本格始動
「えー…すみません、ご迷惑をお掛けしました」
お腹の方も無事に落ち着いたので、先ずは皆に謝っておく。
時間的に遅れが発生した訳じゃないが、俺の回復待ちだったことは事実だから。
「一成は悪くない。私がもう少し量を減らしてくるべきだった」
「いえ、それを言うなら、一成さんのペース配分を上手く調整できなかった私が」
「あの、俺が無茶をしたのが原因だから、二人は別に…」
事実、二人のお弁当だけなら何とかなった話なので…寧ろ原因は、最後のラッシュで俺が無茶をしたという一点に尽きる。
沙羅さんと花子さんが悪いなんてことは絶対に無い。
「はいはい、それを言い出したら、高梨さんに無茶をさせた私たちにも責任がありますよ。ですから、もう誰も悪くないってことにしましょう」
「賛成~」
「そうですね。高梨くん、ごめんね…」
「分かった。でも私は一成の姉として、皆より責任が大きい」
「それを言うなら、一成さんの婚約者である私こそが…」
「だぁぁぁ、蒸し返すなっ!!」
「「すみません…」」
沙羅さんと花子さんが揃ってションボリとする光景は、珍しいなんてものじゃない。
でも今回の件は、誰が何と言おうと一番悪いのは俺なんだ。だから、沙羅さんと花子さんにそんな顔をして欲しくない…
「ほら、二人がそんな顔をしていると、高梨さんが自分を責めてしまうわよ?」
「っ!? 一成さん、申し訳ございません。私としたことが…」
「一成、ごめん。もう言わないから」
「うん。ここは西川さんの言う通り、誰も悪くないってことで」
二人がそれで納得してくれるなら、取り敢えずそういうことにしておこう。
やっぱり俺が…と思わない訳じゃないが、いつまでも責任を追求したところで、これは誰にも得のない話だから。
「一成さん…」
でも沙羅さんは少しだけ意味深な表情を見せると、俺の右手をそっと手に取る。
そのまま両手で包み込みように、優しく握ってくれた。
結局…読まれちゃったかもな、これは…
「ほらほら、仲がいいのは分かったから、ボチボチ行くよ。大地はどうすんの?」
「私の担当は別だから、ここで失礼するよ」
少しだけ…いや、かなりか?
名残惜しそうではあるけど、残念ながら、これ以上は一緒に行動する大義名分が無い。
上坂さんは、あくまでお昼の特別ゲストってだけだったし、これはあくまでも仕事の一貫だから…仕方ないか。
「西川さん、久し振りに色々と話が出来て、本当に楽しかったよ」
「いえ、私の方も、ありがとうございます」
西川さんのお礼は、さっきの闇堕ち回避に繋がったフォローに対して…かな?
でも俺から見る限り、少なくも最初にテントで顔を会わせたときのような、赤の他人に対する愛想笑いはしてない様に思う。
少しでも評価が上がっているといいですね…上坂さん。
「別にこれで終わりって訳じゃないでしょ? まだ後で合流できるかもしれないし、そもそも明日もあるんだから。ねぇ…大地ぃ?」
夏海先輩がニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべながら、二人の会話に割り込む。
自分の事になると弱い癖に、相変わらず人の恋愛事については積極的に絡むようで。
「そうだな。もし機会があれば…迷惑じゃなければ、またご一緒させて貰えると嬉しい」
でも上坂さんは、余裕すら伺える応対。
最初にオタオタしていた姿とは別人に見える。しかもチラチラと、西川さんへ視線を向けてるし。
「ええ。明日もまた予定が合うようでしたら、お昼をご一緒しましょうか」
