忠告
私は全員の名前を書き留め、最後に忠告をした後解放した。
「あの、おに──」
「流石は師匠! 俺達じゃ相手にできなかった相手を一瞬で全員組み伏せるなんて!」
「口切ってるんだから喋らない。それにしても、どうして立ち向かったりしたの。危ないことに簡単に突っ込まないの」
「師匠前に言ったじゃないですか。師匠の妹様が困っている時、俺らは師匠が来るまでの時間稼ぎをしろって。ちゃんとできていましたよね!」
褒めてほしい犬みたいに全員見えない尻尾を振り、目をキラキラと輝かせている。本当は叱るべきなのだろうが、これは叱れないや。
「全員良くやった」
私ができるのは期待通り褒めることだけだ。
「あの、ありがとうございます、みなさん」
「大丈夫ですよ! 私達は師匠の言いつけを守っただけですから! 師匠に認めてもらうためなら、いつでも駆けつけますからね、妹様! あとご友人様!」
「あ、えっと、シスタで大丈夫です」
「私もリシアで構いません。私は様をつけられるような身分ではありませんので」
「そんな! 我々がお二人を名前で呼ぶなど烏滸がましいです! 我々はまだまだ全員ク──」
「生徒の皆〜、ちょーっとお話いいかな〜」
なんでしょうか! と目をキラキラさせたクソガキ共を前に、笑顔を保ったまま話しかける。
「くれぐれも、くれぐれもだよ、私が君たちのことをクソガキだゴミだと呼んでいたことを他言してはダメだよ、絶対に。破ったらどうなるか分かるよね」
「は、はい……」
「よろしい。ほら、もう教室に向かうこと。君は医務室」
「え〜、師匠ともっといたいです〜」
「私だって教室に行かないといけないんだから。ほら、行った行った」
「はーい」
皆渋々自分たちの教室に向かっていった。
シスタとリシアのメンタルケアはニーファがやってくれているようだし、私の出番は無いかな。
「二人とも大丈夫だった?」
「私は大丈夫です。慣れていますし、覚悟もしていましたので」
「無理しないでね」
「はい。助けてくださりありがとうございます」
「うん。シスタは大丈夫?」
「はい、大丈夫──」
シスタの目からは静かに涙が流れ始めた。そのことに気づいたシスタは私が抱きしめるより早く、私に抱きついた。
「お兄様、怖かったです。また、殴られてしまうのではないかと、怖かったです」
「ごめんね、側にいられなくて」
シスタは何も答えず、首を横に振った。
そんな泣いているシスタをただ髪が白いからと気味悪がり、悪口を言う人が絶えない。さっきの事を見ていなかったのか、それとも見てもなおそう言ってくるのか。睨みを聞かせれば一旦は静かになるが、それでも悪口は途絶えない。
私の優しさに漬け込んでいるだとか、媚びを売っているだとか、中には呪われた私可哀想と、私に対して自己アピールしているだとか、本当に散々な言われようだ。
そんな状況でキリがない為、私はマントを取ってシスタに被せた。
「シスタ、教室行こっか。ここ、ちゃんと掴んでね」
私は胸元の襟をシスタに掴ませたあと、お姫様抱っこをした。
「ごめんニーファ、シスタの鞄も持ってくれる?」
「かしこまりました」
「リシアも行こう。ここにずっといると悪目立ちするからね」
「そうですね」
リシアは移動中もチラチラとシスタを心配そうに伺う。
「大丈夫だよ。シスタも大分落ち着いてきたから。さっきは昔のことがフラッシュバックしちゃったんだよ」
「一つ聞いてもよろしいですか?」
「どうしたの?」
「ヴィリアン様とシスタちゃんの関係を知らない方って実は多かったりしますか?」
「そうだね。シスタは表に出ることがなかったから、シスタの名前や身分自体知っている人は少ないね。別に我が家自体がシスタの存在を隠していたわけじゃなくて、シスタの意思で表に出なかっただけ」
「そうなんですね」
「もしシスタのことで知りたいことがあってもあまり私には聞かないでね。私の勝手な判断でシスタのことを話すわけにはいかない。誰だって言われたくないことはあるからね」
「そうですね。大丈夫です、聞こうとは思いませんので。ただ、今回に関しましては囲まれた時や周りの方の話声に違和感を持ちまして。それに、以前会いました騎士団の団長さんの息子さんの反応からももしかしてと思いまして」
「リシアや私の生徒みたいに話すタイミングがあれば周知させていけるんだけど、中々難しいね。それに、言ったところで今回のようなことが無くなるとは思えないし。できるだけ側にいてあげられるようにするつもりだけど、それはそれで敵を作ってしまいそうだし。本当に難しいよ」
はぁ、とため息を零すと、シスタが私の服を引っ張った。
「どうしたのシスタ?」
「もう大丈夫です。ありがとうございます、お兄様」
「自分で歩く?」
「はい」
私はシスタを降ろし、マントをまた身につける。
少し乱れたシスタの髪を手櫛で少しずつ直していく。
「お兄様」
「うん?」
「あまり私のことで悩まないでください。大丈夫です、私は受け入れられますので」
「受け入れちゃダメだよ」
「ですが、私のこの姿はどうしようもないですし、疎まれてしまうこともどうにもできません。大丈夫です、私さえ我慢すれば、解決できないことでお兄様が悩まれる必要もありません」
「シス──」
「ダメだよ、シスタちゃん」
私が声をかけるよりも先にリシアがシスタの手を取った。
「シスタちゃんが諦めてしまうと、誰かに助けられる度にシスタちゃんが苦しくなっちゃうよ。助けられることが苦痛になっちゃう。そうなると誰も助けられなくなっちゃう。ヴィリアン様だって、シスタちゃんを助けることが苦痛になっちゃう。助けることでシスタちゃんを傷つけてしまうから。だから、ヴィリアン様のことを思うのなら素直に助けを求めて。そうしたら、気兼ねなく力を貸せるから」
「ありがとうリシア」
私の言いたいこと全部言ってくれて。
「……うん、そうだね。私間違えるところだった。ありがとうリシアちゃん」
そういえば、これってゲーム本編でも似たようなセリフがあったような気がする。たしか、私の部分がリシアを指す言葉だった気がする。
うんうん、順調に仲が深まってくれている。私やラウザ以外にも心を許せる人ができてくれれば、多少なりともシスタの悩みを抱え込まずに済む。というか、シスタって何故か私には悩みとか話してくれないんだよね。私が勝手に動くことを恐れているのだろうか。たぶん経験上そうだろうな。




