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第九話 ぼくは狂ってない

 三畳ほどの椅子とテーブルだけがあるスペースに案内される。椅子に座って背後の紫色のカーテンを閉めると、ラーシャが現れた。ラーシャは感心していた。


「旅立って一日もしないうちにレベルアップって、かなり早いペースね」

「何か、もう、色々あって、色々やっていたら、とんとん拍子にお金が手に入りました」


 ラーシャが机の上の金貨を数える

「一金貨が百銀貨だから銀貨にして四千枚あるわ。レベルアップをしてあげる」


 ユウタの体が火照って暑くなる。人間形態が解除されるのがわかった。


 暑さは、二十秒ほどで過ぎた。背中がむずむずする。羽根がさらに一段、大きくなった気がした。ラーシャが微笑んで告知する。


「これでレベル四よ。次のレベルに上がりたければ、銀貨八千枚よ」


 ユウタは背中の羽根に意識を向けた。すると、羽根が動いた。

「羽根は魔力で空を飛べるわ。でも、長時間は無理よ。連続で三時間も飛べば、くたびれるわ」


 腕や脚を見る。体表は黒くなり、腕や脚は太くなっていた。

「身体能力は着実に上がっているんだな」


 ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。


 四枚のカードには、簡単な説明が書いてあった。

『レッサー・デーモン』悪魔の下位種。身体能力は並の人間を凌駕(りょうが)する。


『狂人』人間だが狂っている。本人は狂っていることがわからない。種族は人間だが、この先の派生には悪魔が存在する。


『金の手先』『金の下僕』の進化系。粗悪(そあく)贋金(にせがね)を作って経済を混乱させられる。


『ギャンブル・デーモン』時に強く、時に弱く、能力は不安定。確率を操り人を破滅させられる。


 ユウタは気になったので正直に訊いた。

「一つ悪魔ではないのが混じっていますね」


「そういうのも時々あるわよ。でも、社会的に悪魔として扱われるのは悪魔よ。モンスターにも人間にもね」


 消去法で考える。『レッサー・デーモン』はない。並の人間を凌駕しても、強い人間には負けるでは、意味がない。肉体的能力面が強くても、特殊な能力がないのでは魅力がない。


 机の上から『レッサー・デーモン』のカードが消えた。


 次に『ギャンブル・デーモン』のカードに目が行く。ギャンブルは好きだ。能力が不安定なのが嫌だった。格上にも勝つが、格下に負ける可能性がある。連戦とかになったら不利であり、一度の敗北で死がありえる。


『ギャンブル・デーモン』のカードが消える。


 残りは『狂人』と『金の手先』だった。順当に進むのなら『金の手先』だけど狂人が目を惹いた。

「『狂人』って、何系になるんですか? 戦闘系、魔法系、それとも謀略系?」


 ラーシャが澄ました顔で告げる。

「分類上は万能系ね。何をやっても強いわよ。まともに戦えれば、だけどね」


「賊にいう、頭が良いけど馬鹿なのが欠点なのが残念な奴ですかね?」


 ラーシャが不機嫌な顔で教えてくれた。

「『狂人』になった経験がないから、わからないわ。ただ、『狂人』は厄介だと、人間の間で噂されているわね」


「『狂人』の先にある派生が気になるんですけど、何があるんですか?」


 ラーシャが理知的な顔で、すらすらと説明する。

「有名なのは天才ね。『狂人』から天才になるとレベル一に戻るけど、人間の限界を超えられるわよ。成長できれば、強いわよ。でも、若い目は摘まれるわよ。人間にも悪魔にもね」


「天才ですもんね、強いでしょうね。足を引っ張られるんでしょうね。生存競争が激しければ、鳳凰の雛とて、素材扱いだよな」


「『狂人』を経由すると、強力な魔法を使える悪魔にもレベルアップできるわよ。『官吏デーモン』になれば、就職先の幅も広がるし」


 どこの世界も公務員は安定しているのか。だんだんと『狂人』がよく見えてきた。

「何か、『狂人』の派生先が魅力だな」


 ラーシャが厳しい顔で忠告する。


「でも、忠告しておくけど、『狂人』は狂っているわよ。あと、身体能力は常人を超えるけど、悪魔より弱いわ。当然だけど悪魔の飛行能力も失うわよ」


 メリットがあるがデメリットも大きいのなら先に来たいできる。


「身体能力が低いのは当然ですよね。人間ですからね。どうしよう? 手堅く『金の手先』に進化するか。浪漫(ろまん)を求めて、『狂人』になるか」


『金の手先』と『狂人』のカードを見比べた。『狂人』のカードが選べと囁いている気がした。

「よし、行こう! 『狂人』になります」


 体がぼうっと黒く輝くと、体が萎んで人間になった。

「本当だ。体が人間になった。でも、狂っている気がしないや」


 どちらかといえば、頭がすっきりした気がする。

 ラーシャは呆れた顔で、辛辣(しんらつ)にコメントする。


「頭のおかしい人は、たいてい俺は正気だと思うものよ」

「他の人とは違います。僕は正気ですよ。悪魔神様から貰えるギフトのほうは?」


 ラーシャが気の良い顔で教えてくれた。

「一つは『マッド・パワー』ね。常識では出せない力が出せるようになるギフトよ」


「腕力に限ったものですか?」


 ラーシャが涼しい顔で解説する。

「行動全般にいえることよ。ただし、使える時は選べないわ」


「火事場の馬鹿力みたいなものか。もう一つは何ですか?」

「『狂人の閃き』よ。一般人には理解不能な凄い閃きをするわ。ただし、こちらも使う時は選べないわ」


「両方とも、発動するタイミングによっては強力だな。あとは、どれだけの頻度で発動するかが問題だな」

ラーシャが感じの良い顔で教えてくれた。


「タイミングが選べないっていうけど、ピンチの時に発動する時が多いみたいよ」

「二つとも欲しいな。両方を貰うことできませんか?」


 ラーシャがサバサバした態度で告知する。

「できるわよ。でも、『強欲読心』を捨てる事態になるわよ」


 ユウタは、ちょっと迷った。


「『強欲読心』は、とても便利なんだ。でも、いいか。せっかく狂人ルートに進んだんだから『マッド・パワー』と『狂人の閃き』を貰おう」


 涼しい風が吹き抜ける。ユウタの体がほんのり温かくなり、ギフトが宿った気がした。


 ラーシャはレベルアップを終えたので消えた。パサイモンから衣服を恵んでもらいユウタは家を出た。その日は適当な宿屋に泊まる。


 朝になると、市場で食料、水、地図を買い、次の街に行く準備をする。残っていた金は銀貨二十枚をきった。


『ショキの街』から次に行くとすると、『ジョウバンの街』か。『ショキの街』から近いから、ややこしい事態になっているかもしれない。だけど、こればかりは、行ってみないと、わからない。


 ユウタは『ジョウバンの街』に向かって歩き出した。

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