにもなんか怖いくらい真剣な顔してるし。

 そのまま私は強引に手を引かれ、「ヤキュー部室」と書かれた部屋へと連れてこられた。


「ふぅ……ふぅ……」

「ちょっと、いきなり何なの? 説明してよ」


 まだ荒い息をはいているルカに聞いてもやっぱり返事は返ってこない。私の混乱はますます深まるばかりだ。

 もう一度、私を拉致った理由を聞こうとしたその時だった。


 がちゃ!


 えっ。鍵をかけられた? 密室に2人きり……これは……


「あ、あの……ルカ? 何で鍵かけるの?」

「だって人が入ってきたら困るでしょ」


 当たり前のような顔をしてルカは答えてるけど、え、つまり、その、そういうこと?

 いやでもまさかね? もうちょっと順番ってものがあるでしょうし。


「じゃあ……脱いで」


 そのまさかだった。


「ええええ!? ぬ、脱ぐ!? いや、そりゃルカとは最終的にはそうなりたいかなって思ってたけど、でもなんていうか、急すぎるでしょ!?」

「よかった! アンリエッタもやりたかったんだ! 早く言ってくれたら良かったのに! ほら、時間が無いから早く脱いで!」


 じりじりと迫って来るルカから逃げるように後ずさるけど、ついに壁際まで追いつめられてしまった。

 ひえぇぇ。目がマジよ。体育会系情熱的すぎぃ!


「時間はあるでしょ!? まだあと2年以上あるじゃん!? こういうのはもうちょっと時間をかけてゆっくりと……」

「そんな時間ないんだよ!! いいから脱いでよ!」

「こ、こういうのはムードが大事なの!! なんでこんな来たこともない部室なんかで!!」


 そう、初めての時は2人の思い出となるように、もっとロマンチックな雰囲気でと決めているのだ。そういう点自分でも結構乙女だなぁと思う。

 でもそんな私の要求はルカには全く通じなかった。


「あああ!! もうじれったい!! 脱がすよ!!」


 ルカはボタンに手をかけ、引きちぎるような勢いで私のブレザーを脱がしていく。

 んなっ!? こんな強引に!? ルカってこういう子だったの!? 見損なったわ!!


「ちょっ!? こ、このえっち!! ヘンタイ!! ケダモノぉ!!」

「はぁ!? いやそんなケダモノって大げさな……ん?」


 そこでピタリとルカの手が止まり、何か考え込んでいる風な顔になる。


「……ひょっとして、アンリエッタ、何か勘違いしてる?」

「勘違いも何も」

「うん」

「私を人気(ひとけ)の無い部室に連れ込んで襲おうとしてるんでしょ?」


 それ以外に何かあるのかこの状況。

 だけどそれを聞いたルカはバッと飛び跳ねるように私から離れると、手をブンブン振って否定する。


「はああああああ!? 襲う!? いや、そんなことするわけないでしょ!?」

「どっからどう見ても襲ってるわよ!?」

「違うって!! え、あれ!? 私言わなかったっけ!? ユニフォームに着替えてほしいから脱いでって……」


 ――言ってない!! その一番大事なユニフォームのところ言ってない!!


「言ってないわよ!?」

「うえ!? いや、ごめん、ちょっと焦ってて抜けてたみたい……」

「そこ抜かしちゃダメでしょ!!」


 び、びっくりした……ほんとに襲われるかと思った……ん?でも、ちょっと待って。


「ユニフォーム? 何で?」

「え? それも言ってなかった? ヤキュー部の試合に出て欲しいって」

「欠片も言ってない!! おバカなの!?」


 どんだけ焦ってたんだ。言いたいことが何一つ言えてないし。


「えっと、つまりどういうこと? 一から説明して欲しいんだけど」

「時間ないんだけどな……えっとつまりね、ヤキュー部で1年対2、3年の試合をすることになったから助っ人に来て欲しいんだよ」

「1年対2、3年? なんでそんな無茶な話に」


 ルカは私から質問されてばつが悪そうに頬をかいている。


「いやぁ~その、売り言葉に買い言葉っていうかさ、きっかけは、ん、まぁアレだったんだけど、なんか勝負してやる! 的なノリになって」

「勝負にならないでしょ、上級生とやって勝てるの?」


 普通は無理だと思うけど。1年全員スポーツ推薦とかなら話は別かもだけど。


「そこはまぁハンデというか、魔力の出力を大幅に制限する腕輪を付けてもらうことになったから。不利ではあるけど絶対勝てないってわけでもないと思うよ」

「そうなんだ、でも何で私が? ヤキューのことろくに知らないのに」


 まぁルールとかその辺は知ってるけどね、あくまで前世での野球の方だけど。


「いやぁそれがさ、1年は9人いて、ポジションも奇跡的に被ってなかったから何とか試合にはなるはずだったんだけど」

「うん」

「1人が急な腹痛でダウンしちゃって」


 あらら。それは大変だ。それで補充が必要になったと。でもなぜ私が選ばれたのかがわからない。


「でね、1年は魔力制限の腕輪無しだから、自由に魔力が使えるんだ。とはいっても1年が出力できる魔力なんてたかが知れてるんだけど」


 まぁそれはそうよね。私達まだ基礎始めたばっかりだし。


「そこで、アンリエッタを助っ人に呼ぼうと考えたわけよ」

「はい?」

「アンリエッタの魔力容量はケタ外れでしょ。だから今の時点でも制限された上級生よりは遥かに強いのよ! もう思いついた瞬間勝った! と思ったね」


 なるほど。相手は制限ありで出力に限界があるけど、こちらには無いと。だったら私の魔力なら大幅に有利というわけだ。


「う、うーん、でもあまり気が進まないというか……」


 やったことないしね、ヤキューも野球も。


「えー!? 負けた方がグラウンドを全裸で10週って賭けしちゃったんだよぉ!! だから、ね、お願いっ!!」


 手を取って拝むようにお願いされる。なんつう賭けしとるんだ、この子ら。


「そ、それはキツイわね……」

「でしょ? だから頼むよっ!! アンリエッタなら運動神経抜群だし、ヤキューやったことなくて出来るはずだから。ね、ご飯おごるからさ~」


 ご飯か、悪くないけど、もう一声欲しいな。値上げ交渉をしてみよう。


「ん~そうだなぁ、もうちょっと欲しいかな」

「え、じゃ、じゃあ……私が大事に大事にしてきたものをあげよう……アンリエッタだから特別にね」


 え? そこまで言ってないんだけど。そんなに勝ちたいのか。

 でも大事なものって何だろう。まさか……

 私があれやこれやと妄想をしている間、ルカは妙にモジモジとしていた。でも時間が無いからか、ようやっと覚悟を決めたみたいで。


「わ、私の……初ちゅーをあげよう!!」


 顔を真っ赤にして報酬を提示してきた。


 ぴゅあか!! てか初ちゅーもまだだったの!? あんだけ人にぶっこんでるくせに!


「ふ、ふふふ……恋人いない歴=年齢の私のちゅーだ、これでどうだ! 大事にしてきたんだぞ!!」


 ぷるぷるしながら胸を張ってる。可愛いなぁこの子!


「口に?」

「ほっぺだよ!?」


 ほっぺかぁ。でもまぁいっか、初ちゅーは初ちゅーだし、それで勘弁してあげよう。


「ん、おっけ、出るわ」

「おっしゃぁ!! あんがと!! 頑張ろうね!!」


 そう言ってニカっと笑うルカの笑顔は、それだけで報酬になりそうなくらい魅力的だった――





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