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タカピー女の素性

「ふう…全く。楠原さんも困った人ですね」


「西川さんはタカ…あの人のこと何か知ってるんですか?」


 さっきの様子を見る限り、少なくとも二人が友好的じゃないことは直ぐにわかった。

 でもあの女の態度や、沙羅さんに対することといい、どうにも分からないことが多すぎる。

 無視して済むならホントにどうでもいい相手だと思っているが、向こうから絡んでくる以上はそうも言ってられないから。


「知ってると言いますか、私がこの学校に居た頃からあんな感じだったんですよ。直接的な付き合いが無かったから理由は分かりませんが、何故か沙羅に対して敵対心のようなものを持っていたようです。もっとも、当の沙羅は眼中に無かったので一人で空回りしていましたけど」


「成る程…」


 何となくその様子は想像できるが、その情報自体は、この前の一件で感じたこととあまり変わらない。

 結局のところ、あの女は何が気に入らなくて沙羅さんに絡むのか…

 西川さんに対しても好意的じゃないことや、初対面の花子さんに対する態度の悪さ、そしてミスコンに対する妙な思い入れ。


 これらを総合して考えてみると…


 自分より容姿が良さそうな相手が嫌い…とか?


「何か気付いたことがありましたか?」


「え?」


 暫く俺の顔を眺めていた西川さんが、突然そんなことを問いかけてくる。

 まさか、西川さんまで俺の考えが読めるようになった!?


「ふふ…そんな顔をしないで下さい。沙羅じゃあるまいし、私には高梨さんの考えを読むなんて芸当出来ませんよ。これは単に、高梨さんがそういう表情をしたから分かっただけです」


「あ…そ、そうですか…それはまた…」


 そうだよな、いくらなんでもそれは自意識だったか…って?

 俺はここまで、タカピー女のことを自意識過剰だとバカにしていた訳で。

 つまりこれって、自分も人のことを言えないってことになるんじゃないのか?


 うわー、これは恥ずかしい。

 穴があったら…ってやつだ!


「…本当に、そういう所が可愛いと思えてしまうんでしょうね。沙羅も花子さんも」


「…西川さん?」


「いえいえ、何でもありませんよ。それより、何か気付いたことがあるんじゃないですか?」


 まるで俺の考えを探るように、西川さんはじっと目を見つめてくる。

 もちろん気付いたことがあると言えばあるが、合っているかどうかは微妙。


 さて、どうしようか。


 これは単なる俺の推測であり、間違っている可能性も多分にある。

 でも、あくまで可能性の一つとして伝えておくのも悪くない…かな?


「これはあくまで俺が思っただけの話ですよ?」


「はい。それでも結構ですよ。私も彼女の態度は気になっているので」


「わかりました」


 まぁ本人がそういうなら別にいいか。

 俺としても、当たらずとも遠からずくらいには思っているし。


「まず前提条件としてですが、俺の知る限り、あの人の態度が変わるのは沙羅さんと西川さん、花子さんの三人だけです。そして、沙羅さんに対して最も敵意が強いのは間違いない」


「そうなんですね? でも沙羅に敵意が強いというのは納得です。それは私も感じていましたから」


「ええ。あと、ミスコンに妙な思い入れがあると言うか、拘りを持っているように見えます。つまり、それだけ自分のこと…主に容姿については、自信があるんじゃないかと」


「…ミスコンに…成る程。確かに、彼女の容姿であれば」


「だから、その辺りのことを総合的に考えてみると、自分より綺麗だったり可愛かったりする人が気に入らないだけなんじゃないのかな…と思った訳です」


「…へ?」


 突然間の抜けたような声を出し、西川さんはポカンとした表情を浮かべる。

 自分でも穴の多い推測だとは思うけど、そこまで変なことを言ったつもりはないんだが?


「いや、だから、自分より綺麗だったり、可愛い人に…」


「ま、待って下さい。分かりました、分かりましたから!!」


 何故か、急に焦った様子を滲ませる西川さん。

 本当にどうしたんだろう?


「そ、その、それは高梨さんの感覚で言っているのですか?」


「感覚?」


「その、楠原さんより…」


「え…ええ? とにかく、あの人は自分の容姿に自信があるのは間違いないと思います。だから、自分より綺麗な沙羅さんや西川さんを敵視しても不思議は無いんじゃないかと。あと花子さんは可愛いって意味で…って、西川さん?」


 西川さんの呆然とした表情は変わらないものの、今度は心なしか顔が朱くなってきた…ような?