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
「今日はバタバタしててあまり話が出来なかったんで、次こそは夏海さんの話を聞いてみたいですね」
「はは、そうだね。私も橘くんとは話をしてみたいかな。夏海のことは色々と…」
「あー、もー、あんたらうっさい!! いいからさっさと行け!!!」
結局は自分をネタにされて、夏海先輩がキレてしまう。
この二人に掛かってしまえば、流石の夏海先輩も形無しだ。
でも…俺は俺で、上坂さんとは色々な意味で仲良くしたいと思うから、こういう機会は素直に大歓迎。
「それじゃ、夏海がこれ以上騒がしくなる前に退散するよ。もしタイミングが合えば、また後で」
そう言葉を残し、こちらに手を振りながら上坂さんが遠ざかって行く。
何となく西川さんの様子を伺ってみると…
うーん…まだ普通っぽいね、これは。
「さて、すみません、出発前に…」
「ええ。絵里がお世話をしてあげたら、この子達も喜ぶでしょう」
「そうだと嬉しいですね。それじゃ…」
西川さんが今からやろうとしていることは、勿論俺達だって忘れていない。
これは大切な日課の一つだから。
そして…
楽しそうに笑う西川さんと一緒に、俺達は予定時間ギリギリまで、いつもよりも丁寧に花壇のお世話をすることにした。
………………
「さぁ行きましょう!!」
「張り切ってるね、満里奈」
「えへへ、だって、皆で学祭を回れるんだよ? 昨日は楽しみで寝る時間が少し遅くなっちゃったし」
「俺も昨日は同じだったよ」
「そうだよね、やっぱり一緒だよね!?」
「うん」
楽しそうに笑いながら、二人で顔を見合わせる速人と藤堂さん。やり取りや会話が微笑ましすぎて、思わずこちらまで笑顔になってしまう。
「夏海さん、良かったら…」
「イヤ、断る!」
「…まだ何も言ってませんが」
「分かってるから断ってんのよ! その、そういうのは…二人のときに」
「ふふ…了解です」
「くぅぅぅ、その余裕の表情がムカつくぅぅ!!」
あっちはあっちで相変わらずなようで。
でも…正直に言うと、雄二がマウントを取るなんて、ちょっと意外な関係になったようにも思えた。四人でプールに行ったときの姿を考えれば、振り回される姿しか想像出来なかったのに。
まぁ夏海先輩が想像以上に乙女だったことと、雄二が想像以上にSだったことが原因…
「さて、それでは行きましょうか」
「そうね。取り敢えず、沙羅が先導を」
「いえ、私は一成さんの横を歩くと決めていますので」
「はぁ…そうなのねぇ」
いや、そんなウンザリ気味に言われても…
でも横を歩く…か。
何となく思い返してみると、以前の沙羅さんは、常に俺の少し後ろを歩くように位置取っていた。話し難いから横に来て貰ったんだけど…今にしてみれば、あれは何だったのか?
「それなら話は早い。一成を先頭にすればいいだけ」
「そうですねぇ、もうそれでいいですよー」
「リーダーが先頭~」
「うん、高梨くん頑張ってね」
「一成、宜しく」
「高梨くん、張り切って行こうか」
「任せたぞ、一成」
何も歩く順番くらいで大袈裟な…と思わないでもない。
しかも無駄にプレッシャーを与えられているような気もするし、単にからかわれているだけって感じもある。
ただ、これはリーダーがどうの…とかじゃなくて、上手く言えないけど、俺もこんな風に皆と笑っていられるのが本当に楽しくて。
だから…
「さぁ一成さん、お仕事の時間ですよ♪」
「一成、行こう」
「それじゃ…皆、行こうか」
「「「おお~!!」」」
さぁ…張り切って行こうか!
遂にこの時が来た、いよいよ皆で学祭に乗り込む時間だ!
