カカオットの形
ロッテは会計台に頬杖をついて外を眺めていた。行き交う人はいるのに、やはり店を覗こうとする人はいない。
「だぁれも来ない……」
わざと言葉にして溜息をつく。
そして、カカオットを買ってくれたあのお客さんを思い出す。
上手く気持ち伝えられたかなぁ……。
とても綺麗な人だった。聡明そうで、優しそうで。だけど、なんだか恋愛関係には不器用そうだと思った。だから、丸い形と言い換えた時に「素直になれない人なのかなぁ」とも思った。
だけど、話を聞くとただ自信が持てないだけなのかもしれないと思うようになった。だって、彼女の話しぶりは絶対に『好きな人』へ対するものだったんだもの。
「きっかけになってれば良いんだけれど……」
もちろん、列車の中での出来事をロッテは知らない。
ただ彼らが幸せになれば良いなと思ったのが余計なお節介になっただけで。
ロッテは相変わらず頬杖をついて窓の向こうを眺めていた。みんな忙しそうに歩いている。
覗いてくれたら、ちょこっと味見させてあげるのに。絶対に美味しいのに。絶対に、幸せな気持ちで癒されるのに……。
溜息一つ。
みんな見慣れないものには興味がないのだ。さらに、見慣れないものを口にするのには勇気がいる。一歩踏み出してくれれば、絶対に気に入るのに……。
店の前に花を飾ったこともある。割引中の看板も出したこともあるし、店内にて試食ありも書いたことがある。店の外に出て配ったこともあるが、誰も手に取ろうとしなかった。
「こんなに色の悪いもの食べられるか」と投げられたこともある。
悲しくなった。二度とこいつにやるもんかとも思ったが、それ以上どうしようもなく払われたカカオットを拾い上げることもあった。
それに、あまり良く思われないものを積極的に売り出そうとすれば『魔女』認定されるかもしれない。そうなれば、二度とお客さんが来なくなるかもしれない。
こんなに素敵な食べものが魔女の食べものとして食べられなくなるのは、何よりも悲しい。
だから、ロッテは会計台から外を眺めて、中に入ってきてくれた人に最善を尽くそうと思っていた。だから、あの時、あの人が来てくれて本当に嬉しかったのだ。
「あ」
見かけたことのある人が店の前に立った。あの時のお客さんの付き人さん。入ってくるのかなぁ。そんなことを思いながら、頬杖を外しじっとその様子を眺める。
背が高く、ガタイの良い男性だ。カカオットのイメージとは全くかけ離れている雰囲気を持つけれど、もしかしたら気に入ってくれて……。
「あ」
扉が開く。
「いらっしゃいませ」
ロッテの口からは間の抜けた声が出た。しかし、その男性は真っ直ぐロッテに近づいてきてこう言った。
「この箱を5つ頂きたいのですが……」
「えっ」
その数に驚いていたロッテに男性がさらに言葉を続ける。
「あと、この店の名前と場所、貴女のお名前を箱に書き込んでおいてください」
「えっ? なんで?」
意味が分からないロッテに男性が柔らかい微笑みを浮かべた。
「リディアス王にお渡ししようと思っています。もし、リディアスの文字が書けないのであれば、代筆もしますけど、ご自分でお書きになられた方が良いと思いますよ」
ロッテはその言葉に腰を抜かしそうになりながら、どう答えれば良いのか一生懸命考えた。
「えっと、あの、その……形は? カカオットの形は? 何にしましょう?」
すると少し意地悪そうに口角を上げたその男性が「では、以前貴女が仕込んだ形。ハートの形で揃えてください」と言った。
『ショコラロッテのカカオット店』
グラクオス5番通り奥へ進む左手
店主ショコラロッテ・イーバン
震える手で書かれた少し歪なリディアスの文字。
綺麗なブルーのリボンに包まれた箱の中にはたくさんのハートの形が並べられていた。














