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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第五章】第一節:王城にて(第五賭:対経理文官、対兄)

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第39話 文官探し



 彼女の疑問も、尤もだ。

 私がこの部屋を空ける事など、彼女がここに来る前にも後にも、滅多にない事だったのだから。


 しかし私には今、やるべき事がある。


「王城に行ってくるわ。用事を済ませに」


 詳しくは語らなかった。

 それを聞いた彼女が何を思ったのかは、分からない。


 しかし彼女はいつものように「分かりました。お二人の事はお任せください!」と、胸とドンと叩いて請け負ってくれる。


 そんな彼女がいてくれるから、私も安心してここを空けられる。


「ありがとう、アン」


 そう言って、私は部屋の外に出た。




 厳密に言えば後宮も王城の一部だけど、私が先程言った『王城』とは、王が住まう建物であると同時に、様々な執務を行う文官たちが仕事をする場の事である。


 城には王の居室だけではなく、パーティーホールや城内の衣食住を支えるための部屋の数々、国庫があり、政務に関わる文官たちが仕事をするような部屋がある。

 もちろん騎士団の駐屯所や訓練所もあるが、それらはそれぞれ別の建物で、それに対して文官たちの仕事場が王の居室と同じ建物内に存在するのは、単に執務における利便性の問題らしい。


 とはいえ流石に文官の誰もが、王の居室の傍に行ける訳ではない。

 一般文官と、陛下や私の父である宰相などが仕事をする場所は明確に区分けされており、そういう場所には特定の人間しか立ち入りが許されない。


 兄も宰相補佐として、必要に駆られて上層部側の区画で仕事をしているけど、今回私の用があるのは、そちらではなく一般の方だ。



 私が王城に来たのは、人探しのため。


 ロディスとリリアの味方になってくれる人間を探す。

 そのために、心当たりのある人を探している。


 その人は、一言で言えば『正義の人』。

 時戻り前には、その潔癖さから上司の不正に言及し、閑職に追いやられていた人だった。



 私が時戻り前に彼と会ったのは、今から半年くらい後の事だ。

 だから今彼がどこでどの仕事に従事しているのかは、正直な話、定かではない。


 探したところで彼が私たちの、ロディスとリリアの味方になってくれるかも分からない。

 しかし、会ってみない事には始まらない。

 そう思い、とりあえず動いてみる事にした。



 ……正直な話、リリアが生まれてまだ三か月しか経っていない現状で彼に接触するべきか、悩みはした。


 彼に接触するという事は、早ければ今日からでも彼に仕事を与え始めるという事だ。

 そのためには少なからず、私が動かなければならない。



 誰にとっても、時間は有限だ。

 私が何かを始めれば、その時間を今までに費やしていたどこかから捻出しなければならない。


 睡眠時間は、ルリゼとの約束で削れない。

 そうしてしまう事はできるけど、下手に陛下に報告されてリリアを取り上げられる事が最悪の事態だ。


 そうなると、必然的にロディスとリリアと過ごす日々から、時間を捻出する必要が出てくる。



 そんな事をするよりも、ロディスとリリアの傍にいてあげた方がよいのではないか。

 そうも思ったけど、リリアとロディスを守るためには力が必要だ。

 

 少なくとも現状はまだ問題ない。

 側妃に目立った動きもないけれど、いつ状況が変わるかは分からない。


 そうなった時に力不足では、結局時戻り前の二の舞だ。

 それは絶対に侵してはならない失敗である。



 そういう危機感がこうして私を、「なるべく早く味方を増やす事」に駆り立てる。


 ……いや、落ち着いて。

 気付けば早足になっていた自分に気が付き、一度立ち止まって深呼吸した。


 交渉事に、焦りは禁物だ。


 たしか「誰だって、慌てて話す人の言葉に説得力も頼りがいも感じないでしょう?」だったっけ。

 そんなふうに、母の教えを思い出す。


 私も誰かについていくのなら、頼りになりそうな人についていきたい。

 ならまずは落ち着き、心に余裕を持たなければ。


 私は彼を知っているけど、彼はまだ私という人間を知らない。

 初対面の印象は、特に大切なのだから。



 彼が今どこで働いているのか分からないとはいえ、何も完全な闇雲で城内を歩いていた訳ではない。


 彼が時戻り前の出会いの時に言っていた、かつて所属していた職場――国の財政についての事務処理をする部署・経理文官室。

 そこですぐに彼を見つけられるという希望的観測は、望み薄な賭けだと思っていたのだけど。


「いた」


 廊下から、半開きになっている扉の中が少し見える。

 そこに私の探し人――私の記憶の中と変わらぬ、少し釣り目のいかにも几帳面そうな人がいた。



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