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11.冒険者登録

 町というには少し閑散としていて、村という方が近い町――《フラフ》。

 自然に囲まれた豊かの地であり、この町で育ち冒険者となる者もいる。

 この付近には強力な魔物が出る事はあまりないことで知られていたが――


「お待たせしましたっ」


 ギルドの受付の女性――エルが元気そうに戻ってくる。

 髪は三つ網にして、濃い目の緑色を基調とした服にエプロンというような格好だった。

 待合室ではエリシアとモーゼフ、そして窓の外をそわそわと見つめるナリアがいた。

 ギルドの中も閑散としていて、数人の冒険者らしき人物はいるが浮かない顔をしている。

 依頼もあまり受けられていないようだった。


「新規の冒険者登録、完了しました。えっと、エリシア様とモーゼフ様で、よろしいですね?」


 エリシアはちらりとモーゼフの方を見る。

 モーゼフは頷く。

 エリシアはそれを見て、


「はいっ」


 はっきりとエルに向かって答えた。

 モーゼフも冒険者として登録することにしたのだ。

 エルから渡されたのは銅でできたプレートだった。

 プレートには数字で『3』と記載されている。

 ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、オリハルコンという五種類のプレートが存在しており、それを三段階にわけたのが冒険者としての階級である。

 オリハルコン級といえば、それこそ大陸を救う英雄とまで言われる存在ばかりだろう。

 モーゼフにもそういう知り合いが別の大陸にだが存在している。

 こうして冒険者となることは、賢者であるモーゼフも想像していなかった。


(人生何が起こるか分からんのぅ。まあ、もう死んどるが)

「わたしもそれほしいっ」

「えっ?」


 ナリアがエリシアとモーゼフが受け取ったプレートを見てそんなことを言い出した。

 エルが少し困った顔をしながら、


「ごめんね、冒険者にならないと渡せない決まりなの」

「ええ!? じゃあわたしも冒険するっ」

「こらっ、遊びでやってるんじゃないんだから」


 また、ナリアがエリシアから注意される。

 冒険者になるには、エリシアでもギリギリの年齢だった。

 子供が好んでなれるものではない。

 ナリアが頬を膨らませて少し怒った表情になる。


「わしのでよければ持っておきなさい」

「えっ! いいの?」

「ほら」


 ナリアに手渡すが、ナリアは迷ったような表情をしていた。

 いつもなら喜んで受け取るものだが。


「どうしたんじゃ? 嬉しくないのか?」

「だって、これ一つしかないんでしょ? モーゼフの分がないよ?」


 いつも『ゆーふく』を要求するが、それはモーゼフがたくさん持っているからいいという考えなのだろう。

 このプレートは一つしかない。

 だから、もらっていいものか悩んでいるということだ。


「ほっほっ、そんなことは気にせんでいい」


 ちらりとナリアがエリシアの方を見る。

 エリシアも、モーゼフの考えをくみ取ってか、しょうがないというような表情で頷いた。


「わーいっ! ありがと、モーゼフ!」

「ほっほっ、よいよい」

「ふふっ、仲よさそうですね」


 エルが笑顔でその様子を見ていた。

 だが、すぐに表情が暗くなる。

 他の冒険者達もそうだが、ギルドの人間も浮かない顔をしていた。


「……何かあったんですか?」

「あ、いえっ……そう、ですね。本当はギルドとしては冒険者さんに残ってもらいたいんですけど、ここではもう依頼を受けるのが難しいと思います」


 それは冒険者を始めようというエリシアにとって予想外のことだった。

 思わずモーゼフとエリシアが顔を合わせる。


「どういうことじゃ?」

「ここ最近、凶悪な魔物が現れたとかで森の方が王都からやってきたとかいう討伐隊に封鎖されているんです」

「討伐隊じゃと?」

(はて、そんなものはいなかったが……)

「凶悪な魔物というのはどのようなものが森にいたんですか?」

「それが、本来なら魔導師が作り出さないと生まれないはずの《キメラ》が森の中に現れたとかで」

「えっ!? それって――」


 エリシアがモーゼフの方を見るが、モーゼフは手で制止する。

 まだ話すな、という意味だった。


「なるほどのぅ。それで、その討伐隊が依頼を受けていると」

「はい……でも、依頼もほとんど討伐隊が受けることになっちゃって、森の中のキメラの対策もあるからとかで、町にもどんどん対策費がかってしまっていて。ギルドの方も困窮しているんです」

「……そういうことか」


 冒険者達が浮かない顔をして出ていったのは、ここではもう仕事があまりできないからだった。

 まだ残っている冒険者達も、近いうちに出ていってしまうのかもしれない。

 ここでは仕事がほとんど受けられない状態だから、だ。


「爺さん、それに若い娘も連れて……こんなところまで来てもやることなんざねぇよ」


 話を聞いていたらしい冒険者が、酒を飲みながらそんな風に言うのが耳に届いた。

 モーゼフはそちらの方をちらりと見る。


「ほっほっ、お気づかいどうも。しかし、キメラが相手ならばお前さんも協力すればよいのでは?」

「協力……? はっ、そもそも俺らじゃ太刀打ちできるわけがねぇ。すでに何人も怪我をして運ばれてんだ。何であんな森の中に住み着いてるのかしらねえが、いい迷惑だよ」


 ふてくされたように酒をあおる。

 モーゼフはその様子を見て、再び考える。

 だが、一先ずは宿の方へと戻ることにした。


「モーゼフ様、どうしてキメラを討伐したことを言わなかったのですか?」


 エリシアが疑問に思ったことを口にする。


「ほっほっ、言ったところで信じるかも分からん。それに、キメラがいたという事実は変わりないからのぅ」

「……?」


 モーゼフは森の方を見つめる。

 門番の言っていた、『派遣されてきた方』――それは、王都からの討伐隊を名乗る者が、本来守っているはずだった。

 だが、モーゼフが森の付近にいた限りではそんな人々はいなかった。

 つまり、どこかには陣取っているかもしれないが、そもそもキメラの対策などしていないことになる。


(まずは様子見といったところかの)


 モーゼフ達はそのまま帰路につく。

 初日は冒険者として登録しただけで終わった。

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