 うーん…どうもさっきから、西川さんの様子がおかしい。


「あの、西川さん?」


「ふぇ!? な、何でもありませんよ!? ……そ、そんな自然に言われたら、お世辞じゃないと言ってるようなものじゃないですかぁ…」


「はい?」


「ふ、ふふ、何でもありませんよ。大丈夫ですから気にしないで下さい。でも…」


「でも?」


「そういうことは、沙羅だけにして下さいね?」


「は、はぁ…?」


 とこかイタズラっぽい様子で、よく分からないことを言う西川さん。

 俺はタカピー女の考察を話しているだけなのに、何がどうなってそういうに話になるのでしょうか…


「コホン! は、話を戻しますね? 私も高梨さんのお話を聞いてから、自分なりに考えてみました。彼女が自分の容姿と比べて…と言うよりは、或いは彼女が気に入らないと思う何かを持っている、主に同性に対して、極端な敵対心を持つのかもしれませんね。それは容姿かもしれませんし、名声なのかもしれません。後は男性からの評判…特に沙羅の場合、容姿、成績、名声、人気と、かなり色々揃ってますから」


「成る程…それで沙羅さんを特に敵視してることに繋がるんですね。納得です」


 確かに、これは西川さんの言う通りかもしれない。

 この学校で一番そういう要素を持っているのは間違いなく沙羅さんだろうし、自分に自信があるタカピー女だからこそ余計に…と考えてみれば、かなり的を得た意見だと思う。

 花子さんは藤堂さんとセットとはいえ、一部から「天使」と呼ばれているみたいだし…だからそれが気に入らなくて、あのとき花子さんにも絡んだ…と。


 うん、これは間違いなさそうだ。


「後、これはあくまで噂なので、事実かどうかはわかりませんが…彼女が裏工作をする人間だという話を聞いたことがあります」


「裏工作?」


「ええ。この学校は実質的に、佐波の出資で運営されているようなものです。それを使って…」


「ちょ、ちょっと待って下さい。つまり、あいつは佐波の関係者なんですか!?」


 それは初耳どころの騒ぎじゃない!

 もしあいつか関係者だと言うのなら、さっきの男も営業部長だと言っていた訳で、佐波でもそれなりの立場にある人間だということになる!


 …あれ?


 でもさっき、タカピーはウチの会社って言わなかったか?


「あぁ、すみません、先にその辺りの説明が必要でしたか。まず彼女についてですが、ざっくり言いますと、ここ数年で佐波に買収された会社の社長令嬢なんですよ。ですから彼女も、彼女の父親の会社も、一応は佐波グループの一員…ということになります」


「あ、そうなんですね? だからあんな態度が…」


「あはは…確かに、彼女は自分の地位を笠に着ている節は大いにありますが。恐らく妙に自信家なのも、その辺りに起因しているんじゃないかと。とにかく、そんな訳で一応は、この学校最大出資企業のグループ会社、しかもその会社の社長令嬢となれば…」


「つまり、学校が何かしらの便宜を図ってもおかしくない…と?」


「はい。当時、クラスメイト達がそういう噂話をしていたことを聞いたことがあります。だから彼女と揉め事を起こしたり、変に逆らわない方が身の為だと。実際に彼女がそれを利用したかどうかは分かりませんが、彼女自身があんな感じなので…信憑性が増したのでしょう」


 成る程…そういうことなのか。

 確かにあの強気な態度を見れば、少なからずそういうことを考えていても不思議は無いと俺も思う。しかも親戚まで似たようなバカとくれば、もう一族揃ってロクでもないという可能性すら伺えてしまう訳で。


 まぁ、そんなことは流石にないだろうが…


 でもそういうことであれば、俺達には政臣さんと真由美さんがいるし、言い方は悪いけどグループ会社の社長程度…


 …そういや、その辺りのパワーバランスってどうなってるんだ?


「西川さん、あの人の父親がその会社の社長さんだとして、本社の専務である政臣さんとは…」


「ええ。専務がどうと言う話ではなく、そもそもの立場として、政臣さんは遥か上の存在です。ですから、仮にこの学校で何かあったとしても、有利になるのは高梨さんと沙羅…ということになりますね」


 やっぱりそうなのか…それを聞いて、取りあえずはひと安心。

 あいつからちょっかいを掛けてくるのに、学校がバックについてるからやりたい放題されるなんてことになれば、それこそ洒落にならな…あっ!


 まさか、担任が俺達に協力的なことも、その辺りに理由がある…とか?


