第七話 平和主義者の悪魔
まだ明るいので街を歩く。
街を歩いたが、街にはモヒカンの髪型をした男性が多かった。また、肩に金属パットを着けた服装をよく見た。
「モヒカンに肩パッドが、この街のファッションのトレンドなのか」
どこで何かが流行るかはわからない。他の街ではどうか知らないが、驚きではある。
ユウタは大通りから少し外れた路地に入った。
「待ちな、坊主、慰謝料を置いていけよ」
「そんな、僕、お金ないです」
声のした方向を見る。柄の悪い若い男が、十歳くらいの金髪のぼっちゃん刈りの子供を脅していた。子供は高価そうなクリーム色のベストに刺繍のある青いズボンを穿いていた。靴も綺麗な布靴を履いていた。
辺りを確認するが、柄の悪い男は一人だった。
「これは、いいところに出くわしたね。ここで子供を助けると、お金持ちと知り合いになれる。お金のある家には儲け話も転がっている」
「おい、おっさん。子供相手に格好が悪いぜ」
「何だ、てめえは?」と男が肩を怒らせて近づいてきたので、腹に正拳突きを喰らわせた。
「おぶ」と男が声を上げて、蹲った。子供の手を取って、大通りまで逃げた。
男は追ってこなかった。
子供は礼儀正しく礼を述べた。
「危ないところを、どうもありがとうございました」
「いいってことだよ。あまり危険な場所に入っちゃ駄目だよ」
子供は小さいながらも、健気に申し出た。
「よろしかったら、家に来ていただけませんか。お礼をさせてください」
ユウタの作戦は成功だ。ユウタは理由を付ける。
「お礼なんて、いいよ。でも、また、危ない目に遭ったら困るから、従いていくよ」
子供が歩き出したので、従いていく。子供は、街の北側にある高級住宅街に行く。子供は四百㎡の庭付き二階建てで十五LDKありそうな大きな白い家にユウタを案内した。
完全に金のある家だった。ここに出入りできればすぐにレベルアップできる。家事全般は料理屋での経験があるので問題ない。
子供が元気よく声を上げる。
「お母様、ただいま戻りました」
ユウタが玄関のドアを閉める。黒いワンピースを着た、女性四十代くらいの金髪のショート・ヘアーの女性が出てくる。女性はきつい視線を向けると、子供をいきなり平手でぶった。
「この役立たずが!」
ユウタは思わず抗議した。
「ちょっと、何するんですか。酷いでしょう」
女性は子供の頭を乱暴に掴むとユウタに向ける。
「あれは人間じゃない。悪魔よ。悪魔を家に呼び込んだら駄目でしょう」
正体がいきなりばれたユウタは、どぎまぎした。
「違いますよ。悪魔じゃないですよ」
女性は腰に手を当てて、不機嫌な顔をする。
「隠さなくてもいいのよ。私も悪魔だからね。私の名はパサイモン」
「同族ですか?」
パサイモンは怒った顔で内情を明かした。
「そうよ。私はこの子を使って、善人を釣っていたのよ」
子供を見ると、子供が悲しそうな顔でユウタを見ていた。
「なら、さっきのモヒカン男は?」
「使用人よ」とパサイモンはむっとした顔で告げた。
「危険度が少なくて儲け易いのなら当然、街にライバルがいて当然か。でも、僕は気付かなかったから、騙せばよかったのでは?」
「私は同族から仕掛けられない限りは、仕掛けない主義なのよ。平和主義ってやつよ」
「平和主義者の悪魔か。悪魔にも色々いるんだな」
「さあ、わかったら出て行ってちょうだい」と、パサイモンは不機嫌な顔で扉を指差す。
すごすごとパサイモンの家をユウタは出た。パサイモンの強さは知らないが、向こうから仕掛けてこないのなら友好的に接したほうがいい。ユウタの金策は振り出しに戻った。
「さて、どうしたものかなあ」
行く当てがないので、ぶらぶらしていると、裏通りに入った。
老いた白髪交じりの物乞いがいた。物乞いが情けない顔で、哀れみを誘う。
「旦那、少しでいいんでさあ、何かお恵みを」
今度は用心のために、『強欲読心』を試す。
物乞いの心の声が聞こえる
「金を持っていそうな兄ちゃんだ。俺はこんなところで終わらない。全てを奪ってやる」
顔には出さないようにするが、ガックリきた。心の中でユウタは愚痴をこぼす。
「この街の住人って、善人いないのかなあ」
ユウタが財布を取り出す振りをする。男は背後に隠し持っていた鉈を振り下ろした。
ユウタはひょいと避けて、顎に掌底を入れると男は一発でのびた。
パチパチと拍手をする音がする。音のするほうを見ると、立派な髭を生やした小太りの丸顔の四十代の男がいた。男はぼろい灰色の服を着ていたが、どことなく気品があった。
男は笑顔でユウタを褒めた。
「見事な反射神経です。どうです? その腕を使って一儲けしませんか?」
「あんたは、誰?」
男は恭しい態度で自己紹介をする。
「私はトニー。スカウトマンのトニーといいます。賭博場で戦う選手を探していたのです。よろしければ、一緒に儲けましょう」
『強欲読心』を試みると、トニーの心の声が聞こえる。
「噛ませ犬にはちょうどいい。適当に勝たせて、選手契約を結んで、ボロ雑巾のようになるまで使ってやれ」
ぶん殴ってやろうかと思うが、思案する。
「待てよ。こいつ、適当に勝たせてやれって思っているな。てっことは、イカサマがある賭博だ。だったら、このイカサマを利用すれば儲けられる」
ユウタは真意を隠して告げる。
「僕の名はユウタ。選手には興味がないよ。でも、賭けるほうには興味がある。客として入りたい」
「いいでしょう。従いてきなさい」
(トニーの奴、どうせ、イカサマで有り金を巻き上げて、借金漬けにすれば、選手に落ちると思っているな。悪いが、そうはいかないよ)




