授業を始める
気まずい空気のまま職員室に入り、時間になるまで座って待つことにした。座るといってもイスに座るわけではない。半年ほど前から、何をするにも座らなければならない時は、せっかくだから空気椅子をしていた。食事をする時も勉強をする時も。そんな生活を続けていたせいか、今の私はイスがあることに違和感を感じるようになってしまったのだ。
「あ、鐘がなりましたね」
「そ、そうですね、行きましょうか」
教室の前に来ると、なぜかレティスさんは通り過ぎていく。
「あの、教室ここなんじゃ?」
「そこはヴィリアン様の担当教室ですので。じぶんはもう少し先の教室です」
「え? 私教師の補佐じゃないんですか?」
「補佐を雇えるほどここはお金も人手もありませんよ。誰に言われたんですか?」
「ソルシーです」
「魔法に関すること以外は、ウィザルド様の言うことを馬鹿真面目に受け取ってはいけないと有名ですよ」
心なしか呆れられた気がするのだが、気のせいだよね。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
ソルシーめ、次会った時覚えてろ〜。
「はぁ、仕方ない、やるとするか。もし無理でもソルシーのせいにすれば気が楽だし」
私は意を決してドアを開けた。会話を楽しんでいた生徒達は皆一様に静かになり、教壇に立った私を見た。そして、また会話を始めた。舐められてるな。
「初めまして、これから皆さんの教師を務めさせていただきます、ヴィリアン・ロジャーです。どうぞよろしく」
挨拶を終えると、おそらくリーダー格と思われるちょっと良い服を着た男児が私目掛けて石を投げてきた。んなもん教室に持ってくるな。
「引っ込め! お前みたいなガキが教師とかふざけんな!」
はぁ? ガキだと? はぁ? ふざけんなこのクソガキめ。あーやめたやめた。穏便に教師をやろうと思ったけどやめたわ。
「かーえーれ! かーえーれ!」
クソガキに釣られて他のクソガキ共も帰れコールを始めた。時には笑いながらゴミを投げてきたりと。かすりもしていないがムカつくものだ。
「ふふ」
「何笑ってんだ、気持ち悪りぃ」
こちとら自分勝手な先生と口の悪い理不尽なほど容赦のない教官に散々しごかれてきたんだ、その二人のハイブリッドでお前達を教育してやる。
「黙れこのクソガキ共め! 魔法もまともに使えないゴミ共が! この教室にいる以上、お前らに自由など決して許さん! 文句があるなら魔法で私を黙らせろ!」
「はぁ? 何良い気になってんだよ。お前俺らと年そんな変わらないだろ。ちょっと魔法が使えるからって、調子に乗んじゃねーよ!」
リーダー格が殴り掛かってきたので、軽くいなした後杖を振り、氷の重みで起き上がれないようにした。
「ふざけんなよおい!」
「おやおや、まだそんな口が聞けるとは感心だな〜」
杖を振ってさらに氷の数を増やした。
「や、やめろ!」
「は?」
「ひっ、や、やめてください、お願いします!」
「何をかな〜」
私は今までの氷とは明らかに大きさが違う氷を作りながら聞く。
「うぐっ、な、舐めた口聞いてすみませんでしたー!」
「よろしい」
氷を消して解放してやった。
「ひっ、うぐ、えぐ」
泣くとは情けないな。しかし、ソルシーの言う通り本当に魔法で黙らせてしまった。なんか悔しい。
「では改めて、ヴィリアン・ロジャーです。私に教えられることに文句ある奴いる? いたら相手になってあげるよ」
先ほどとは打って変わって静かになった。まるでお通夜だ。
「よろしい。ああ、そこのクソガキ、次はないから覚えとけ」
「ひ、はい!」
「それじゃあ誰も不満がないということで、ルールを教えます。守らなかったらどうなるか分かったね。分かったね?」
まるで命でも握られているかのような悲壮な顔をしながら皆頭を下げた。
「では、ルールを発表します。多くないから簡単に覚えられるよ。私が上、お前らが下。身分とか家計の状況とかに関わらず、下のお前らに差などない。決して見下すな、従うな。それと、喧嘩はよくてもいじめはするな、面倒くさいから。全員と仲良くしろなんて言わない。気が合う人間なんて少ないんだから、気に食わなければ関わるな。それと授業は真剣に受けろ。以上! 私に文句があるなら魔法でねじ伏せてみろ。……うん、無いみたいだね。それでは授業を始めます」
こうして、聞き分けの良い生徒達との楽しい楽しい授業が始まった。




