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トラブル

 学園初日から一週間が過ぎた。今週からは座学だけでなく実習授業が加わる。今日は魔法の実習授業がある。さてさて、一体どんな先生なのだろうか。私を教えられる先生だと良いのだがと、走り込みにいく道中で考えを膨らませている。


「ふざけんなまじで!」


なんだ、せっかく天狗になっていたところなのに。またネイトが問題でも起こしているのか? 無視できればいいんだけど、最近あいつが私達に付き纏っているせいで同族として見られるんだよね。仕方ない、シスタ達の評価の為にも喧嘩止めてくるか。


「一体朝から何騒いでんの」


騒ぎの元に行くと、いたのは知らん令息と例の攻略対象だ。よく見ると頬が腫れているし、髪も服もぐしゃぐしゃだ。


「た、助け──」


攻略対象……めんど、攻三でいいや。攻三は涙声の助けを求める口を閉じた。私にやったことに対してプライドが邪魔するのだろう。


「君、こいつに何されたの?」


私が明らかに加害者の方に味方する言い方をしたことで、多少心を許したのか、こうなった経緯を話し始めた。


「こいつが俺の婚約者を奪ったんだ!」

「え〜、何やってんの」 

「俺達幼馴染で、親に言われて結んだ婚姻だけど、俺はずっと、ずっと好きで、学園ならずっと一緒にいられるって思ったのに、こいつのせいで! こいつが俺の婚約者に色目を使ったせいで、俺との婚約を解消するとか言い出したんだ!」

「僕のせいにしないでよ。君が彼女の心を繋ぎ止められなかっただけでしょう。別に僕は君の彼女を知らないし、君と別れろなんて言っていない。君の彼女が僕と婚約できると勝手に暴走して言い出したんじゃない? 馬鹿だよね、僕は侯爵家だよ、そんな僕に釣り合うなんて思ったの? 君の婚約者は」

「ふざけんなよてめえ!」


本気で殴りに掛かった拳を私は止める。いや、本当ならそのまま殴ってほしかったけど、あまりにも彼が被害者すぎて止めてしまった。


「気持ちは分かるけど、殴ったらダメ。殴ったら君の立場が悪くなる。取り返しのつかない怪我をさせたら、それこそ婚約解消の理由を作ってしまう。大丈夫、子ども同士で勝手に婚約できないように、解消も子ども同士じゃできない。こいつとは私が話をつけておくから、君は彼女ともう一度話してきな。話してくれなかったら、私に相談してくれたら場くらい設けてあげるから。分かった?」

「は、はい……」

「よし。じゃあ行け。これあげるから少しは落ち着きな。ね?」


私は昨日作ったマフィンを持たせて彼を見送った。運動後に食べようと思ってた物だけど、仕方ないか。私からの同情だ。


「……はぁ」

「冷たっ!」

「ほら、自分で押さえて。それくらいできるでしょ」


不貞腐れているのか、全く動かないから私が攻三の手を持って押さえさせる。


「あーあ、頭も腫れてる。あとでちゃんと医務室行きなよ。頭の怪我は怖いからね」


とりあえず魔法で出した氷を、持っている包帯で腫れている部分に固定する。


「手も擦れてる」


近くに水道があったので、手拭いを濡らして擦れている箇所や汚れたところを拭いていく。


「君は僕のこと嫌いじゃないですか。僕なんてほっとけばいいのに」

「放っといたら君はどうなっていた。今のままじゃ済まなかったでしょう」

「僕一人でどうにかできました。彼の逆上を抑えて、逆に僕の味方にすることくらい──」

「それができなかったから今こうなっているんでしょ。恋する人間は君が考えるほど単純じゃないよ。それで君、執事は? 止めてくれなかったの?」

「…………君だって使用人をつけていないじゃないですか」


そう言いながら、バツの悪そうに顔を背けた。


「今は妹についてもらってる」

「あの呪われた子ですか」

「君、人のことよく見てるよね」


いや、気づかなかったネイトが馬鹿なだけかもしれんが。


「そうですよ、僕はそうして生きてきましたから」

「私の前では猫被らないんだね」

「あなたはもう僕のこと見抜いているじゃないですか。無意味なことはしない主義なので」

「……君、愛されてこなかったんだね」


私がそう言うと、驚いたように目を見開いた。


「僕はたくさん愛されていますよ」

「いいや、愛されていない。愛されていたらわざわざ人の仲を裂こうとなんてしないでしょ。君の体を見れば分かる。今回みたいなこと、ここ入ってから何度もあったでしょう。明らかに今日のじゃない傷がある」

「……なんでそんなこと言うんですか」

「前者のことを指してるなら、今までの言動と周囲の評価。君は知らないだろうけど、私にも慕ってくれる人がいる。その人達から入ってくる話で君がこういうトラブルを起こしているらしいっていうの聞いてる。それと、前シスタの話を出した時、目と態度が変わった。決定的なのは君がしていること。君は自分が愛されているって実感を欲している。だから、君は愛されて育ってないんだろうなって。そういう人って、やたらと人を見る目が良かったりするしね。はい、終わり。医務室くらい自分で行けるでしょ」


私が立ち上がると、それに倣って立ちあがろうとする。が、背中を思った以上に強く打ち付けていたのか、立ち上がれないようだった。


「はぁ、仕方ないな」

「僕に何するつもり」

「医務室に連れてくの」


そう言うと大人しく私にお姫様抱っこされた。


「お! 大将〜!」


 魔法の生徒がいるということは、剣術の雑魚ももちろんいる。ちゃんと生徒同様釘は刺しておいた。


「大将! 稽古つけてください!」

「また今度。今日は怪我人を医務室に運ぶから、自主練しとけ」

「はい! 失礼しました!」


また歩き出すと、今度は前助けてあげた令嬢に声をかけられた。他にも色んな人に。皆思ったより早く活動してるんだな。


「君は愛されているな」

「あれは愛されているに入らないよ」

「なら僕なんてもっと愛されていない」

「だから言ったじゃん、虚しいだけだって」

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