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スティーディア・エスマルト⑤

 シスタ様の腕が治ってしばらくして、ヴィリアラお嬢様は上機嫌におかしな事を仰った。


「ねえティディ」

「どうされましたか?」

「男児用の服一式買ってきてくれない? お金は公爵家につけるか、無理だったら立て替えてほしいんだ」


 そう言いながら、サイズを参考にしてとヴィリアラお嬢様の服を何着か手渡してきた。


「構いませんが、理由を聞いても?」

「大切な存在の為だよ。まあとにかくよろしく。センスはティディに任せるから。あ、あと魔法の件はどうなっている?」


 できれば忘れていてほしかった質問をよりにもよってこのタイミングでされてしまった。


「旦那様と奥様には紹介予定の魔法使いについてまとめた手紙を読んでもらい、本人の了承があれば雇うという話になっています」

「じゃあ!」

「ですが、当の本人が今国を離れておりまして。手紙は出したのですが、いつ戻ってくるかは明確にできません」


 キラキラさせていた目から一転して、残念そうな表情を浮かべた。


「そっか……。まあ仕方ないね。もし進展があったら教えて」


 ヴィリアラお嬢様はそう言って、微妙に口角が上がりきっていない、我慢した笑顔を浮かべた。


「もちろんです。では、そろそろ授業を始めましょう。シスタ様の為にも」

「うっ、シスタを出すのはずるいよ……」


 ヴィリアラお嬢様は渋々真剣に勉強を始めた。

 全く、勉強と違って魔法に関しては意欲があるのだから、その熱意が失せる前に学ばせてあげたいのに。あの子ったら、一体いつになったら帰ってくるのやら。


「それでは、今日の授業はこの辺りにしましょうか」

「終わったー! シスタに会いに行ってくるね! それじゃあティディ、また来週!」


 ヴィリアラお嬢様は軽い足取りで部屋を出ていき、私も勉強道具一式を片付け、文献を一冊だけ借りて帰路に着く。


◇◆◇◆◇


「あら、帰ってたの」

「スティーディア! もー、どこ行ってたの? スティーディアがさっさと帰ってこいって手紙寄越したのに」


 ソルシーは開封された私が送った手紙をヒラヒラと振りながら、不満気な表情を浮かべていた。


「とりあえず上がって」

「言われなくとも。私紅茶ね。お菓子はケーキで」

「紅茶はともかくケーキはないからスコーンで我慢しなさい」


 紅茶とスコーンを出し、早速手紙の話に移る。


「それで、家庭教師の件だけど──」

「私やらないよ」

「え?」

「そんな義理ないし。子どものお守りとかやりたくない」

「そんな事言わないで引き受けてあげて。あなたが思っているような子じゃない。むしろ子どもにしては大人びすぎていて気色悪いくらいよ。あなたよりもしっかりしているし」

「えーでも〜。そもそも私自分の魔法の研究で手一杯だし〜、ちょっとここ最近出費嵩んでそれどころじゃないんだよね〜。凡人を育てたところで意味ないし〜」


 全くもってやる気を感じられないけれど、私は重要な一言を聞き逃さなかった。


「出費が嵩んでいるっていうことは、今金欠なのよね?」

「そうだよ〜。だからお金になる仕事探さないと──」

「だったら尚更引き受けなさい。あまりに法外な値段でなければ旦那様と奥様は受け入れてくれる。それに週一勤務でいい。何より、公爵家との縁ができるのよ。これほど好条件な仕事は中々ないでしょう」


 ソルシーはつまらなさそうにそっぽ向いていた顔をこちらに向け、座り直して腕を組んだ。


「うーん。でも、魔法は遊びじゃないし──」

「もしあなたが面倒見たくないと感じたのなら辞めればいい話。旦那様と奥様も強要する方じゃない。以前のように辞めると言っても引き止められることはしない。一回でいい。一回でいいから見てあげて。それから判断してあげて。お願い」

「……まあ、一回だけなら」

「ありがとう。明日にでも契約しに行ってちょうだい。今奥様は屋敷にいないから旦那様が対応される。でも、旦那様もいついなくなるか分からないから、早いうちに済ませてきて」

「はいはい。まあ、スティーディアには一応恩があるからいーよ。これでしばらく泊めてもらった恩は返したって事で」

「ええ、そうね。ソルシー、ありがとう」

「ならケーキ頂戴」

「調子に乗らない」


 私は近くの本で乗せる程度の力でソルシーの頭を叩いた。

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