………………
………
…
「…ちょ、な、何だよ、このグループ!?」
「…会長と副会長、W天使に…」
「…テニス部の横川と、夕月先輩…」
「…あの人、誰だ? 薩川先輩に匹敵するぞ…」
「…うぉぉぉぉ、三姫キターーーー!!!」
「…もしもし!! 早く一階降りて来いって!! 西川さんまで来てるぞ!!」
うーん…これはちょっと、何と言うか…
「え、えーと…」
「これは流石に…」
「落ち着かないねぇ…これは」
予想は勿論あったが、進めば進む程に騒ぎが大きくなってきているような…いや、「ような」じゃなくて、明らかに大きくなってるぞ、これは。
一般のお客さんなんか、騒ぎの理由がわからないだろうからポカンとしてるし。
「あー…やっぱ私だけ地味ですねぇ」
「いや、俺も似たようなもんだ。そもそも、この学校の生徒じゃないから仕方ないだろ?」
「そう言われればそっか。でも、これは凄いわ…しかも、満里奈ってば天使とか呼ばれてるの?」
「そ、そんなの知らないよぅ…」
恥ずかしがり屋な藤堂さんが、早くも顔を真っ赤にしていて…微妙に速人の影に隠れてしまう。そんな姿を微笑ましそうに、速人が…スゲー嬉しそうだな、あれは。
「いやー、ここまで騒がれるの久々だねぇ」
「久々ってことは、以前もあったんですか?」
「まぁね。沙羅とえりりんの三人で行ったお祭りが、ちょうどこんな感じになってさ」
俺は以前にその話を聞いていたが、学祭でもここまで騒がれている状況を考えると…聞いていた以上に大騒ぎだったんじゃないのかと思ったり。
「はぁ…騒がしいですね。これでは、一成さんとの学園祭を楽しめないではありませんか」
「嫁、仕事も忘れないように」
「分かっていますよ。でもそれはそれです。一成さん、どの教室から参りましょうか?」
「一応空き教室の確認もありますから、この際片っ端から入りましょう。面白そうなところがあったら、そのまま寄る方向で」
「異議な~し!」
「時間配分も考えて、厳選した方がいいかもね」
「個人的には、元クラスメイトの皆さんと会っておきたいところです」
確かに、もともとこの学校に通っていた西川さんには、旧友も元クラスメイトも居て当然なのか。それなら、そこでは少し時間を使うことを考えた方が良さそうだ。
……………
………
…
沙羅さんと校内を歩いていれば、とにかく注目を集めるというのはいつものこと。
それ自体はもう慣れた(慣れたくないが)ことだとしても、今の状況はひと味…いや、そんなもんじゃない、もっと凄い。
今俺達が居るのは、三年生の教室が並ぶ、校舎の三階エリア。
そして三年生と言えば、この学校で一番在籍期間の長い生徒達であり…それはつまり、色々と「知ってる」訳だ。
「…うぉ、やべぇ、西川さん、スゲー大人っぽくなってるし」
「…ほんそれ。ランキング変動キマシタワー」
「…薩川さんと並ぶとシャレにならんぞ…」
「…ふぅ…まさか三姫を再び見れるとは…」
「…つか、他の男は何だよ? 副会長はまだ分かるけどさ」
西川さんが久し振りにこの学校へ来たことが既に知れ渡ってるようで、三階の廊下を歩き始めると直ぐに野郎ど…もとい、先輩達(男ばっか)が、教室のドアから飛び出してきた。窓を開けてこっちを確認してる連中も多いし、ちょっとした何かのホラー映画っぽく見えてしまう。
「はぁ…これは思ったよりも面倒なことになりそうです」
「そうですね…ちょっと想像以上でした」
普段は有象無象がどれだけ群れようと、全く歯牙にも掛けない沙羅さんも…これは流石にうんざりした様子。
相変わらずゴミでも見るような目付きで、目の前に広がってる気持ち悪い光景を眺めている。
「何でこうもバカが多いのか…」
俺の直ぐ後ろでボソリと呟いた花子さんも、多分、沙羅さんと同じような目付きになっていそう…
「一成さん、確認だけで済ます場所は、もうさっさと終わらせてしまいましょう。多少のことは覚悟の上です」
「そうですね。皆、一気に行くぞ」
「「「りょうか~い」」」
皆に声をかけると、俺は仕事の一環で来たということをアピールする意味で、わざと腕章を見せつけるように調整して見せた。
「生徒会の仕事だから、余計なことを話しかけてくるなよ」という牽制の意味もあるが、果たしてそれが通じるかどうか。
そしてチラリと横を見れば、沙羅さんも俺と同じように腕章を調整していて、後ろでゴソゴソしている音は、きっと花子さんも。
さて、どうなることやら…
……………
「このぬいぐるみは可愛いですね」
「でしょ? 私達の手作りなんだよ?」
「うう、これを撃つのは気が引けるかも」
「あはは、そう言って貰えると嬉しいような複雑なような」
人だかりさえ気にしなければ、一応は巡回も滞りなく出来ている。
「生徒会です」を必要以上にアピールしているせいか、今のところ、妙な声を掛けてくる連中が現れずに済んでるのがせめてもの救いだ。
そして現在、俺達は一つの教室で足を止めていた。
「良かったらやってかない? 生徒会のお仕事ご苦労様サービスするし」
「薩川さんの担当は俺が…」
「ちょっ、今は俺の時間だろ!?」
「西川さん、こ、こっちへ…」
「「「…………」」」
「ちょ、あんたら向こう行ってろ!!」
沙羅さんと西川さんと花子さんの合体攻撃!
「冷たい視線ストリームアタック」が炸裂!
