今だけの立場
後日、シスタに無理言って時間を空けてもらい、伯爵邸までやってきた。
流石に、用もないのに王城でということにはできなかったらしい。
しかし、あの王子が王城でないのに参加するのだろうかと少々疑問に思っていたけど、実際はいた。
正直まじかよと言いたいくらいだ。
「くだらない。君が面白いものを見せてやるとしつこいからわざわざ来てやったというのに、僕に女装しろだなんて。ふざけるのも大概にしろ。帰る」
「待ってくれよ王子! お前が抜けたら絶対ヴィルも逃げるだろ!」
「僕には関係ないことだ」
「いいじゃねーか! ちょっとくらい付き合ってくれよ!」
「しつこい」
本当に王子が帰ったら私も逃げる理由ができるだろうが、そうしたらわざわざシスタに無理言って付き合わせた意味がなくなってしまう。
「王子、ちょっとちょっと」
「君まで何か言うつもりか」
「王子の女装、エリザ様が見たらきっと喜んでくれるよ。兄の女装を嫌がる妹がいるはずないでしょう。王子だってエリザ様の男装、見られるものなら見てみたかったでしょ?」
我ながら最低な方法だと思う。
王子はため息を吐くと、腕を組んだ。
「仕方がない、少しくらい君らの馬鹿げた遊びに付き合ってあげよう」
「本当か! じゃあ全員ついて来い! 服はもう用意してある!」
着替えるといことで、男女で部屋を分けられたが、これはまずい。非常にまずい。
ただでさえ体格を隠すためにマントとか特別に作らせた男装用の服を着用しているんだ。
服なんて脱げば絶対にバレる。
「ラウザ」
「まずいですね。でも大丈夫です、僕に任せてください」
おお、ラウザ。なんて頼りになる弟なんだ。
「あの」
「お、なんだチビガキ」
「なんだその呼び方は。弟をそんな風に呼ぶな」
「まあまあ兄さん。僕は寛容ですから、この人みたいにちょっとしたことでムキになったりしませんよ」
「いや、お前短気だろ」
私はネイトの言葉を無視してラウザの頭を撫でる。
「ラウザは偉いね〜。流石だよ」
「いいな〜。僕もボスに優しくしてもらいたい」
「それは諦めてください。話は変わりますが、僕、兄さん以外の前で脱ぎたくないです。別の部屋を所望します」
なるほど、良い案だ。
「私もラウザの体を私以外に見せたくない」
「僕だって、兄さんの体を他の人に見せたくないです」
「ラウザ〜。私もラウザ以外の前で脱いだりしないから安心して」
「お願いしますね、兄さん。あ、でも、姉様の前でしたら僕も譲歩しますよ」
「私もだよ、ラウザ」
私達の会話にげんなりしたネイトは、服を渡して勝手にしてくれと言ってきた。
目は完全に気色悪いと語っていた。失敬な。
「ありがとうラウザ、助けてくれて」
「姉さんの為ですから。それにしても、本来姉さんはこういう服を着ているべきなんですよね。女装どころか正装ですね」
ラウザは服を広げてそんなことを言った。
「私はこの服装に慣れてしまっているから、女装のようなもんだよ」
「それ聞いたらお父様とお母様泣きますよ」
「聞かれなければ泣かせることもないよ」
ラウザは少々呆れた反応を見せた。
「心まで男にならないでくださいね」
「失敬な。私は立派な女性だよ」
「自分の姿を見てからそういうこと言ってください」
ラウザはそれだけ言うと、そっぽ向いて着替え始めた。
私も、何も言わずに着替え始める。
◇◆◇◆◇
着替え終わり、私達は集合場所である応接間に移動する……つもりなのだが。
「姉さん、いつまでそうしているんですか」
ソファに座って動かない私を見て、呆れたように声を掛けてきた。
「弟の女装があまりにも可愛すぎて」
という理由が七割。残りの三割は、女性だということがバレてしまうのではという不安から、体がいうことを聞かない。
「恥ずかしいこと言わないでくださいよ。ほら、早く行きますよ」
「ああ、待って。手を引っ張らないで。視界にラウザが入ったらお姉ちゃん尊死しちゃう!」
「何意味の分からないことを言っているんですか」
ラウザが引っ張って私を部屋から出そうと奮闘していると、ノックの後に誰かがドアを開けた音がした。
「お姉様、ラウザ、着替え終わった?」
シスタの呼び掛けの直後、私に触れていたラウザの手はあっさり離れてしまった。
「姉様! すごい、似合ってます! 姉様が髪を纏めている姿は久しぶりに見ましたが、すごく可愛いです! 使用人の服装も姉様が着るとまるでタキシードのような華やかさがあります! 流石は姉様!」
シ、シスタの男装! そうだ、私はその為にこんな格好をしているんだった。
ど、どうしよう。ラウザが褒めまくっているのを聞いているだけで心臓がうるさくなる。
ああ、やばい。み、見たい。見たいけど、何も起こさない自信がない!
