駄々
男装の許可も得た、服も仕立ててもらえる、魔法の授業も始まった、剣術の教師は探してもらってる、なによりニーファがシスタの家庭教師を引き受けてくれた。あとは私がシスタを守れるほど強く立派になるだけだ! そう、それだけ。けど、道のりは私が思った以上に遠かった。
「ま、まだ半分も歩いてないの……」
家の塀に沿って歩いて二時間、まだ四分の三くらいしか歩けていない。よくよく考えたら当たり前だ。門から我が家まで馬車で十分くらいかかるんだもん。なら、子供の歩幅で、しかも塀に沿って歩いていればもっとかかる。
「ヴィリアラお嬢様、背が丸まっています。それに歩幅が小さくなっていますよ。さあ、日が暮れる前に一周歩きましょう」
歩くだけなら楽勝とか思っていた私を殴りたい。めちゃくちゃきつい。隊長、姿勢にも歩幅にも厳しいし、足を止めることも許してくれない。言い方は優しいけど、有無を言わせぬ圧が出ている。
「分かってる」
シスタのため、この汗も痛みもシスタのため。シスタのための痛み。そう思うとなんだか自然と体が楽に……なるわけない! 目の前でシスタが応援してくれるならともかく、今は重装備のおっさんしか目に入らない。おっさんからシスタを見出すなんてそんなの無理だし、むしろシスタに失礼になる。
「ペースが乱れていますよ。そんなんでは夕食の時間にも間に合いませんよ」
夕食、シスタとの夕食、歩ききればシスタに会える。こんなに頑張っているんだし、駄々をこねればシスタと一緒に寝ることも叶えてくれるかもしれない。目標の為にはご褒美も必要。さあ、頑張れ私! こんなおっさんとはおさらばして、早く我が天使シスタに会いに行くぞ! おー!
「な、なんとか歩き切った〜!」
「すごいですね、ヴィリアラお嬢様。正直なところ、今日はヴィリアラお嬢様を抱いて帰る必要があると思っていましたので、感心いたしました」
「そういうのいいから。明日もどうせ休みでしょ?」
「はい、明日は家庭教師の日ですからね。また明後日、今日と同じように歩きましょう。正式な教師がいつ来るかは分かりませんが、一月も続ければ多少なりとも変化は実感できると思います」
「まあ、見つけたとしても契約とかしないといけないだろうからすぐにはつけないだろうし、一月は確実にお世話になるよ。よろしくね、隊長」
「はい、精一杯務めさせていただきます」
「うん、お願い。それじゃあ私はもう行くね」
「送っていかなくてもよろしいでしょうか?」
「今日は大丈夫、ありがとう」
私は少々小走りでシスタの部屋を訪れた!
「シスタ! お姉ちゃん訓練終わったよ!」
「……あ、お疲れ様です、お姉様」
シスタは何かを懸命に読んでいたのか、少し反応が遅れた。
「お疲れ様です。すみません、もう少し掛かると思ってしまい、まだ何も支度が──」
「あーいいよいいよ。私のことよりシスタを見てあげて。お勉強の邪魔しちゃってごめんね」
「いえ、本日の分はちょうど終わったところですので、今お風呂の支度をしてまいります」
「そう? じゃあよろしく。シスタ、何して遊ぶ!」
「ヴィリアラ様も一緒に来てください」
「え!? なんで!?」
「汗をかいていらっしゃるようですので」
た、たしかにそうだけど、でもシスタに会う為に訓練頑張ったんだよ……。と考えているのを見破ったのか、ニーファは私の目線に合わせた。
「綺麗な姿でまたシスタ様にお会いしましょうね」
全てお見通しと言わんばかりにニコッと浮かべた笑みを崩してやりたい。なんたって私は疲れていてそこまで機嫌が良いわけではないからね。
「私の扱い分かってきてるよね、ニーファ」
「一体なんのことでしょうか」
「いやいや、そんなはぐらかさなくていいよ」
「では、お風呂でゆっくり話しましょうか」
「いや大丈夫だよ。それよりも早くお風呂の支度してきてよ。私はそれまでシスタの側にいるから」
「ヴィリアラ様のことです、一度目を離してしまえば少なくとも一時間はシスタ様から離れないではないですか」
「そんなことしないから」
「だめです」
「笑顔でそんな残酷なこと言わないで」
「だめです、一緒に来てください」
「いやいや」
「来てください」
くっ、メイドのくせに圧が強い。別にいいじゃん、お嬢様の要望を優先してくれたって。さて、どうしよう。
笑顔を崩さずに次の言葉を考えていると、シスタが私の服の裾を遠慮がちに引っ張った。
「あの、私も一緒に入りましょうか? 私は一人で洗えるので」
「へ?」
頭の中にあった全ての思考がその瞬間飛び去った。
シスタとお風呂、そんなことしてしまっていいのだろうか。いや、私達姉妹なんだから何も変なことは──いや、ダメだ! 今の言葉のせいでシスタを意識しちゃって少し視界に入るだけで心臓がうるさい。絶対お風呂に一緒に入るなんてできない! たとえモヤがかかっていようと、シスタの裸なんて見たら心拍数がカンストする! それに、理性がなくなって変なこと言ったりするかもしれないし、ここは私とシスタのためにも断ろう。
「だ、大丈夫」
「そうですか?」
「だ、大丈夫だから! その、うん」
私はシスタに顔を見られないように、ニーファの胸に顔を当てた。
「ほら、行くよ!」
「今日は甘えたいのですか」
分かってるくせに!
「いいから、早く!」
「かしこまりました。それではシスタ様、失礼します」
ニーファに抱っこされながら脱衣所に行き、お風呂の支度が済むのを待った。
割とすぐに呼ばれ、お風呂に入った。
「もうのぼせてしまったのですか?」
「うるさい!」
浴場に入って早々そんなことを言われた。ほんと、ニーファは下手に出ているのか意地悪なのか分からなくなる時があるよ。




