頑張った一成
雄二と、夏海先輩。
速人と、藤堂さん。
俺の大切な親友達の関係も、新しい形の繋がりを見せ始め…
皆がそれぞれ幸せになってくれるのなら、これほど素敵なことはないと素直に思える。
俺は沙羅さんと出会えたことで、それまでの世界が一変した。地獄にいると思っていた自分が、これほどの幸せを感じることができるようになるなんて思いもしなかった。
大切な人が出来るというのは、本当に幸せなこと。
だから親友達が、同じように幸せを掴むことができるのなら、俺で手伝えることがあれば積極的に協力したい。
余計なお世話だと思われてしまうかもしれないけど…それでも、俺はそう思わずにはいられないんだ。
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「うん、美味しいよ。藤堂さん」
「あ、良かったぁ…それはね…」
美味しそうに食べる速人を見ながら、藤堂さんが綻んだような笑顔を溢す。
まだ少し自信は無さそうに見えるけど、速人の言葉が嘘じゃないことも分かってはいるみたいだ。段々と笑顔も見せるようになってきたから。
「どう? 私のお弁当は?」
「うぐ…夏海さんの料理がこれ程とは思いませんでした」
「ふふん、じゃあ…分かってるわね?」
「…ま、参りました」
あっちはあっちで、よく分からないやり取りをしてるような。
まぁ本人たちが楽しそうにしてるし、それなら別にいいんだけど。
「良かったですね、一成さん」
「沙羅さん?」
「一成さんが、ご友人のことを心配していらしたことは分かっておりましたので」
「それは…まぁ。皆が幸せなら、それに越したことはないですから」
「一成は優しい」
「ふふ…一成さんらしいです。素敵ですよ」
沙羅さんと花子さんは、いつもこうして何気ないことでも俺を褒めてくれる。
別に特別なことをしている訳じゃないし、普通のことを考えているだけなのに。
でも…そんな優しい瞳で見つめられてしまうと、俺はやっぱり照れ臭くて。
「一成さん、可愛いです♪ はい、あーん…」
ぱくっ
もぐもぐ…
「一成、可愛い。次はこれ。あーん…」
ぱくっ
もぐもぐ…
二人は優しい笑顔を浮かべると、「あーん」祭りを再開した。
ただ…周りから生温かい目で見られているので、「可愛い」の連呼だけは止めて欲しかったり。
「一成さん、あーん…」
ぱくっ
もぐもぐ…
いつもながら、沙羅さんのお弁当…料理は本当に美味い。
真由美さん仕込みのハイレベルな料理技術。
薩川家と高梨家それぞれの味。
しかも俺の好みを細かく研究して、両家の味を更に昇華させて。
沙羅さんの心遣いには頭が下がる思いだ。
だから俺は…
「はぁ…美味しいです」
「はい、嬉しいです♪」
こうして感謝の気持ちを込めて、「美味しい」という感想だけは必ず伝える。
それだけは絶対に忘れない。
「一成、あーん」
ぱくっ
もぐもぐ…
花子さんのお弁当は、ところどころ形が独特だったり、少し焦げていたりする。
でもそれは、花子さんが頑張って手作りをしてくれたことの証拠でもあるし、俺にとってはプラス要素でしかない。
味だって、お世辞じゃなくて十分に美味しいんだ。
「一成、どう?」
「うん、美味しいよ」
「良かった。一成にそう言って貰えるのが本当に嬉しい」
俺が素直に感想を伝えると、花子さんは本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
以前から料理の勉強をしていると頻りに言っていたし、それが俺の為だってことも分かってるから…
だから、俺が料理を食べた瞬間の笑顔は、もう写真に納めておきたいくらい。
「はい、一成さん、あーん」
「一成、あーん」
ただ…ね。
沙羅さんと花子さんの気持ちは、本当に嬉しい。
だから俺も男として、いや、漢として、例え量が多くとも、全てを完食するんだという決意は些かも変わらない。
でも…いくら気合いを入れようと、根性を出そうと、やっぱり物理的な限界を覆すことは難しい訳で。
つまり何が言いたいのかというと…
そろそろお腹の方が限界なんだよね。
「何か…高梨くんが、餌付けされてるように見えてきたんですが…」
「あはは…と言いますか、高梨さん、そろそろお腹の方が限界なのでは…?」
西川さん鋭い!
正解者には…なんて、そんな冗談を考える余裕すら無くなってきた。
でも、ご飯量的にはそこまでじゃなかった筈なのに、何でこんな…あ、ゆっくり食べているから余計に…ってやつなのかも?
