スティーディア・エスマルト⑥
私はヴィリアラお嬢様の家庭教師が気に入っている。叶うならば、ヴィリアラお嬢様が成人なさるまでは教え続けたい。そう考えていた。
しかし、もしかしたら私は今日をもってクビになってしまうかもしれない。
「ヴィ、ヴィリアラお嬢様、そ、そのお姿は……」
この前まで綺麗に伸びていた髪は短く整えられ、女の子らしさが詰まったドレスから私が買ってきて男児用の服に身を包まれていた。
「あーこれ? シスタを守る為だよ」
少しは納得のいく説明をされるのかと思いきや、返ってきたのは訳のわからない返答。
やはり病気や度重なるストレスの後遺症だったりするのでしょうか? 誰か教えて下さい。私は今にも泣き出しそうです。
「ヴィリアラお嬢様、とりあえず医者を呼びましょう」
「ティディも後遺症だと思っているわけ? そんなわけないじゃん。これは私からシスタへの深い愛と覚悟の結晶だよ」
後遺症でなければそれはそれで安心しますが、その愛と覚悟を固めさせるのに服という要素が必要だったのであれば、やはり私は自分の手に負えないとんでもない事をやらかしてしまった事になる。
「ヴィリアラお嬢様、もしかしたらお会いできるのが今日で最後になるかもしれません」
「何言ってるの?」
「大人の世界というのは時として残酷なのです」
ヴィリアラお嬢様はイスの上に立ち、私の頭を抱き寄せた。
「なんかよく分からないけど、大丈夫だよ。何かあったら私が味方してあげる。だから、元気出して」
「ヴィリアラお嬢様……」
お言葉はとても嬉しいのですが、そもそもの原因がヴィリアラお嬢様のそのお姿なのです。
◇◆◇◆◇
いつものようにはいかずとも、どうにか家庭教師の時間を終え、公爵邸を後にしようと移動していると、メイドの方から旦那様がいらっしゃる書斎に向かうよう言伝を貰った。
やはりクビの話かと落胆して書斎まで赴くと、全く違う話だった。
「実は、ヴィリアラが剣術を習いたいと言い出したのですが、親としては諦めさせたくて。それに、剣術を断念すればあの格好もやめてくれるのではと。ですので、死なない程度に無茶をさせても構わないので、諦めさせる為に厳しい先生をつけたいと考えているのです。しかし、わたしが紹介できる者は皆、ヴィリアラを追い込めないと判断しまして。スティーディアさんなら顔も広いですし、アテがあるのではと考えたのですが、どうでしょうか?」
剣士の知り合い……。護衛でよく雇っていたからいないわけではないけれど、公爵邸に出入りさせても問題なく、かつ公爵令嬢にも忖度しない……中々難しい──あっ。
「一人心当たりがいます」
「本当ですか⁉︎」
「ムッシュ・サベルという方です。彼自身と直接的な関わりはありませんが、ご子息にこの国に入った時護衛をお願いしまして、多少の縁はあります。引き受けて下さるかは分かりませんが、手紙を出して聞いてみます」
「そうですか、ありがとうございます。返事がきたらまたお伝えいただければと思います。すみません、引き止めてしまって」
「いえ。それと、今回のヴィリアラお嬢様の行動に関しては私にも責任があります。申し訳ありません」
「服の事ですか? でしたら問題ありませんよ。こちらこそ、ヴィリアラが変な事を頼んで申し訳ない」
その月の給料はお詫びの意もあったのか、普段の倍の額を貰った。