「ありがとうラウザ。ラウザもすごく可愛いね」
「ありがとうございます! 姉さんに言われるより嬉しいです!」
「そんなことを言ったらお姉様がショックを受けちゃうよ」
めちゃくちゃショックだよ。
「だって姉さん、僕のこと可愛すぎるとか言って、動かなくなったんですよ」
「だから中々来なかったんだね。それじゃあ、ここは私に任せて、ラウザは先に行ってもらっても良い? みんな心配しているから、ラウザだけでも先に顔を見せてあげて」
「分かりました。よろしくお願いします」
ラウザが部屋を出た後、シスタは私の前に立ち、肩に手を置いた。
「お姉様、大丈夫ですか?」
ああああ! シスタに心配させてしまっている!
か、顔をあげねば。頑張れ私、平静を装うだけだ。平静を装って、似合ってるねって言うだけだ。
うん、できる。私ならできる。
「だ、大丈夫だ……よ」
あ、死んだわ。
「お、お姉様⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎ 涙が出ていますよ!」
「え、あ……」
あまりの尊さに、思わず涙が溢れてしまったようだ。
口の中に入る涙の味が、悲しみの涙の時とは違う。
「シスタが、あまりにも尊すぎて……」
そう言うと、シスタは声を漏らして笑った。
「ふ、ふふふ、お姉様、昔もそんなこと言っていましたよね。ふ、ふふ。本当に私のこと大好きですね」
「うん、大好き」
シスタは少し不意を突かれた表情をした。
「私も大好きですよ」
私の顔を見下ろすようにしているせいか、私の目の前にはシスタの笑顔しか映っていない。
思わず、また顔を伏せそうになった。
でも、それでまた振り出しに戻るわけにもいかないので、自分自身のためにも虚勢を張り、強く出る。
「私は愛しているよ」
「私も愛していますよ」
そんなことを言われて、思わず目を瞑ってしまった。
「ダメ、そんなこと言われると尊すぎて直視できなくなっちゃう」
「もう、お姉様はまたそう言って」
「シスタが可愛すぎるのがいけないんだよ!」
「しょうがないですね」
シスタの手がもう片方の肩に置かれた次の瞬間、一瞬息が奪われた。
間違いでなければ、そう、キス、された。
「シス……タ?」
「目、開けられましたね」
「いや、え?」
「お姉様が教えてくれたではありませんか。眠りについたお姫様は、みんな王子様のキスで目覚めることができると。今の格好なら、私は王子様になれますよね、お姉様」
シスタは未だ困惑気味の私にまたキスをした。
今度は一瞬じゃなく、少し長めに。
「行きましょう、お姉様。あまり長いと皆さんを心配させてしまいます」
力が完全に抜けてしまった私の手をシスタは取り、応接間まで向かった。
私は前を歩くシスタを見て、考えてしまう。
一体誰がシスタにこんなことを教えたのだろうか。物語だろうか? それとも、本当に昔の私の真似をしたのだろうか?
頭の中でぐるぐると考えを巡らせて出た最終的な結果は、ネイトによる悪影響だ。
なんて影響を与えてしまったんだネイトめ。シスタが他の人にもこの方法を使ったらどうしてくれるんだ。
きついお仕置きが必要だな。
明日もしかしたら15時代に投稿できないかもしれません。
その場合18時代に投稿します。




