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救出

 私は馬を馬車の停留所に置き、歩いて町を探す。馬に乗っていると警戒されるかもしれない。だから、ラウザと同じくネギを背負って自分の足で歩く。

大通りはもう探し切っているだろう。それでも見つからないのなら、路地裏にでも迷い込んだとしか思えない。ラウザは賢いけど、変に意地っ張りなところがある。一度は気が引けても、僕は強いとかなんとか自分を鼓舞して路地裏に入っていってしまったなんてありえる。

流石の私も丸腰で路地裏に入るのは勇気がいるから、杖を構え、いつでも魔法を撃てるようにする。


 どれほど歩いただろうか、もう大通りの賑わいは聞こえず、ブンブンと虫が集っている音しか聞こえなくなった。鼻が曲がりそうで吐きそうな臭いがそこら中に充満し、すれ違う人は大人子ども関係なく刺すような目で私を見てる。いつ襲いかかってきてもおかしくないだろう。

こんな道を歩いていると思い出す。乙女ゲームにも人攫いイベがあった。主人公が町を歩いていると攫われて、好感度の高いキャラが助けに来てくれる。けど、好感度を上げきれていないと、そのままバッドエンド。全員の好感度を均等に上げなければならない、逆ハーエンドを狙う人にとっては鬼門となるイベントだ。


「そういえば、主人公が攫われる時、汚い馬車に乗せられていたっけ……。まさか!」


私は足元に魔法を発現させ、路地裏全体が見えそうなほど高く氷を伸ばした。


「……あった!」


私は氷で滑り台を作り、下に降りた後に魔法を解除し、走り出した。


「あそこしかない、絶対あそこしかない。あんな不自然に建物の前に止まっている馬車があるもんか。あそこにラウザがいる!」


私はとにかく馬車を目指して一直線に走る。

人とぶつかりそうになっても足を緩めず。


「────ッ!」


そして、足を止めた。

ほんの僅かに聞こえたくぐもった叫び声。あれはたしかにラウザの声だった。

その声の方に視線を向けると、何かを抱えた男がいた。壁で完全に遮られる前に見た物は、ラウザと同じ靴を履いた足だった。


「……うちの弟をどうするつもりだ‼︎」


魔力をとにかく早く体内で循環させ、身体強化を行い、思いっきり走った。

どうにか後ろにつき、あともう少しで追いつくといったところだった。男が急に体の向きを変え、ラウザの首に剣を突き立てた。


「魔法使いさんよお、それ以上近づいたらどうなるか分かってるんだろうな?」


男が口笛を吹くと、隠れていた輩がゾロゾロと湧いて出て、私を囲んだ。


「少しでも杖を振ってみろ、その瞬間、スパッだ」


ラウザは髪を乱暴に持たれ、上を向かされている。顕になるその細い首は、本当に呆気なく斬れてしまいそうだった。


「杖を捨てるように言わないのか?」

「魔法使いは小賢しいからな、捨てる瞬間の手の動きで魔法をかけるなんてことも普通にありえる」


御名答〜。人攫いのくせに詳しいな。


「金か?」

「そうだ」

「でも、金を渡しても解放してくれないだろ? それどころか、お前らのことを知った私を殺すんだろ」

「は、ははは、ひゃー、お前俺らをそんな血も涙もない輩だと思ってるのか⁉︎ 見る目あるじゃねーか! その通りだ!」

「てっきり、そんなわけないだろうとか言って、巻き上げるだけ金巻き上げて殺すもんかと思ったよ」

「お前みたいな奴にそんなこと言ったって無駄だろう」

「そうだね」


さて、どう切り抜ける。ソルシーなら杖を振ってないも同然だから、簡単に助けられる。教官ならあの剣がラウザの首に入る前に止められる。でも、私はできない。私を警戒してか、ジリジリと近づいてくる奴らの仲間ども。おそらくこいつらに手を出そうとした瞬間、首とは行かなくてもラウザを傷つけることは簡単にするだろう。そして、ラウザに近づけば簡単に殺してしまう。ここまで来ると助けも期待できない。私がなんとかするしかない。