慌てた女生徒達がバカ共を全員引っ込めた!
「ご、ごめんね。改めてどうかな…というか是非やってって欲しい!!」
何故か懇願に近いレベルで拝むように言われてしまい、皆と顔を見合わせてしまう。
そんな大袈裟な…とは思ったものの、先輩がチラリと向けた視線の先を追えば…成る程。良くも悪くも人だかりが凄くて、これを機にアピールをしたいのが本音か。
「私はやってみたい!」
「そうね、面白そうだから私も」
夏海先輩が参加意欲を見せると、それに釣られたように西川さんも名乗りを上げる。
でも俺は知っている、西川さんは最初からこれをやりたがっていたことを…そもそも、真っ先にここで足を止めたのが西川さんだったから。
「私は…」
そして沙羅さんが「私もいいでしょうか?」と、確認の視線を送ってきたので頷いておく。一応は仕事中だけど、俺の中では「集客に協力する」という意味で大義名分を作ってあるから大丈夫だ。
「では、私も」
「わっ、薩川さんもやってくれるの!?」
「やったね! 写メしたら即行で宣伝流す!!」
「…おい、三姫揃ってやるってさ!」
「…ちょ、そこどけって、見えねーだろうが!!」
「…前の方のやつら頭を下げろよ!!!」
「…うるせーぞ!!」
沙羅さん達が挑戦することなった途端、廊下から怒声と歓声混じりの大声が飛び交うようになって…これじゃ一般客が近寄れないような?
でもよくよく見れば、他校の制服組も混じってるのか。
「じゃあ、三人でそれぞれ、テーブルにある銃を持ってね」
「ほーい」
「はい」
「分かりました」
と言う訳で、今から沙羅さん達が挑戦するのはこれ…射的だ。
教室の中に用意された棚には、各自持ち寄ったであろう景品がズラリと並べられていて、その中には手作りだと言っていたぬいぐるみも混じっている。
そして俺達の目の前には長テーブルが配置されていて、その上には三丁のコルク銃(祭りでお馴染みのアレ)が。
「弾は五発だよ、頑張りな~」
受付(?)の先輩が、どこかで聞いたことがあるような無いような台詞を吐くと、小皿に乗せられたコルク弾が運ばれてきて、それぞれの前に置かれた。
微妙に本格的かも…
「おっしゃ、絶対に取ったる!」
真っ先に動き出したのは夏海先輩。慣れた手つきで銃を手に取ると、先にレバーを…分かってるな、アレは。
射的のコツの一つとして、先にコルクを詰めてはいけない。
レバーを引くのが先だ。
「それでは私も…」
西川さんも知ってはいるようで、銃の準備を始めたが…残念、先にコルクを詰めてしまった。でもこういう部分も楽しみの一つではあるから、敢えて口を挟むような無粋な真似はしない。
そして肝心な沙羅さんは…
「えっと…」
銃を持ってはいるものの、何もせずに少し困っているような。
これはひょっとして、射的をやったことが無いのか?
「さ、薩川さん、やり方が分から…」
「俺が教えてあげ…」
「ちょ、それは俺が…」
「結構です」
さっきから横で出番待ちをしていた先輩達(男)が嬉しそうに飛び出してきたものの…満足に喋ることも出来ず、全員バッサリと拒絶されてしまう。
しかも沙羅さんは興味無しと言わんばかりに顔すら見なかった。
「一成さん…」
そして目の前で固まっている三人をガン無視してこちらを振り向くと、少し困ったような表情を浮かべながら俺を小声で呼んだ。
そんな顔を見せるのは、可愛すぎてちょっとズルいです…
「…ん? 一成さん?」
受付のお姉さんが何かを呟いたような気がしたが、それよりも今は沙羅さんだ。
俺は沙羅さんの横に移動すると、持っている銃を一旦預かる。
「難しくないですよ。先にこのレバーを引いて、カチッって音がしたら、このコルク弾を…」
動きを交えて沙羅さんに説明しながら、何気なくコルク弾の確認をしておく。まだ新品のようで、弾には欠けが見当たらない。これなら特に気にすることはない。
「後はこんな感じで構えて…片目で狙いをつけて下さい」
「えっ、そんなに乗り上げてもよいのですか?」
「大丈夫ですよ。カウンターの後ろに足がついていれば問題ないです」
「わ、わかりました。頑張りますね!」
