黙らせたい
二人の仲の進展に一人喜んでいると、思いっきり肩を組まれた。
「よおヴィル! この前は酷いじゃないか──」
「二人とも、早く行こう」
「ちょ、待ってくれよ! って、あ、おい、またこの氷か! 足が動かねぇ!」
私は二人の背中を押してあの馬鹿から一刻も早く離れる。
「ヴィリアン様、奥様と旦那様にバレてしまえば大変なことになりますよ……」
「あれはいいの」
私の言葉にシスタとリシアが頷いていることから、ニーファもこれ以上何も言うことができないようだ。それにしてもあいつ、めちゃくちゃ嫌われたな。ゲームだとどうやってあいつへの好感度上げてったんだっけ? もう覚えてないや。十五年前の記憶だし。
「それじゃあニーファ、私達は教室入るから」
「はい。ヴィリアラ様、くれぐれもしっかりと授業を受けてくださいね。帰った時奥様に怒られてしまいますから」
「分かってる分かってる」
はぁ、どこまで根回ししてるんだ、うちの母親は。
教室に入ると、後ろの方に丁度三席空いている場所があったので、シスタとリシアを外側に座らせ、私は中側に座る。
「この前より綺麗ですね、この教室」
シスタはリシアのそのセリフにびくりとし、私の方を見た。私は別に褒められるために掃除をしたわけじゃないから言いふらしたりなんかしないよ。
「今日は授業初日だから掃除も気合い入れたんじゃない?」
「そうかもしれませんね。それにしても綺麗ですね」
やめてよリシア、そんなに褒められちゃ顔に出ちゃうでしょ。
「何をニヤニヤしているんだ君は。気色が悪いな」
誰だ、私の気分を落とす言葉をわざわざ掛ける嫌な奴は。
「それは酷いと思いますよ、王子様」
「君のことなどどうでもいい。それよりも廊下で騒いでいるあいつをどうにかしろ」
なんだこいつ腹立つな。今までは言い方はともかく同情できたから良いが、いざ私が対象になると本当に腹立つな。
「そのように言うのでしたら王子様がどうにかすれば良かったのでは?」
「なぜ僕がわざわざそのようなことをしなければならない。それに、君は強いだろう。なら君が助ければ良い。早く行ってきたまえ」
むっかつく〜! なんなんだこいつ! まじでイライラする!
「分かりましたよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」
「何をムキになっている。最初からそう言っているではないか」
なんて殴りたい男なんだこいつ。
「あの、そのような言い方は良くないと思います。いくら王子様だからといえ、貴方はお願いをしている立場です。でしたら、それ相応の頼み方というものが──」
「なぜ無関係な君にそんなことを言われなければならない。僕は君に一切話しかけていない」
前まではあんな馬鹿に付き合わされて可哀想とか思ってたけど、逆だな。こいつと付き合うならあれくらい暴走しないとダメだわ。
「そうかもしれませんが──」
「いいよリシア。話すだけ疲れる。それよりもシスタのことをお願い」
私がいなくなる時は本当に怖いからな。連れて行きたいけど、またあの馬鹿に何言われるか分かったもんじゃない。
「王子様もさっさと席に着いてはどうですか? まさか王子様ともあろうお方が立って授業を受けるなどと言いませんよね?」
「君はよくそんな低俗な考えができるな。僕は思いつきもしなかった」
王子は最後に私に嫌味を言って席に着いた。なんなんだあいつは!
「ヴィルもか。王子はずっとあんな感じだ。とにかく自分が上であると教え込まれてきたからな、そう簡単に俺たちの言葉を飲み込むわけがない」
それがあの世間知らず設定か。いやほんと、イラつくな。
「お前も大概イラつくが、あいつは別格だな。本当に話していると頭が痛くなる」
「俺は別にヴィルをイラつかせるようなことなんて言ってないだろ!」
「リシアとシスタの前であの発言しといて何言ってんだか」
「男同士の会話なんだし別にいいだろ。それに、女だって貴族の男が皆やってるくらい分かってるって!」
本当に爽やかな笑顔でなんてこと言うんだこの馬鹿は。
「ま、お前が嫌ならやめておくから。男同士の時に話そうな!」
「話さない」
「ヴィルは冷たいな〜」
「やめろ! 近寄るな!」
「良いじゃないか! 友達だろ!」
「お前なんかと友達になった覚えはない!」
「まあそう言うな。周りを見てみろ」
不服だが、言われた通り周りを見るとご令嬢方の目がハートになっている。これ知ってる、イケメン同士の絡みを尊いとか言ってくる、そう! オタクや腐女子の目だ!
「ネイト様〜!」
「よっ!」
挨拶一つで女をキャーキャー言わせるなんて、こんなんでも攻略対象か。
「ヴィリアン様、なんてお美しいのかしら……」
そして例に漏れず私もだ。
「ほらヴィル! 応えてやれ!」
バシバシと背中を叩いてくる。やめろこの馬鹿!
とはいえ、たしかに無反応なのも冷たいな。仕方ない、笑顔で応えてあげるとするか。すると、すぐに黄色い歓声が上がった。
「今、ヴィリアン様が私のことを見て微笑んでくださいました!」
「いいえ、私ですわ!」
あー知ってる。推しが私を見た論争ね。どんな世界でどんな身分であろうとそういう根本的なところは変わらないのか。
「人気者だな〜ヴィル! 流石は俺を負かしただけはあるな!」
「昨日のだけでそんなに私のこと知れ渡ったの?」
「大半は俺目当てだったと思うけどな。あとお前婚約指輪してないから狙い目だと思われたんだろ。ま、良いじゃねーか。モテて悪いことはない!」
「大アリだよ」
婚約話なんて持ちかけられたらどうしてくれるんだ。はぁ、帰ったら母親に怒られそう。




