第6話:恋の無駄骨2
ξ˚⊿˚)ξ <本日3話目。今日はここまで。
明日多分短めの2話で完結ですの!
マーガニスは地面に剣を叩きつけて激昂し、オリーヴは溜息をついた。
「……ああ、なんと愚かな。ここは互いの健闘を称えるところだよ!イスパーナの王子は神聖なる決闘を汚す恥を晒したと語られるぞ!」
「黙れ!こんなものが決闘と認められるか!」
オリーヴは困ったものだと肩を竦める。
そこに可愛らしい声が響いた。
「オリヴィエ!」
観客たちが左右に分かれて道を作る。アドリアンだ。そこを急ぎ足で歩き、最後は駆け足でオリーヴのもとへ。
取り出したハンカチで傷口を押さえる。
「なんと危険なことを!」
「大丈夫、かすり傷だとも」
「そういうことを言ってるのではありません!」
ぷくりと頰を膨らませて不満を顕わにする。
つきり、とマーガニスの胸が痛んだ。
「それで、何を揉めていたのです」
「王子様はボクが決闘に勝ったのに納得がいかないのだそうだよ」
キッとマーガニスに振り返る。
「いや……なんだ。女性には分からないかと思うが、このおもちゃのような剣での戦いなど決闘として認められんのだ」
「なるほど。女には分からないですか……」
剣呑な雰囲気を漂わせ、ゆらりとアドリアンが立ち上がる。
「アドリエンヌ!君がそんなことをする必要は無い!」
「オリヴィエは黙ってて!」
「……はい」
白いレース編みの手袋を脱ぎ捨てると、マーガニスに叩きつけた。
「な、何をアドリエンヌ嬢」
「決闘ですよ。ボクが分からせてさしあげます。
ボクが勝ったら今の決闘の条件を呑み、オリヴィエに謝罪なさい!」
アドリアンは決闘を最初から見ていない。
だがオリーヴが不利な決闘を受けたと言うことは勝っても負けてもこちらの都合の良いような話になっていると確信しての言葉であった。
「お転婆な。だがそういうところも愛らしい。お受けしよう。だがこのようなおもちゃの剣で戦わされては困る」
武器や決闘方法の指定は基本的に決闘を受けた側に権利があるのだ。
「武器はあなたの腰のもので構いませんよ。サーベルですか?こちらも自由で良いならば」
「ふっ、刀剣の類であれば構いませんよ。代闘士は誰です?」
武門の者ではない貴族や、特に女性が決闘をする場合は本人ではなく代理の者、騎士などに決闘を行わせることが一般的である。その女性のドレスの袖などを身に飾って決闘に臨むのは騎士の本懐とも言えよう。
だが……。
「代闘士?ボクが出ますよ」
アドリアンは男である。
比較的短めのレイピアを友人から借り受け、前に出る。
「危険ですよ。遊びではない」
アドリアンは剣を抜き払うと顔の前に立てた。
「こんな見た目ですが、剣も扱えぬと思われては困ります」
マーガニスが腰の剣を抜く。少し反りのあるサーベル。護拳の部分は黄金で、瞳が金剛石の獅子が浮き彫りになっている。刀身も中央に宝玉のはめ込まれた宝剣。
アドリアンも剣を構えた。それを見てマーガニスは感心する。
――剣先にブレがない。
いくら細身とは言え剣とは金属の棒だ。それを静止させるだけで研鑽がいる。素人ではない。
手の甲を上にした構え。手首の内側に柄頭を当て、梃子の原理で剣を持つ。非力な者の構えだ。
「良いか?始め!」
「やあっ!」
アドリアンが高い声で気迫を込めて突きかかる。素早い動き。だがマーガニスはそれを落ち着いて捌いていく。先程とは異なり、こちらから突きかかることはしない。
――アドリエンヌ嬢の珠のような肌に傷をつけるわけにはいかないからな。
数合の剣戟の後、マーガニスが力を込めてアドリアンの剣を上から叩いた。
「ああっ!」
アドリアンが可愛らしい悲鳴を上げた。剣を取り落としこそしなかったが、手首の内側に痛みが走ったはずだ。
「そのような細腕でイスパーナの男に勝てると思わないことですな。降参したまえ」
「まだです!」
そう言って飛び退く。
肩を竦めるマーガニス。
アドリアンは構えを解くと、レイピアを左脚の脇、ショコラブラウンのスカートの上から地面に突き刺した。
そしてその場で反時計回りにターン。剣に沿ってスカートが、その下の白のパニエが、精緻な貝状のレースごと左腰から裾まで裂けていく。
「何を!?」
上がる悲鳴と歓声。
アドリアンは正面に向き直ると脚を開いて立つ。純白の脚が、それを包む紫がかった桃色のタイツとそれを繋ぎ止める翡翠色のガーターが露わになった。
アドリアンは露わになった左脚の腿に左手を添える。
「マーガニス殿下、お覚悟を」
脚に括り付けられていたのは柄が緋色に装飾された細身の刺突短剣。レイピアを使用する際、左手に扱うことのある防御用短剣とは異なる、殺人のための道具。
前へ出る。さらに前へ。
右前の構えではなく、左も利用するための正面から相対するような構え。
つまり動くたびにアドリアンの純白の太腿が、艶かしい色のタイツが覗くのである。
さらには翡翠のガーターベルトが、破れたパニエが。その内に何を隠しているのか期待させる。
マーガニスの剣が明らかに鈍った。
だがそれでも腕力の差、サーベルがレイピアを絡め取って弾き飛ばす。
マーガニスの勝ちか?
否。アドリアンは緋色の刺突短剣をマーガニスの首に突きつけている。磨かれた先端が彼の首の皮膚を傷つけ、血が盛り上がっている。
からん、と跳ね飛ばされたレイピアが地面に落ちる音が響いた。
「そこまで!」
見届け人がアドリアンに向けて手を上げる。
「勝者!アドリエンヌ・シャンパルティエ!」
おおおと野太い歓声が上がった。






