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スティーディア・エスマルト⑧

「学園での教職ですか?」


 珍しく旦那様と奥様揃っての呼び出しだったので、普段よりも緊張して応じてみたが、蓋を開けてみたら意外と大したことのないお願いだった。


「はい。子供達も再来年には学園生になります。現状、ヴィリアは男性として過ごしています。事情を知っている方がいれば、いざという時サポートもできますし、ヴィリアも安心して過ごせると考えたのです。ですが、ヴィリア以上に心配しているのはシスタです。あの子がどんなに良い子であろうと見た目で迫害を受けてしまうでしょう。ヴィリアがついているとはいえ、ヴィリア以外の全ての人から疎まれてしまえば、あの子は酷く傷ついてしまうでしょう。学生というのは人生で一番楽しい時期です。そんな貴重な時期を嫌な思い出で染めたくないのです。ですので、スティーディアさんには担任としてヴィリアのサポートと可能な限りで良いのでシスタを守ってほしいのです」

「シスタが傷付けば、ヴィリアラも酷く悲しむだろう。二人の学園生活を守る為にも、どうか手を貸してください。スティーディアさんの貴重な時間を奪ってしまうことは十分に理解しています。公爵家としても相応の保証はするつもりです。ですので、どうかお願いします」


 お二人は深々と頭を下げられた。公爵と公爵夫人が頭をこれほどまで下げる相手なんて、普通なら陛下くらいしかいない。

 それほど貴重な頭を私なんかに下げられている事実に動揺している一方、少し冷静な私もいる。子供を守る為に全力で動いている親を見て、深い愛情を感じていた。


「頭を上げてください。その話、引き受けさせていただきます。私もお二人には笑顔で過ごせる人生を歩んでほしいと願っておりますので、私の時間を捧げるだけでそれが叶うのでしたら、喜んでお引き受けします」

「ありがとうございます」


 お二人はまた深々と礼をした。



 担任となる為には一年の教師生活が必須の為、翌年から歴史教員として家庭教師と並行して学園でも教鞭を取り、その翌年には公爵家からの後押しと、そもそもやりたがる人がいなかった為、ヴィリアラお嬢様方の担任となった。


 シスタ様の件で生徒間での問題はヴィリアラお嬢様筆頭に御友人の方が動いてくれていたので、教師の方は私とソルシー、サベル教官とスウォルド教官で教員がシスタ様に無礼を働かせないように動いた。

 何度かシスタ様の身が危険に陥ったり、偏見を取り除くことはできなかったけれど、常に監視の目を付けていたおかげか、教員がシスタ様に危害を加えたり、差別を行うことは防げたので与えられた役割は十分行えたと思う。


 何より、笑顔で卒業式を迎えるお二人を見てそう思わずにはいられなかった。本当に色んなことが起きた学園生活だったと思う。普通の人が本来過ごす学園生活よりも遥かに嫌な思いもしただろうけど、その分絆も深まってくれたと信じている。


◇◆◇◆◇


「ティディ」

「どうしましたか?」

「これ」


 卒業後も教員試験があるまでは変わらず家庭教師を続けることになっている。

 今日はヴィリアラお嬢様卒業後二回目の家庭教師の日、帰り支度をしていると、一度部屋を出たはずのヴィリアラお嬢様が戻ってきた。


「何が良いか分からなくて、ペンとかじゃないから普段から役に立つものじゃないけど、良かったら受け取って」


 ヴィリアラお嬢様から受け取った箱は細長く、とても軽かった。


「開けても良いですか?」

「いいよ」


 破らないように包装を剥がし、ゆっくりと箱を開けると、ネックレスが入っていた。

 魔力を取り込んでいる珍しい宝石である魔宝石がついており、透明な宝石の中で様々な色が輝いている。

 魔宝石自体貴重かつ高額で、取り扱っている店自体少ない。持っていたとしても、いざという時の魔力供給に使うのが本来の使い方から、魔宝石のアクセサリーなんてこの世に存在しないはずなのに。

 ヴィリアラお嬢様が一生懸命悩んで私の為の贈り物を選んでくれた事がどうしようもなく嬉しい。


「ありがとうございます、ヴィリアラお嬢様。一生大切にします」

「そうしてくれると嬉しいな。もし売られていたら悲しい」

「絶対にしません。たとえ全ての財を失おうと、このネックレスだけは手放しません」


 ヴィリアラお嬢様は恥ずかしそうに微笑み、照れ隠しなのか髪を親指と人差し指で弄り始めた。


「そこまで言ってもらえるの凄く嬉しいけど、なんだかちょっと照れくさい」

「私の本心ですよ。ヴィリアラお嬢様からの贈り物です、私にとっては特別大切なのです」

「そうなの? ソルシー……があげるのかは分からないけど、ソルシーとか御家族からのものとか、もっと特別な贈り物あるんじゃないの?」

「いいえ、ヴィリアラお嬢様からの贈り物が一番大切です。私にとってヴィリアラお嬢様は──」

「私は?」

「いえ、なんでもありません。学園卒業後の貴重な休みの日々です。仕事が始まってしまえば今ほど自由はきかないので、勉強もしてほしいところですが、今はそれ以上にシスタ様やラウザ坊ちゃまとの時間を大切にして下さい。私はこれで失礼します。改めて、素敵な贈り物をありがとうございます」

「ええ⁉︎ ちょっと、何言おうとしたのか気になるんだけど!」


 私は笑顔だけ返して、何も答えずに部屋を後にした。

 おそらく、ヴィリアラお嬢様に教えることはないでしょう。私にとってヴィリアラお嬢様は娘のような存在であるということを。

スウォルド教官はラウザの剣の先生です。

魔宝石はソルシーから買いました。


四章第三部終わりです!

スティーディア回がこんなに長くなるとな思いませんでした。ですが、ティディは家庭教師ということもあり、ソルシーほど頻繁に出ることはありませんでしたが、一方その頃で一番色々とやってくれたのはティディだった為、たしかに長くなっても仕方ないなと書きながら思っていました。

とはいえ、長々書きたくないので学園編での活動は省略しましたが。


次話からはヴィリアラ視点に戻ります。五章ではなく、四.五章となります。ですので、次章は別キャラ視点ありません。

また長々とお待たせしてしまうかもしれませんが、間が空きつつも投稿はしていくので、気が向いた時に投稿されていたら読みにきてください。

四.五章は早くても再来週からの投稿になります。

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