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コボルト編②

一人一人が暗殺者。

そんな暗殺一家との行軍は、足音が面白い。


―――タッ......タッ......タッ......タッ......


聴こえてくるのは一つだけ。

つまりルディ&ルダムは魔法を使わず、唯俺一人が大地を踏み鳴らしている。

真似ようとも、届かない。

圧倒的な静音。


「ふん、ふっふっふ。.....もういいや。でもさー、護衛係だったらワイトでも良かったんじゃないの?」


俺は地団駄を踏み鳴らしながら愚痴る。


「ワイトがよかったなぁ、会いたいなぁ!」


筋骨隆々。

俺の初代御守りさんと言えば、ワイトであった。

アイツは俺に対して穏健派。

殺されないという安心感がある。

今のところは。


「あぁ、そのことね。言ってなったけど、ワイトはキリエの大幹部なのよ。それでもってアレクサンドロス姓でもあるから、今はジン教授にめっちゃ命を狙われている。」


前言撤回。

冷汗がドッと出る。


「ほ、ほぼ.....レイチェルじゃねぇか・・・!!」


「色々あるのよ。アザナンズは色々な組織にスパイを潜り込ませているの。アブソレムが魔術学院の助教授として在籍しているのも同じ理由。」


「へっ、へぇ~。それ俺に言っていいの?」


「もちろん!再三忠告しているけれど、1でも10でも情報を漏らしたら殺すから、1でも10でも教えてあげるの。むしろ沢山知っていた方が殺しやすいわ。私たち、殺す前とか殺した後って、リンギ書を書かなくちゃいけないから。というか私たち、そのための友達でしょ?」


「そんな友達いねぇってば!」


俺が身を仰け反ると、アリスは不思議そうに首を傾げた。


「.....おっと、そこまでだよアリス。」


チェシャがジメっと割って入る。

流石に知られちゃいけないことでもあったか。。。


「私の魔法は水に関するもので遠距離に干渉できる優れものだが実は近距離戦に強くて中距離戦に弱い、絶対漏らしちゃダメだよ。.....よろしくね。」


「殺す気満々だ!!」


顔を近づけてニタリと笑うチェシャの手を払いのけ、俺は双子を盾にする。


――ジリリ。


コチラをゆっくりと向く双子の顔。


『食ベチャウゾォオオオオ!!!!』


バケモノのように野太くなる双子の声。


「ひぃぃイイイイイ!!!」


縮こまる俺を二人は笑う。

悪魔どもめ!!

全員大嫌いだ!!


「ハハハハハおもしろ~い!!」


この小悪魔さんめ!!

食べちゃうぞ!!


俺は笑う双子を追い抜き先頭のアリスと並列で歩く。


――ペチッ。


揺蕩う音。

それを踏ん付けた右足がピンと張る。


「おあっ、、、靴紐が.....」


行軍がその場でピタリと止まる。

アブソレムは呆れた様に溜息を吐き、俺を持ち上げる。


「なになに?」


え、殺される?

そんな勢い。

誰も喋らない。

それからアブソレムは俺の靴紐を結ぶ。


「安い靴を履いているのか。」


「まぁ、.....それなりに。」


「そうか。」


土に膝を付き。

その指は、器用に手早く紐を結んだ。


「良い靴を買った方がいい。特に、我々と歩くときは。」


キュッと結ばれた紐は、二度と解けない事を誓うように小さい玉を作る。

それは繊細で逞しく、蝶が羽を広げている。


「ありがとう。」


イメージとの相違。

靴紐が解けた奴など、鼻で笑われ全員が置いていく組織だと思っていた。

俺達は行軍を進める。

その歩みを揃えるように。



しばらく歩いても考えていた。


―――タッ......タッ......タッ......タッ......


不思議だった。

俺はアズナンズが分からなくなった。

人を殺している癖に、暖かい奴ら。

不思議だ。

しかし.....不思議とは未知である。

それは無知でもあり、理屈さえ暴いてしまえば唯の単純な合理に成り下がる。その時の俺はきっとそれを知らなかった。


「おっと。」


その声と共に足音が一つ増える。


『 右の靴紐が解けた。』


俺は声の主であるアブソレムの方を振り返る。

ニタニタと笑いながら。


「え~.....」


『――私が結ぼう。』


「私が、って。自分の靴紐くらい.....ってぇっ、え」


隙あらばと口を開く俺をアリスが引っ張った。

瞬間。

全身に吹き込むように濃霧が現れる。


「えっ、えっ、なに?」


アリスが俺の手を引く。

視界は冷たい真白な霧。

ホワイトアウト。


「何だコレっ、ケホッ、ケホッ!!敵?」


――何も見えない?

――なーんにも?


「なにっ、ディーダム?見えない、見えない!!」


頭の中に声が聞こえる。

アリスの手も感触が消える。


――大丈夫。

――でも大丈夫だよ。


まるで台風の中にいるかの様。


――しっかり数えて。

――信じて数えて。


「え?」


――左に八歩、


「左にハチぃ?」


――右に四歩、――やっぱり前に九歩、――左に十六歩、――右に三十二歩、――左向いて二十四歩、――ほら頑張って。――あと少し頑張って。――分からなくなった?――あと十二歩、――十歩、――九歩。――八歩、――七歩、――六、――五。――四、――三。――ニ、――一。――ついた~、。!!――それじゃあしゃがんで。――息を吸って、――ゆっくり吸って。――大きく吸って、――スゥ~っと吸って。――ゆっくり止めて、――息を止めて。



坂を上り。

濃霧が晴れて。

景色が広がる。



『クヴァァアアアアアアアアゥトッ、フェスティバァァアアアアアゥッ!!!!!!!』



三本足の小さい奴ら。

俺の瞳に映るのは半裸の悪魔たちの群れ。

広い耳に卑屈な猫背。

そして深い森に擬態するようなグレーの肌。

焚火の前には鎧を着た兵士の死体が磔にされていた。


「頭を隠して。」


アリスの手が俺の頭を抑える。


「アレが.....?」


怪人カイジン型モンスター属、ウェスティリアフォレストアルターモンク。」


チェシャがニヤリと笑い、顔を見合わせる俺とアリスの間で双子が頭を出す。


「君の探してた、ゴブリンだよ。」



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