「…そうね、沙羅に対して敵対心剥き出しなのは、そういう意味もある…いえ、でもそれなら、そもそも敵対すること自体が危険だとわかって…」


「西川さん?」


「あぁ、すみません。とにかく、彼女の真意として本当のところは分かりませんが、私の知っている話としてはそのくらいです。そもそも、私がこの学校に居たときは、こちらに何かを言ってくること自体無かったんですけどね」


「あぁ、それはそうでしょうね。そんなに立場や権力を気にする人間なら、西川さんは恐怖の対象でしかないでしょうし」


「…普通はそうですよね? でもそうなると益々、何故、沙羅に…」


 まただ、また西川さんが、何かを考え込むようにブツブツと…

 何か気になることや、気付いたことでもあるんだろうか?


「まぁ、こちらでいくら考えても答えは出ませんね。とにかく、彼女が今後も沙羅にちょっかいを出す可能性はゼロじゃないので、高梨さんも気を付けて下さい。一応、釘は刺しておきましたけど、多分無視するでしょうから」


「…了解です」


 そうか、さっきの意味深なあれは、俺達のことを考えてくれた上での一言だったのか。

 あの状況でそこまで配慮してくれるなんて…流石は西川さん。

 この前のことといい今日といい、最近、頼りになることばかりで、俺的な評価は鰻登り。


 だから…後でしっかりお礼をしないと。


「さて、それでは本題に入りましょうか。あまり時間が遅くなると、上坂さんに迷惑をかけてしまうかもしれませんし」


「そうですね。でも本題って、アレのことですよね?」


 別に勿体つけている訳じゃないんだろうけど、こうして二人になってまで話すことなんて、今は一つしか思い浮かばないから。


「はい。ケースを含めて最終確認をして下さい。指輪自体は、この前見た通りなので問題ないと思いますが、ケースについては好みの問題もあると思います。一応、私の方でも相違無いか確認はしておきましたが」


 そう言って西川さんがポーチから取り出すのは、もちろん俺があの日に購入した沙羅さんの指輪。

 何故これを西川さんが持っているのかというと…要するに、我が家が沙羅さんの完全管理に置かれているということ。

 つまり、俺が指輪を持って家に帰ってしまうと、仮にどこかへ隠したとしても、沙羅さんに発見されてしまう可能性が極めて高いってことだ。

 だからギリギリまでお店で保管して貰って、現在は一時的に、西川さん預かりにして貰っているという訳。


「ありがとうございます。すみません、色々と」


「いえ、それは全然構いませんよ。ただ…自分のお家なのに、隠し物一つ出来ないのは大変ですね」


「あはは…情けない話ですけど、家のことは全て沙羅さんにお任せしちゃってるんで。沙羅さんは掃除も一切妥協しないし、そうなると隠しておいても…」


 沙羅さんは俺よりも家のことを把握していて、掃除も手入れも細かいところまでしっかりやってくれる。だから、もし普段と違うものがあれば当然気付いてしまうだろうし、まして沙羅さんに「読まれて」しまう俺が、最後まで指輪を隠し通すことも無理そうだから。


「はぁ…本当に沙羅は主婦みたいですねぇ。男を寄せ付けないどころか、即断即決で、近づいてくる男を根こそぎ切り捨てていたのが嘘みたいですよ…」


「あはは、夏海先輩にもよく言われます」


「それはそうですよ。高梨さんは知らないでしょうけど、あの頃の沙羅を知っている私達からすれば、今の沙羅は別人か二重人格レベルですね」


 二重人格とは…これまた酷い言われよう。

 でも、それだけ当時の沙羅さんが凄かったってことなんだろう。

 俺以外の男…特にチャラい奴や、バカっぽい奴に対する強烈なまでの対応を見れば、それは充分想像がつくから。


「でも、男性に対する強烈な嫌悪感の裏返しが、高梨さんへ激甘ぶりだと考えれば納得…って、また話が横に逸れましたね。とにかくこれを確認して下さい」


「了解です」


 改めて西川さんが差し出してきた箱を手に取り、ざっと全体を眺めてみる。

 箱自体は特に飾り気の無いシンプルな物で、俺が店にある見本から選んだ典型的な指輪の収納箱。一応、目立たせることを考えて赤色を選んでみたが、これについてはサービス品でもあるし、良くも悪くもオマケ的なデザインだ。


 そして肝心な指輪の方は…


 小さくて若干見辛いけど、内側には、しっかり俺と沙羅さんのイニシャルが刻まれている。

 俺から沙羅さんへ…という意味での文字もしっかり確認できるし、刻印されている日付も明日の日付で間違いない。


 よし、大丈夫。


 これでこの指輪は、名実共に沙羅さん専用の指輪になった訳だ。


 そう思えば、この指輪にもますます愛着が湧いてきたような気がして…早く沙羅さんに渡して喜ぶ顔が見たい!