「あの、高梨さん? まだ食べられる今の内に、是非、私のお弁当の方も…」
「あ、それなら私のお弁当も食べてよ!!」
「高梨くん、薩川先輩のお弁当には全然及ばないけど…良かったら…」
「そうだ、私も今回こそは、絶対に高梨くんに食べさせようと思ってたんだよ。三人でご飯を食べ始めた頃から、ずっと沙羅にブロックされてたし」
おおぅ…この状況でお弁当ラッシュが始まるなんて…これは困った。
俺、大ピンチかも…
……………
………
…
「あー…お腹が…」
「一成さん、大丈夫ですか?」
場所をベンチに移し(しかもテントごと)、俺は沙羅さんの膝枕で食休み中。
食べた後に直ぐ横になると牛になるとか、そんな迷信はどうでもいいんだよ。
もう余計なことを考えてる余裕すら無いんだから。
ちなみに沙羅さん曰く「右側を下にして横になるといいですよ」とのこと。
だから、俺はそれに従って言われた通りにしているんだけど、それってつまり…
「一成さん、もう少しこちらに寄らないと、身体が落ちてしまいますよ?」
「いや、その…」
「遠慮は…めっ、です」
「はい…」
可愛く怒られてしまい(?)、俺は慌てて沙羅さんに身体を寄せる。
そうなれば当然、俺の顔は沙羅さんのお腹に当たってしまうので、「ふにゅ」とした柔らかい感触が顔面一杯に広がって。
そして「甘い」…そう感じるだけなのか実際そうなのか分からないけど…とにかく、俺の大好きな沙羅さんのいい匂いに包まれてしまう。
それはいつもながら、健全な男子高校生である俺にとって、ある種の危険な「何か」でもある訳で…
しかも、沙羅さんが少しでも身体を前に倒そうものなら、俺の顔は沙羅さんの太股と天国でサンドイッチ。もう極楽待った無しの状態になってしまう可能性すらあるんだよ。
「…あれは羨ましいと言うべきか、もしくは同情するべきか」
「…一成も大変だね。でも、婚約して同棲までしてるのに、ここまでずっと耐えているのは称賛に値すると思うけど」
「…だな。やはり男としては、同情せざるを得ないか」
「…まぁ、それだけ大切にしてるってことなんだろうね。薩川先輩の愛情が飛び抜けているように見えても、一成だって勝るとも劣らないくらいに想ってるってことなんだよ、きっと」
「一成…大丈夫?」
花子さんの心配そうな声が聞こえると、俺の頭を撫でる手が一つ増えた。
沙羅さんの手は俺のお腹と頭にあるから…つまり、そこに花子さんの手が加わったってことだ。
ちなみに、撫でる位置が被らないように分かれているのがミソ。
とまぁ、それはともかく。
「ゴメン、まだもうちょっとかかるかも…」
「まだ時間はありますから、このまま暫く横になっていて下さいね」
そう言いながら、沙羅さんが姿勢を直すように身体を少しだけ動かす。
となれば当然、俺の顔には天国と地獄のような天国(謎)がやってくるので…ヤバい、平常心平常心。
しかも沙羅さんは、その動きで少しだけ位置がズレてしまった俺の頭を持つと、そのまま自分のお腹にくっつけるように、ぎゅっとしてくれた。
「相変わらずと言うか何と言うか…高梨くんと薩川先輩は、学校でも全く変わらないんですねぇ…しかも今回は花子さんまで」
「あはは、まぁ、あれは私も最近やっと慣れてきたかなぁ…」
「でも薩川先輩が生徒会長で、高梨くんが副会長なんですよね? いつもあんなんで、生徒会の方は大丈夫なんですか?」
「そうだね…ある意味で一致団結している…と、言えなくもないかな?」
「何ですか、その微妙な言い方…あ、でも何となく分かるような気がするかも」
ちょっと待て、今の話で何となくでも分かられてしまうのか?
それは俺としても流石に…
でも今朝の人壁的なバリケードを作ったあの動きは、今にして思えばそれを象徴しているような気がしないでも無い。
実はあれも打ち合わせ済みだった…とかじゃないよな?
「まぁそれはともかくとして、この後って結局どうするんですか?」
「そうですね…沙羅、この後の巡回はどんな感じなの?」
「私達は教室棟の巡回がメインの担当になっています。グラウンドなどの外回りと、部室棟は別担当ですよ」
「なるほどなるほど。じゃあこの後の予定は、各クラスの出展を見て回ることで決定ですね?」
「ええ。部活関係のエリアは明日になります」
ちなみに…
各教室ではそれぞれのクラスの出展。
部室棟や実習棟では主に部活系、体育館と校庭にある特設ステージでは、時間区切りで演劇部や合唱部、吹奏楽部や軽音部、有志バンドなど色々…って感じ。
そして明日のミスコンは…
「はいはい! 明日、薩川先輩が出るミスコンってどこでやるんですか!?」
「あれは校庭の特設ステージですよ」
と言うことだ。
俺も最初は体育館かと思っていたのに、人数が多くなるから手狭になってしまうんだそうな。毎年恒例な上に好例のイベントだから、見に来るのはこの学校の生徒以外も多いとのこと。
周囲の学校やご近所さん等々で…一体どれだけの規模になるんだろうか?
