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え、それは嫌だな。私帰っていいですか?  作者: RS世代
第2部最終章:磨励自彊のバトルライン
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帰りたい(197回目)  迫る大会


 エクレア・アリーナ、会場から沸く歓声を、私は外でジュースを飲みながら聞いていた。

 街の中心部に位置し国で一番大きいこの闘技場では、大体いつもなにかしらのスポーツのイベント等が行われ、人で溢れている。


 しかし、今日に限っては人が賑わう理由は、どうやらそれだけではないらしい。

 再来月ここで行われる「ルーキーバトル・オブ・エクレア」の受付が、今日始まったのだ。


 国で兵力を持つことを公式に許された「軍」「精霊契約保安協会」「王国騎士」など5つの組織のうち、入隊5年以下の新人たちがしのぎを削り戦う競技大会────

 国中で注目されるこの大会では、参加者は名声を、観客は興奮と熱狂を、商売人たちはかきい入れ時を期待して、皆その日を望む。


 まぁ、つまり私には関係のない催しだ。


「終わりました?」

「待たせてごめんな!! 2人ももうちょいかかるみたいだけどっ!」

「いや、それはいいんですけど」


 大会エントリーを終わらせたクレアは、妙にご機嫌だった。

 何か、見ているこっちが気持ち悪くなってくる。


「テンション高いですね……」

「だって、憧れの大会に参加できるんだぜ!?