「ふふ、どうやら満足して頂けたようですね」


「はい。早く沙羅さんに渡したいですよ」


 また思っていたことが顔に出てしまったようで…でも今回は仕方ない。嬉しいのは事実なんだから。


「本当に、沙羅が大喜びする姿が目に浮かびますねぇ。もうプロポーズされるなんて…プロポーズ…プロポーズ?」


 あ、これはマズいかも。

 西川さんが、ここではないにどこかに視線を彷徨せ始めたような、違う何かを見ているような。

 ということは、もう闇落ち(?)が近い合図でもあるので…指輪の話は、これで終わらせた方が良さそうか。


「西川さん、指輪はありがとうございました。お手数ですけど、もう一日だけ」


「あ、はい。そうですね。ここで沙羅に見つかっては本末転倒ですから。しっかりお預かりしますよ」


 どうやら今回は、落ちる前にしっかりと戻ってきてくれた(?)ようだ。

 直ぐにいつもの笑顔を浮かべると、俺が差し出した指輪の箱をバッグに戻す。

 これで後は、明日の「そのとき」を待つばかりで。


「宜しくお願いします。それじゃ、そろそろ戻りますか?」


「そうですね。少しだけと言ったのに、これ以上遅くなったら上坂さんに申し訳ないですから」


 既に今更と言うか、少しだけと言うには、もう時間が経ちすぎたような気も。

 これじゃ違う意味で誤解されそう…いや、そんなことを考えている暇があるなら、さっさと戻れって話か。


……………

………


「ふ、二人とも、お帰り」


 テントに戻ると、どこかソワソワした様子の上坂さんが出迎えてくれる。

 他にはまだ誰も戻ってきていないようで、ポツンと一人で座っている姿に何となく哀愁も…


「すみません、お待たせしました」


「上坂さん、申し訳ありません。遅くなってしまいまして」


「えっ!? い、いえいえ、私は全然平気ですから、どうぞお気になさらず!」


 相変わらず、西川さんが相手だと緊張してしまうのか、上坂さんの挙動不審っぷりが酷すぎる。

 当の西川さんは、そんな様子を見ながら苦笑を浮かべているが…上坂さんは、実際そんな人じゃないんだよね。

 でも、もし西川さんがそれに気付いたなら、果たして今と同じ態度を取れるのかどうか?


「と、ところで…その、話と言うのは…」


「ふふ、それは秘密ですよ。ね、高梨さん?」


「えっ? あ、そ、そうですね」

 

 指輪の件は秘密だとしても、そんな楽しそうな笑顔で意味深な言い方をしてしまえば、また俺の方に要らない疑惑が湧いて…


「秘密…秘密…」


 遅かった… もう上坂さんの眼差しは、完全に疑惑のそれに変わっているような。

 西川さん的には単なるお茶目だったとしても、想いを寄せる男子としては…って、そういやまだ気付いていないんだったか。


「西川さん、この後どうします?」


「そうですね、まだ皆さんが戻って来ていないようですし、ここで暫く待たせて貰ってもいいですか?」


「りょうか…」

「だ、大歓迎です!」


「…だそうです」


 上坂さんは、もう嬉しさ全開というか…ちょっと露骨すぎ。

 でもこれで西川さんと話をするチャンスが出来たことになるんだろうし、仕方ないと思わないでもないが。


「ありがとうございます」


 そして上坂さんの様子を見ながら、西川さんはやっばり苦笑を浮かべると…空いている椅子を手に取り、そのまま俺の隣に置く。

 そしてそれを見た上坂さんは、やっぱり複雑そうに俺の方を見て…


 うーん…


「そう言えば、あの二人はどうしました?」


 もうこの場に居ないのは百も承知だが、あの後どうなったのか一応気になったので聞いてみた。

 勿論これは、単に何か話題の切っ掛けになればという意味もあったりする。


「あぁ、あの二人ならあの後直ぐにどこかへ行ったよ。特に男性の方は苦虫を潰したような表情をしていたけど。そ、そう言えば西川さん、あの男性は…」


「あぁ、どうやら挨拶をしたことがあるみたいですね。私は覚えていないのですが」


「そ、そうなんですね。それは良かっ…じゃなくて…挨拶をしただけで、あそこまで自信満々になれるというのも、ある意味凄い」


 それはタカピー女も全く同じなので、やっぱりあの一族には自意識過剰の血でも流れているのかも。流石に親は知らないが、佐波のパーティーにも来るとなれば、ひょっとしたら年末パーティー辺りで顔を合わせる機会があるかもしれない。


「そうですね。ただ残念なことに、私の回りにもそういった人間は少なからず居るんですよ。なので、別段不思議でも珍しくもないんです」


 そう言って、自嘲気味な笑顔を見せる西川さん。やっぱり大企業の社長令嬢ともなれば、嫌でもそういう人との関係を持たなければならないんだろうか?