「いやー、でも薩川先輩が出るなら、優勝なんてもう決まったも当然ですね」
「いや、どうだろうね。一応、沙羅にも弱点があるから」
「えええ、薩川先輩に弱点なんてあるんですか!?」
「とにかく愛想がない。笑わないし、会話も必要最低限、気に入らないことは遠慮なくズバズバ言うから毒性も強いし、お説教も多い。だから、票の為に媚びを売るなんて絶対にしないから」
うーん…
ブーメランというか、今の夏海先輩の発言も十分毒性があると思う。
でもそれは沙羅さん自身も認めている事実だったりするので、俺としても明確な反論が出来なかったり。
しかも当の沙羅さんが、そんなのどこ吹く風と言わんばかりに、全く気にした様子がないから。
その証拠に、今も俺の頭とお腹を撫でながら、ご機嫌な様子で鼻歌(子守唄かも…)を口ずさんでるし。
「それよく聞きますけど、私はまだ、"その"薩川先輩を見たこと無いんですよねぇ。確かに高梨くんだけ特別なのは知ってますけど、そこまでの薩川先輩はちょっと想像が出来ないって言うか」
「私やえりりんからすれば、今そこで高梨くんを膝枕して鼻歌を歌ってる沙羅の方が、よっぽど信じられないんだけどねぇ」
「でも私はこの光景の方が自然なんですけど。あ、でも高梨くんが殴られたときにキレた薩川先輩は、めっちゃ怖かったです」
「あ~…あれは流石に私も初めて見たわ。とにかく、沙羅は基本的に、高梨くん以外の男に対してはキツいなんてもんじゃないから。もう別人か二重人格ってレベル」
「そうなんですねぇ…でもそうなると、ミスコンのステージが…」
「まぁ見た目はピカイチだからね。それに、沙羅に熱を上げてる連中は会話すらしたことない連中が多いんだよ。だから、勝手に沙羅を理想的な存在だと思い込んでるバカも多いし、何もしなくても、それなりの票は取れると思う」
流石は夏海先輩だ。バカ共の思考回路もしっかり把握してる。
結局のところ、沙羅さんの見た目と噂と思い込みだけで、好き勝手に騒いでる連中が余りにも多いことが問題なんだよ…
「はぁ…何と言うか…複雑なんですねぇ。でもせっかく参加するんですから、やっぱり薩川先輩も優勝…」
「私はミスコンに興味などありませんよ。結果もどうなろうと、全てどうでもいい話です。有象無象からの評価など、ゴミと同じですから」
「ゴ、ゴミですか…いや、分かってましたけど。やっぱ、高梨くん以外の男子は本気でどうでもいいんですね…」
「勿論です。私は一成さんが全てですから」
「ご馳走様です。高梨くんは本当に幸せですねぇ」
それについては、もう言われるまでもないってことで。
沙羅さんからここまで想われている俺は、世界で一番幸せな男だと本気で思っているから。
だから俺からも、沙羅さんにその気持ちが少しでも伝わるように。
自分の嬉しい気持ちを表す意味で、抱き付く力をちょっとだけ強めてみる。
ぎゅ…っと
「ふふ…一お腹が少しくすぐったいです♪」
「えっ!? す、すみません」
沙羅さんから予想外の反応に、俺は思わず焦ってしまう。
別に疚しいことをした訳じゃないけど、沙羅さんの声が…ちょっとだけ…その、なんだ…分かるだろ?
「一成さん、もっと強くしても大丈夫ですよ?」
「いや、それは…」
今の状況でこれ以上思いきり抱きついたら、俺の方が色々とヤバいことになり兼ねないかも。
「…あの…今の流れで、何で突然イチャつき始めたんですか…?」
「…最近はしょっちゅうだから」
「…あはは、最近、ちょっとだけスキンシップ過剰気味なんだよ…でも、高梨くんと薩川先輩だから」
「…………バカップルが…」
「…に、西川さんが…また…」
「一成、お腹の方は?」
「え、えーと…もう少しかな」
胃薬を飲んだこともあり(沙羅さんが持ってた)、多少は落ち着いてきたような気はする。でもまだ少し厳しいというのが本音かも。
だから…これは決して、沙羅さんにもう少し甘えていたいからなんて不純な理由ではない。断じて違うぞ。
「んじゃ、高梨くんが動けるようになったら移動開始しようか」
「賛成です! 何があるのか楽しみだなぁ…そういや、満里奈のクラスって占いだっけ?」
「うん、占い屋さんだよ。色んな種類の占いを集めたんだ」
「へぇ…それは面白そうね」
「そうですね、面白そうだ」
「うん、面白そうだね」
妙に乗り気に聞こえた声は、多分、夏海先輩と雄二、速人の三人。
まぁ、何か思う所があるんだろう…きっと。
そう言えば、沙羅さんはどうなんだろう?
