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スティーディア・エスマルト⑦

 ヴィリアラお嬢様が十歳になられた。未だにラウザ坊っちゃまとの関係に悩まれているようだけれど、剣術を認めてもらったという事が余程嬉しかったのか、最近は溜息の数が減っている。


「そういえばティディの人脈どうなってるの?」

「……? おかしなところはないと思いますが」

「そうじゃなくて、人脈が広いって意味。あのおっさんもティディの紹介って聞いたよ」

「そういう事でしたか。大したものではありませんよ。ソルシーは前職の縁ですし、サベル教官もたまたまご子息に護衛してもらっただけですから、私と直接交流があるわけではないので」

「だとしてもだよ。聞けばソルシーもあのおっさんも界隈ではトップの凄い人だって話だし」

「でしたら、そのお二人を師に持つヴィリアラお嬢様は私より凄い人ってことになりますね」

「私は人脈自体は狭いから」

「ふふっ、それもそうですね。話が脱線しましたが、私の人脈が広いというのは認めます。元々小国とはいえ貴族の出ですので、貴族同士の交流はありましたし、家を出てからは研究の為に各国を旅してきたので、そこで縁がたくさんできましたね」

「へー。……もう旅はしないの?」


 ヴィリアラお嬢様は恐る恐るといった感じで聞いてきた。

 感情を隠しきれていないその様子が子どもらしくて可愛らしかった。


「そうですね。調べ事でしたら、この国は申請さえすれば必要な文献や書物を取り揃えてくれますし、ソルシーに頼めば比較的早く、かつ安全に行きたい場所に連れて行ってくれますので、旅をする必要性はなくなりましたね。なにより、ヴィリアラお嬢様に勉強を教えないといけませんので」


 ヴィリアラお嬢様はその答えを聞くとホッと胸を撫で下ろした。


「でも、残念だなって思わない?」

「いいえ。旅は大変ですからね。お金もかかりますし、護身術を身につけている人ならともかく、私のように戦闘力のない人間は常に殺される恐怖を抱いているので、むしろ今の安定した日々に安堵しています」

「そんなに危ないの?」

「人の手が行き届いている場所ならともかく、そうでないと魔物も賊も普通に彷徨いているので。ケチって大して実力のない護衛を雇うと、その日のうちに殺されるなんて事も多いですし、逆に護衛に殺されるなんて事もあります」


 ヴィリアラお嬢様には少々刺激が強すぎたのか、呆気に取られた表情になった。


「怖いね」

「そうですよ。町でも路地裏とかは無法地帯ですからね」

「人攫い多い言うもんね」

「そうですね。ヴィリアラお嬢様も魔法を教えに行く時はくれぐれも気をつけてくださいね。護衛の方がいるとはいえ、慢心しないでくださいね」

「え、あ、うん。そりゃもちろん気をつけるよ」


 ヴィリアラお嬢様との付き合いの長さで分かる。きっと、人には言えない何かを魔法を教えに行く時にやっているのでしょう。

 おそらく鍛えるとかの理由で教室まで走っているとかでしょう。

 旦那様か奥様に報告すべきでしょうが、確信がない以上は伝えられない。何より、ラウザ坊っちゃまの事で悩まれているヴィリアラお嬢様の数少ない我儘を無くして、ストレスを溜めさせたくない。

 でも、凄く心配。すぐ側に護衛がついているとはいえ、一瞬の隙に攫われたりなんてしたら、私は一生後悔する。


「と、いう事なの」

「大丈夫だと思うけどね〜。ヴィリー様それなりに戦えるし、その辺のごろつきなら倒せるよ」

「あなたは強いから弱い人の事が想像できないだけでしょ! いい、ヴィリアラお嬢様がどれだけ強くたってまだ十歳の子どもよ、その気になれば容易に攫われるわよ!」

「スティーディア、お酒その辺にしなよ。私酔っ払いの相手とかしないからね」

「あなただって、ヴィリアラお嬢様攫われたら嫌でしょう。ましてや殺されたりなんかしたら!」

「それはそうだけど〜。大丈夫だよ、ちゃんと道中安全かくらいは確認しているから」

「でも万が一があるじゃない!」

「ないよ。そもそもね、見習いとはいえ歴とした魔法使いが通勤しているんだよ。変なのいたらヴィリー様が通る前に始末してるよ」

「でも〜」


 ソルシーは苛立ちを覚えたのか、眉間に皺を寄せ、私が手に持っていたお酒を取り上げた。


「言っとくけど、魔法使いは魔力を見る事で常人よりも多くの情報を得ている。生物から漏れ出る魔力から、あまりに離れていなければどこに生き物が隠れているのか、それはどれくらいなのか、魔法の扱いに長けているのか容易に分かる。その魔法使いが、公爵邸の庇護化を離れた場所はヴィリー様が安全に通えるように事前に見回りをしているの。だから絶対安全って言っているの。下手な護衛をつけるよりも絶対に安全なの。何より、道中には私の魔力を残しているから、もし何か異変があった時はすぐに駆けつけられるようにしている。だから、絶対、安全、なの! 分かった⁉︎」


 普段のソルシーからは考えられない気迫が私の酔いを一気に醒ました。


「え、ええ……。なんか、ごめんなさい」

「まったく、失礼しちゃうよね」


 そう言っていたソルシーだけれど、ヴィリアラお嬢様が三日寝込む原因をソルシー本人が作った時は流石に頭にきたので、奥様と旦那様も提言したとのことだったけれど、私はそれ以上にソルシーを叱りつけていたと思う。今までの人生で一番怒った。そして、おそらく今後の人生でもこの日ほど怒りを持つことはない。

遠距離でも自分の残した魔力の異変を感じ取れるのはソルシーくらいです。

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