「ふふ、すみません、場の空気を白けさせるようなことを言いました。この話はここまでにしましょう」


「そ、そうですね」


 と言われても、あんな表情を見せられた後で「じゃあそうしましょうか!」なんて簡単に切り替えることもできず。

 俺も気になるし、もしここに上坂さんがいなければ、もう少し突っ込んだ話をすることも出来ただろうが…今はそのタイミングじゃないか。


「さて、先程は簡単過ぎましたから改めて…上坂さん、お久しぶりです。その節はお世話になりました」


「あ、は、はい。こちらこそ、色々とお世話になりました。特に花壇の件では、これと言ったフォローも出来ず…」


「いえ、あの子達のことは、沙羅が引き継いでくれましたから。それに…」


「それに?」


 西川さんが俺の方をチラリと見て、小さく微笑む。

 この流れで、今度はいったい何を言うつもりなのか…


「沙羅が個人で引き受けてくれたからこそ、結果的に、あの花壇が私の親友達を結び付けるキューピットになってくれたようですから」


「…そうですね。俺が勝手に始めたあの花壇の手入れが、結果的に沙羅さんと仲良くなる切っ掛けになってくれたと思えば、西川さんにも改めて感謝ですよ」


 話に口を挟むつもりは無かったが、こんな嬉しいことを言われてしまったら、俺も口を出さずにはいられない。

 西川さんの言う通り、あの花壇があったからこそ、俺と沙羅さんの距離が近付いたんだと考えれば…つまり俺達のキューピットは、西川さんでもあったと言えなくないんじゃないか?


「いえいえ。確かに切っ掛けになったかもしれませんが、それだけであの沙羅と仲良くなるなど不可能ですから。普通であれば、結構ですとバッサリ拒否されて即終了ですよ」


「うん、薩川さんならそう言って終わるだろうね。現に私も、生徒会の仕事を手伝おうとして、にべもなく断られたことは数知れず…だから」


「そうでしょうね。特にあの頃の沙羅は、心に色々と問題を抱えていて、物事を頑なに一人でやり遂げようとするきらいがありましたから。そのせいで「孤高の」なんて言われてましたけど、そんなものは美点でも何でもないんです。でも…高梨さんのことは、素直に受け入れたでしょう?」


「…ええ。沙羅さんは普通に手伝わせてくれましたよ」


 俺の場合は、沙羅さんから率先して作業の手分けを提案してくれた。それにお茶の用意をしてくれたり、最初から歓迎してくれていたように思う。


「そ、そうなのかい? あの薩川さんが、最初から?」


「つまり、もうその時点で、高梨さんは沙羅にとって特別な存在だったんですよ。ですから、あの花壇はあくまでも切っ掛け…ということです」


「な、成る程」


 そう言われてしまうと、西川さんの話は全て納得できる。最初から、俺だけは特別だった…か。嬉しいな…


「うーん…何と言うか、高梨くんに対する薩川さんの執心ぶりが納得できてしまうね。彼女にとって高梨くんは、あまりにも特別すぎて大切すぎる…ってところかな?」


「特別すぎて大切すぎる…それはいい表現ですね。流石は上坂さん」


「いやいや、西川さんの話が素敵だったからですよ」


 あれ…何だこれ?


 俺達の話をダシにして、この二人もちゃっかり馴染んでるような…


 いつの間にか、上坂さんも普段の余裕が戻っているような気もするし。


 いや、別にいいんだけど。

よくわかりませんが、体調の方はかなり回復しました。

我ながら、何だったのかな・・・と(^^;


HJ小説大賞の方が最終選考に残ったようで、かなり驚いております・・・


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― 新着の感想 ―
[一言] まずは、HJ小説大賞の方が最終選考に残られたとのこと、賞に選ばれることを心より願ってやみません。 さて、令嬢な西川さんと、ブラック西川さんは、よく登場されてますがw 乙女な西川さん登場は、レ…
[一言] いつも更新を楽しみにしております!最終選考頑張ってください!!
感想一覧
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