「沙羅さんはどうですか?」
「そうですね…私は占いをそこまで気にしないタイプなんですが」
「それは俺もですね」
そもそも俺達は、今まで占いに関する話をしたことがない。
だから沙羅さんの答えも予想通りだったり。
もし沙羅さんが占いに興味あるようなら、一緒に何かを占って貰うことも考えたんだけど…変な結果が出たら嫌かも。
「ですが、せっかくですから二人で占って貰いましょうか?」
「そうですね、面白そうです!」
さっきと言ってることが違う?
そんな過去のことは忘れたな。
沙羅さんがそう言うなら、それが最優先に決まってるだろ。
「私は個人的に、高梨くん達のクラスのカフェが気になるかな。沙羅が料理教室までやったことだし」
「あ、私もです。それに、メイドカフェって行ったことないから、ちょっと面白そうかなって」
「ねぇ、高梨くん、この人数で行っても大丈夫かな?」
どうだろう…
お店の混雑状況によるとしか言えないが、多分大丈夫なんじゃないかな?
山川達に連絡をしておけばいいか。
「一応、予約って程じゃないにしても、クラスの方には確認の連絡を入れてみますよ。席が空いたら、呼んで貰うことも出来るかもしれないですし」
この面子で行ったら、また大騒ぎになりそうな気がしないでもない。でもウチのクラスなら、少なくも沙羅さんのことは大丈夫だろうし…藤堂さんと速人はしょっちゅう出入りしてるから…うん、何とかなりそう。
「それはありがたいですね。ところで高梨さん?」
「はい」
「いつまでその体勢で、話をするつもりなんでしょうか?」
「う…」
分かってた…いつか突っ込まれると思ってたんだ。
何故って、俺はずっと背中で会話をしてるから。
でも、これは仕方ない。
だって、俺が離れようとしたり、例えばこうやって身体を動かそうとすれば…
ぎゅ…
はい、俺はまだ動いてはいけないんですね…
「…くぅぅ…イチャイチャ…イチャイチャしてからに…」
西川さんから放たれる謎の呟きとオーラが、視線とは違う何かの「刺」となったように…背中に突き刺さりまくっているのを痛烈に感じる。
と言うか、ちょっと怖いです…西川さん。
「なろう」で私の拙作をお読み下さっている皆様、いつもありがとうございます。
今回で、一つの区切りでもある300回目の更新となりました。
このサイトに投稿を始めて一年と四ケ月。
最近はスランプから抜け出せず、相変わらず自分の納得する書き方が見つからないままここまで来てしまいました。
ストーリーも、当初予定していた内容とは全くの別物となり、そもそも執筆当初はここまでの話を考えていなかったのが本音です。
そのせいもあり、オマケにスランプも重なり、執筆ペースはかなり落ちています。
ですが、何とかこうして続けていられるのは、全て読者様あってのことです。
本当にありがとうございます。
そして今回も、特にこれといった記念企画も無く、ついでに言うと盛り上がりも無い平坦なシーンで終わってしまいました(ぉ
本当に、書けば書くほど分からなくなってくるってどういうことなんでしょうね。
さて、300話まで来て、まさかの学祭終わらず…となってしまった訳ですが、学祭以降は少し時間の進むペースを上げるつもりです。
そして今まで話に出て来て、予定されているイベントとしては
秋祭り、両家顔合わせ→年末パーティー、イツメンで旅行、クリスマス→年越し→バレンタイン
という感じです。
あと一つ、現時点で考えているイベントがあるのですが…それは追々。
でもこうして並べてみると、学年が上がる頃には400を優に超えてしまいそうそうですね。
最終的にどこまでになるのか…
作品内時間はそうでもないのに、話の数だけで言えば長編になっているようです。
単なる趣味とは言え、我ながらよくもまぁ書いたものだと・・・中弛みしないように気を付けているつもりですが。
エロ無し、ハーレム無し、異世界無しという、多分少数派の作品だとは思いますが、宜しければ今後とも、どうぞよろしくお願い致します。
それと、たまに聞かれることがあるので先に報告しておきますと、私は一成の高校卒業でこの物語を閉じるつもりはありません。
ではその先をどれくらい、どこまで書くのか? という明言は致しませんが、私にとってゴールだと考えている部分までは書きたいと思っています。
それではまた次回。