 去年もアタシ会場で見てたけど、あの興奮は最高だった!!」

「へぇ」


 去年の大会と言えば、私はちょうどバルザム隊に編成されて、アデク隊長を森に迎えにいっていたときだ。

 たしかクレアは国の北方出身だったので、その後2週間程度後の軍入隊までは往復するには距離が長すぎる。

 もしかして、大会のために早く引っ越して前乗りしていたのか。すごい熱烈な観戦者だ。


「アタシも絶対いい成績残してぇなぁ、修行頑張らねぇとなぁ」

「これからしばらく、みんな修行の日々ですもんね」

「なぁ、エリーも参加しねぇのか?」

「しない」


 大会でいい成績を納めれば、それだけ国中の知名度が上がり、軍でも出世が早くなるともっぱらの噂だ。

 もしかして、最初の頃のクレアの焦ったような周りへの言動は、その大会に当てられてしまったからではないだろうか。


「罪深い大会ですね」

「罪深い?」

「なんでもないです、それよりこれから隊で決起集会ですよね。

 私も行ってよかったんですか?」

「当たり前だろ! 奢るから来いよ!!」


 いや、自分で払うからいい。

 どうせ奢ってもらったら結局、なんやかんやで流れ的に私も言いくるめて参加させる算段だろう。

 そういう猪口才なことを考えられるクレアではないが、決起集会の裏にセルマがいる気がする。


 みんなして私をどう参加させようか話し合っているのを、私は知ってるんだぞ────


「そんなに私に参加してほしいんですか、大会に」

「えっ、なんで分かったんだ……」


 はい言質(げんち)とりました。

 セルマよ、悔しいならばこの人に作戦を伝えた己を恨んでください。


「まぁ、参加してほしいのはホントだよ。

 こんな機会滅多にないんだから、エリーとは戦ってみてぇし」

「なんで私と……」

「だって、前に説得しに来たとき森で自分で言ったじゃん。

 『自分はまだ本気を見せた覚えはない、まずはお前は自分を目標にしろ』って」

「えっ? そんなこと……」


 あー、言った気がする、いや言った。

 あの時はクレアを連れ戻すことしか考えてなかったので、その場の勢いで色々言ってしまったのだった。反省せねば。


「いや、えー、うーん……別に大会だけが力を示す方法じゃないじゃないですか」

「でも絶好の機会だろ、あれだけ啖呵切って恥ずかしくねぇの?」

「それを連れ戻された貴女が言わないでくださいよ」


 まぁ、確かにクレアにとっては絶好の機会なのだろうが、それで「よしやろう」と私が言わない性格なことは重々承知だろう。


「だよなぁ、残念だ。来年こそは出てくれよ」

「えぇ、嫌だなぁ……」

「つれねぇなぁ──っと、危ないぞ」

「────あっ、ごめんなさい」


 アリーナの方から歩いてきた男性と、私は危うくぶつかりそうになった。

 私は軽くお辞儀をしたが、相手はこちらに見向きもせず、行ってしまう。


 背が高く、グレーの髪に鋭い糸目、そしてそのヒョロ長い後ろ姿は、何度か軍の訓練所ですれ違ったことがあるので、私はなんとなく見覚えがあった。


「えっ……でも、あれ、は……」

「どうした?」


 しかし、見た目以外の感覚は、揺さぶられる感情は、その記憶の彼とは全く違った。

 彼はすれ違ったことがある程度の相手じゃない、もっと────想起しただけで吐き気を催すような。


 歩き方、体の動かし方、歩幅、におい、空気。

 一瞬のうちに得られた情報の全てが冷たい手となり、私の心臓を直にギュッと捕まれたような、嫌な感覚が一気に私を襲う。


 そう、()()3()()()()()()()()()()、一気にのし掛かる。

 なんで、なぜ、どうしてあの人(・・・)が、ここに────??



「あぁ、【不屈のアーロ】じゃねぇか?」


 クレアの言葉に、私はようやく我に帰った。


「アーロ……? あぁ、あの」


 たしか、少し前に街で話題になった有名人だ。

 と言ってもいい意味ではなく、彼が話題になったのは生き残りだから。


 たしか1年半くらいまえ、とある男性幹部が謎の失踪を遂げた。

 彼、【不屈のアーロ】はその幹部とともに行方不明になり、軍では同じ犯人によって消されたのだと結論付けられ、他の幹部たちと同じように、打ちきられるまで捜索されていた。


 そして、軍の捜索もむなしくしばらく行方不明だった彼だが、ついこの前ボロボロに傷ついた状態で、街に帰還したのを発見されたらしい。

 ある意味私と同じ立場の人間だ。


 しかし彼の場合は、行方不明になってから今まで、約一年以上の記憶を失っており、会話の数も極端に減ってしまったとか。

 何らかのトラウマがそうさせているのだろうと結論付けられ、仕方がないのでしばらく軍を休業していたと聞くが────


「もうよくなったんじゃねぇの?

 そういや一昨年の本選出場者だぜ、アイツ!!」

「いや────」


 違う。彼はアーロじゃない。

 もう見えなくなったが、確かに私の記憶に焼き付いた彼の全てが、アーロという男性ではないと告げている。

 そんなただすれ違ったことのあるような人間じゃない。


 彼は、間違いなく私のよく知っている人物で────


「私、あの人に因縁があるんです……」

「なんで?」


 私はただ、彼の歩いていった方を見つめることしか出来なかった。

 もう、彼の姿はアリーナの周りを歩く人々の一部になってしまい、追うことはできないけれど────


「って、彼アリーナから出てきましたっ?」

「え、そうなんだろ、多分。アイツまだ5年目だからな。

 大会出るんだろうな、ワクワクするじゃんか」

「そんな────」


 アリーナから出てきたから大会参加。

 そう安易に決めつけることはできないが、ここに集まる軍人と言えば、私のようなつきそい以外、大会エントリーしか考えられない。

 そして、大会にあの人(・・・)が参加する意味と言えば────まさか。


「クレア……私、大会出ます……」

「は!? マジかよ!!?」


 ほぼ絶叫に近い声で、クレアが叫んだ。

 周りからの目など、あまり本人には関係ないらしい。


「えええ、エリーが大会参加!? しかも自分から!?

 言っただけで絶対に参加しねぇと思ってた!!

 嘘じゃねぇよな……てか嘘だよな!?」

「今年の、『ルーキーバトル・オブ・エクレア』に、私も、参加します。

 私にも今、目標が出来ました。今から参加応募してきます」

「えええぇ……いいけど、いいのかよ……?」

「先に決起集会は行っててください」


 唖然とするクレアを尻目に、私はアリーナへと歩く。

 いいか悪いかで言えば、悪い。


 でも、やりたくないとか面倒くさいとか、そういうものを差し引いても、私はなんとしてでもこの大会で勝たなければならなくなった。

 勝って、この3年間の因縁を、断ち切らなければならない────


「やるからには、本気を出します」

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[一言] 3年間の因縁…wktk
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