先程と打って変わって、嬉しそうな笑顔を見せてくれる沙羅さん。
本当はもう少しだけ攻めることが出来るんだけど、長いとは言え沙羅さんはスカートだから。しかも後ろには野郎共ばっかりだし、そういう要素は微塵も残したくない。
「…さ、薩川さんが、笑ったぁぁ!?」
「…うぉぉ、可愛すぎるぅぅ!!」
「…ちょ、ちょ、副会長と距離近すぎじゃね!?」
「…な、なぁ、あの噂って、マジじゃないよな?」
「…生徒会で一緒だから他よりは…ってくらいは聞いたぜ?」
「うん…と、ここを、引いて…」
俺の教えたことを確認するように、沙羅さんは声に出しながら一つずつ準備を進めていく。何となくハラハラして見てしまうのは許して欲しい。
そしてコルク弾を詰め終わり構えようとしたところで、沙羅さんはカウンターの向こうで固まったままになっている三人に気付いたようだ。
「邪魔です。退いて下さい」
「「「は、はい!!!」」」
凄く面倒臭そうにそれだけを言われ、ガックリしながら下がって行く三人。
沙羅さんはそれを無視して銃を構えた。
色々と向きを変えながら、照準の確認をしているらしい。
「沙羅、えりりん、準備はいい?」
「大丈夫よ」
「こちらも大丈夫です」
三人がお互いを目配せするように見合って頷くと…それを見ていた廊下の観客からから歓声が上がる。
「薩川さん、頑張れよ!!」
「に、西川さん、応援してるぜ!!」
「女神様~!!」
「夕月さーん!!」
「夏海ちゃん、ファイトー」
これは単に応援しているだけなのは分かっているし、悪気も…多分無いとは思う。
でもハッキリ言って煩いだけで、ぶっちゃけた話、もう邪魔でしかない。
それにあれでは三人が集中できない…だから、ここは俺が…
「すみません、静かに…」
「煩いですよ! 黙って見ていることも出来ないのですか!?」
ピタッ!!
……シーン
鋭い…余りにも鋭すぎる沙羅さんの一言が、廊下にいるバカ共を一斉に黙らせる。
ついでに教室内の先輩達まで黙らせてしまったようで、奇妙な静けさだけがこの空間に残ってしまう。
そして…またしても役に立てなかった俺…
「うひひ、沙羅ってば随分と気合いが入ってるじゃん」
「当たり前です。一成さんに教えて頂いたからには、例え何であろうと私は全力で行きます」
銃を構えている沙羅さんの顔には、もう笑顔も余裕も何もない。ただターゲットを撃ち抜くことだけを考えているプロのスナイパーのように…とても素人には見えない。
でも…やっぱり可愛い!!
「…な、なぁ…今さ」
「…しっ!」
「…いや、わかってるけど、でも今…」
「…静かにしてろよ。邪魔になるだろ」
「…そうだぞ、たかだか名前を呼んだくらい大したこと…」
「「「……………え"???」」」
「よーし、んじゃ改めて…せーの、で行くよ」
「了解です」
「わかったわ」
三人は頷くと、それぞれが狙っているであろうターゲットに向けて銃を向ける。
沙羅さんは俺の言った通りに大物は狙わず、伸ばされた銃口の先は小さなマスコットが…猫だな、あれは。
「いくよー」
「「「せーの!!」」」
パン!! パン!! と、圧縮された空気に押し出されて、一斉にコルク弾が飛び出して行く。
残念ながら三人は誰一人取ることは出来なかったようだが、まだ一発目だ。
それに…ここの射的はカウンターから景品までの距離が若干長いように見えるから、女子には少し難しいかもしれない。
「うーん…もうちょっと上かな」
「弾の勢いが弱かったわね…そう言えば、先程、高梨さんが…」
「成る程、今の感じであの辺りに…となると、次は…」
沙羅さん達は、一発目の様子から次の修正を計算しているらしい。結構マジになってきてるのかも。
「えっと…先輩達、本気になってる?」
「う、うん、そうみたい」
「ただの射的だよね?」
「撃っていいのは、撃たれ…」
「ストップ花子さん、それ以上はいけない」
うーん…何故だろう、思わず突っ込まずにはいられなかった。
まぁ自分の謎行動はどうでもいいから、それよりも沙羅さん達を。
ちょっと理由があったのですが、更新が遅くなってごめんなさい!!




