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第14話 心の友ですの!!

 熱々に焼けた鉄板の上で、程よく焼けた生地からじゅうじゅうと食欲をそそる音がする。

 生地の上には青のり、ソースがたっぷりとかかっており、その上では鰹節が踊っている……ように見える。


「……どうみてもお好み焼きね、見た目は」

「だからオコノミヤキだと言っていますのに」


 熱くなっている鉄板にはガス管も電線も何も繋がっておらず、ふちに魔法陣のような呪文が刻まれてぼんやりと発光している。

 これがいわゆる魔道具というやつなのだろうか……えらい庶民的な品ではあるけど。

 そして店主から説明を受けたうえで、テキパキと焼いているエメリアとシンシア。いい手際である。


「はい、どうぞ、お嬢様」

「あ、ありがと……」


 切り分けてもらったオコノミヤキをまじまじと見る。入ってる中身はイカ……のようなものらしい。

 とても美味しそうだ。


「では、いっただきまーす!!」


 元気な声と共にルカがオコノミヤキにかぶりつく。やはり一番槍はルカだった。


「んっ!? んっまーーーい!! なにこれ!? すっごくうまい!!」


 美味しいのか。では私も。


「んっ……美味しい」


 美味しかった。絶妙な火加減で焼かれた生地に、その中に入った海鮮の旨味が口いっぱいに広がる……でもこれイカじゃない。イカよりずっと美味しい。なんだこれ。

 かかってるのは多分鰹節じゃなくて似た何かで、ノリもソースもなんか違う。おそらくこちらで作られたものなのだろう。これはこれで美味しいけど。


 ただ確かにこれはお好み焼きだ……でもなぜ? なぜにお好み焼き??

 先ほどの野球といいこのお好み焼きと言い、どう見ても現代の知識なのだけど、その脈絡が全くない。

 野球好きな関西人でも転生してきたの?? 遥って関西出身だっけ?? 美味しさも相まってますます混乱する。


「これは美味しいですわね。密かなブームになるのもうなずけますわ」

「そ、そうね」

「そういう割にはあまり食べていませんわね?」

「あ、いや、ちょっと考え事してて」


 うーーーん、何かこう、目的を成そうという気が全く感じないというか、ただ何となく自分の好きなものを広めてるというか……よくわからない!

 これは今考えても仕方ないのでは……? もうちょっと調べないとどうにもならないと自分を言い聞かせて、久しぶりのお好み焼きにかぶりつく。


「んん~~美味しい。このソースが堪らないわね」

「でしょ? 連れてきてよかったですわ。まぁわたくしも来るのは初めてでしたけど」

「あっお嬢様、お口の周りにソースが」

「あらありがとう、そういうシンシアこそ」


 お互いにソースを拭きあう主従。

 隙あらば百合百合しようとするなぁこの2人。でもこれが2人の自然なのだろう。


「うあ~~いいなぁ~~私も彼女欲しいぃ~~~イチャイチャしたいよぉ~~」


 物凄い食欲で次々とお好み焼きを平らげながら嘆くルカ。

 この子だけで既に一枚は食べているんだけど。それなのにちらりと見えるお腹には全く脂肪がついていない。これで太らないなんて不公平じゃない?

 でもそんなルカに対して2人から衝撃的な発言が飛び出す。


「え? わたくし達、別に付き合っていませんわよ?」

「そうですよ?」


 えっ? マジで?


「えええ!? 付き合ってないの!? あんなにイチャイチャしてるのに?」

「そうですけど。何かおかしいですか?」

「いやいやいやいや。もうやることやってるんだと思ってたよ!?」

「んなっ!? は、破廉恥ですわ!! そういうことはきちんと結婚してからですわよ!?」


 おお、お堅いのね……というかマジで付き合ってなかったのか。


「わたくしとシンシアはそう……心の友、みたいなものですわ!!」

「んでもチューくらいはしてるんでしょ?」

「はい、してますよ」

「シンシア!?」

「お嬢様ってば私が添い寝して、お休みのチューをして差し上げないと寝ていただけませんので」


 キマシタワー!


「こっこら! シンシア! そういうことバラしちゃだめですわ! まるでわたくしが子供みたいじゃありませんの!!」

「ええ~でもお嬢様、私を抱っこしてないと寝れないですよね?」

「そういうこと言う口はこうですわっ!! このっ! このっ!」


 むに~~っと頬をつねられてる。でもなんか嬉しそうだ。


「やっぱ付き合ってるんじゃない!?」

「だから違いますってば!! 心の友ですの!!」


 3人でぎゃーぎゃーと言い合っている。

 でもそっかぁ、


「お休みのチューかぁ……」


 私が視線を向けるとエメリアがビクリとした。お好み焼きが変なとこに入ったらしく激しくむせてる。


「げほっ!! ごほっ!! お、お嬢様っ!?」

「……だめ?」


 背中をさすってあげながら下から覗き込み、上目遣いでおねだりをする。

 エメリアはしばらく顔を紅潮させたままあれこれ考えて……


「お、おでこにでしたら……」


 折れた。


「ん、それでおっけーよ」


 これで毎日の楽しみも増えるというものだ。ひゃっほい。

 そうして皆でワイワイと食事をしながら、結構な量を食べてしまった。育ち盛り恐るべし。体重はもっと恐ろしい。


「それで、食べたらどうしよっか」

「そうですわね……小物や文房具、書店もいいですし、お菓子屋さんにも行きたいですわ……あとは服かしら」

「服?」

「ええ、普通に服を売ってるだけではなくて、オーダーメイドでデザイン画から服を作ってくれるそうですわ」

「ほほう……オーダーメイドで……」


 うんうん頭をひねって遂に完成した、エメリア用ミニスカメイドのデザイン画はカバンに入っている。

 これを形にしてもらう機会が早々に訪れるとはなんてツイてるんだろう。


「ふふふっ……楽しみね」

「お嬢様……?」


 私はエメリアの恥ずかしがる姿を想像しながら、食後のお茶をゴクリと飲み干した――


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