頼れるは第三者
ラウザが満足するまで家をフラフラと歩いていると、お風呂上がりのシスタ達に出会った。
お風呂上がりって普段より数倍増して可愛く見えるよね。うん、心臓に悪い。
「シスタ、リシア、出たんだね。リシアは大丈夫だった?」
「はい。あんなに大きいお風呂は初めて見ましたので、少々はしゃいでしまいました」
いいな、私も仲間に加わりたかった。
「そっか、楽しんでもらえて良かった。あ、紹介するね。弟のラウザ・ロジャーです」
ラウザをリシアの前に降ろすと、少し不貞腐れたようにした。
「ラウザ、挨拶」
そう言うと、はぁとため息を吐いた後、他所行きモードになり、笑顔を浮かべて丁寧な所作で挨拶をする。
「ご紹介にあずかりました、ロジャー公爵家次男、ラウザ・ロジャーと申します」
ちゃんと挨拶もしたことなので、下げられたままの頭を褒めの意も込めて撫でる。
「ご丁寧にありがとうございます。リシアと申します」
リシアが名乗ると、ラウザは頭を上げた。
「平民ですか?」
「はい」
「どうして平民なんひゃ──いひゃいにーしゃん!」
ラウザが失言をしそうだったので、構わず阻止した。
「えっとね、リシアちゃんは聖魔法っていう、この世界ではとっても貴重な魔法を扱えるの。だから、平民でも特別なんだよ」
シスタは屈んで、ラウザと目線を合わせてそう説明した。
「聖魔法なら僕も聞いたことがありますよ。あなただったのですね」
「はい」
「なるほど、理解しました。少女失踪事件もあなたが原因で起こったようなものってことですね。それから守るために我が家に来たと。そのせいでね──兄さんはお母様に長時間怒られる羽目になったと」
「こらラウザ!」
「別に間違ったことは言っていませんよ。良いですね、聖魔法を持っているだけで平民でも特別対応ですか。姉様なんて見た目のせいで何もしていないどころか公爵家なのに迫害されているというのに」
「ラウザ、それ以上失礼を働いたら怒るよ」
「ふんっ」
ラウザはそっぽ向いて来た道を少し大きく足音を鳴らしながら戻っていった。
「ごめんリシア。弟が酷いことを言って」
「いえ、気にしないでください。弟様の気持ちも分かりますので」
「ラウザ、いつもはあんな感じじゃないのに。どうしてかな?」
「お母様が言うには嫉妬らしいよ」
「嫉妬ですか。どうしたらいいのでしょう?」
「私にも分からない。とりあえず、しばらくは様子見でいいと思うよ」
それから一日、二日、一週間経ってもラウザのリシアへの態度が良くなることはなかった。
「本っ当にごめん」
「大丈夫ですよ」
「ラウザは少し強情なところがありますからね」
ああ、今のラウザを見ていると昔のラウザを思い出すよ。あれは別にラウザが私を嫌っているわけじゃないから、関係を改善することができたけど、今回は違うから。どうしたらいいんだろう?
「ラウザはリシアのどこが嫌なんだろう? そこが分からないとどうすればいいか一切分からないよ」
「私が聞いてもきっと逆効果ですよね?」
「そうだね。リシアの話題を出すと急に不機嫌になるんだもん」
三人で思案したところで、何も良い案など浮かばなかったので、私は第三者に相談することにした。
「え? ラウザ坊っちゃまがリシアさんを嫌ってる? さぁ? 私に言われても。あ、それよりヴィリー様、これシスタ様に渡しておいてください。以前お伝えしたシスタ様の誕生日プレゼントです」
ソルシーには元々期待していなかったから問題ないどころか、ちゃんとシスタの誕プレ覚えていたのかという衝撃の方が強かった。かなり遅れているけど。
「坊っちゃんが平民の子を嫌ってるって? 俺に言われてもどうしようもないな。坊っちゃんとも平民の子とも関わったことないからな。お前がお手上げなら俺もお手上げだ。それより、悪いがしばらくここに来れなくなる。少女失踪事件のことは知ってるだろ。最近この国でも問題になってきてな、そっちに手を貸さないといけなくなったんだ。騎士団長が剣術を教えているんだろ? 旦那様に言っておいてやるから、事が収まるまではそっちで鍛えてもらえ」
教官に聞いても何も得ないどころか、さらっと師範がしばらく変わることを伝えられた。
「ラウザ坊っちゃまがリシアさんをですか。難しいですね。憶測で決めつけてしまい、ラウザ坊っちゃまの機嫌をさらに損ねてしまうことは避けたいですし。うーん、私よりも、奥様や旦那様に相談なさる方が確実だと思いますよ」
「お父様はともかく、お母様はラウザを呼び出して問い詰めそうだからダメだよ。余計機嫌損ねるよ」
「そうですか。うーん、大好きなお姉さん達が自分以外の誰かと仲良くしているのが嫌なんですかね? でもそれだともうどうしようもできませんしね。リシアさんを放置するわけにもいきませんし。やはり話してもらうのを待つしかないと思いますよ」
ティディに相談してもお手上げ。大人は全員頼りにならないということで、では逆に歳の近い人ならどうかと、さらに相談の幅を広げてみた。
「師匠の弟様の気持ち、少し分かりますよ。大好きなお姉さんが迫害されて育ってきたのに、平民なのに聖魔法を宿しているってだけで公爵家で保護してもらえるだなんて。……羨ましい! 僕も師匠の家に預かってもらいたい!」
「君の妬みはどうでもいい。仮にそうだとして、どうしたらラウザはリシアを受け入れられると思う?」
その問いには皆唸るだけで解を出すことはなかった。
本当にどうしたらいいのやらと悩んでいた時、意外なところから助言をもらった。
「大将! 何か悩まれているようですがどうされましたか?」
「いやー、実はさ〜」
私はラウザが戻ってくるまでの間に、少しはマシになった雑魚どもに悩みを話した。
「ああ、だから最近副大将荒れていたのか」
「ここでも?」
「あまりの気迫で近づけませんが、剣を振りながら、どうしてだのずるいだのずっと口にしていらっしゃいました。副大将、熱が入ると思っていることを口にする癖があるので、大将が剣の相手でもしながら問えば、教えてくれるんじゃないでしょうか?」
私が剣で相手なんてしたら一瞬で決着がつくよ。かと言って手を抜くとラウザ怒るし。でも、良いこと聞いた。
「ありがとう。たまには役に立つじゃん」
「ありがたきお言葉、感謝いたします!」
「うむ」
最近こういうのに慣れてきてしまっている。
あのクソガキ共のせいで。