とにかく時間を稼いで、可能な限り杖に魔力を収束させる。大丈夫、時間さえかければ杖を振らなくても魔法は発動できる。


「ところで、人攫いって人を攫ったあとはどうするの? 奴隷? それとも臓器が目当て?」

「可哀想だから教えてやるよ。こういう育ちの良さそうなのはな、一部の金持ちが好んで買うんだ。男児を犯すのが好きな物好きも金持ちには多いからな。あとは臓器だな。育ち良さそうだもんなお前、高くつくだろう。ま、どうするかは結局金次第だな」 

「へー。ちなみに、今まで何人攫ってきたの?」

「そんなん覚えてねーよ」

「じゃあ、今まで何人殺してきたの?」

「もっと覚えてねーよ。何しろ、お前みたいな邪魔する人間は一人残らず始末してきたからな。特に家族とか親しい人の前で殺すのはすっごく気持ちが良い。皆揃って自分のせいで死んだって絶望の表情を浮かべるからな! ああ、こいつはどんな表情を浮かべるんだろうな。目の前で兄が死んだらどう思うのか。逆にお前はどう思うんだ? 目の前で弟が死んだらどんな表情をするんだ! そのムカつく澄ました顔も少しは俺好みの顔になるのか⁉︎」


抑えろ、抑えろ私。暴走させるな、溢れる魔力は全て杖を通せ。絶対に内から出すな。


「さあね。ま、お前の好みが絶望顔というのなら、喜んで満面の笑みを浮かべるよ」

「ちっ、なんだよつまんねーな。おい、さっさと始末しろ」

「うっす!」


奴の仲間が武器を構えて私に歩いて寄ってくる。そいつらに気がいきそうになるが、とにかくラウザを見て、ラウザを助けることだけを考える。

大丈夫、私ならできる。こいつらは全員合わせてもあのジジイより弱い。なら、絶対にできる。私は怪我をしても構わない。欠損しようが構わない。シスタを守る手段は減るけど、ラウザを助けられないよりはマシだ。剣を振った瞬間、魔法を一気に発現させる。もう十分魔力は溜まった。あとは奴の視界から私が消える一瞬を狙う。さあ、魔法よ応えろ。振ってないから私もどんな魔法が出るかは正確には分からない。ただ、ラウザを助けられる魔法よ、出ろ!


 その瞬間、突風が吹いた。まるで嵐が私の背中を押したようだ。私の周りにいた奴の仲間は皆吹き飛び、すぐ隣にはラウザがいた。

奴はラウザから剣が離れたのを見て、すぐにまたラウザの首を斬ろうと振った。が、私の方が早かった。こんな奴でも、資格の無い私が殺したら両親や教官に迷惑がかかる。命の危機にあるのは私じゃなくてラウザだから。そういうわけで、剣を防いだあと、ラウザを掴んでいる奴の腕を思いっきり突いた。汚い悲鳴を漏らし、捨てるようにラウザから手を離した。

尻もちをついたラウザを横目に、私は氷魔法で奴らを動けないようにした。誰も取り逃がしていないことを確認し、あと念には念をということで、全員気絶させてからようやくラウザと向き合った。


「ラウザ! 良かった、良かった〜。怪我はない? 気分は? 怖かったよね、すぐに助けられなくてごめんね〜」


ラウザを強く抱きしめた。それはもう強く。もう二度と離さない。離すもんかというほど強く。


「……どうして、どうして怒らないんだ」

「怒らないよ。だって、ラウザが無事なんだから」

「どうして、だって姉さん、僕のこと嫌いじゃないか……」


ラウザの口から信じられない言葉が出た。私がラウザのことを嫌いだって? そんなこと万が一にもない。だって──


「嫌いじゃないよ。嫌いなわけないよ! むしろラウザが私を嫌っていたんでしょう?」

「僕が姉さんを? 僕がどうして姉さんを嫌うんだ! 僕は、僕はただ、姉さんに見てほしかっただけなんだ……」


ラウザはそう言って泣き始めた。声を上げるでもなく、ただポツポツと涙を零していく。

とても事情を聞ける状態ではなく、私も私で意味が分からず、でも、私が理由だったと知り、ショックを受け、頭の中の整理がついていなかった。ただ呆然と目の前の泣いているラウザを見つめることしかできなかった。

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