おそらく私は教師じゃない
休みに入って一週間、今日は久々に教鞭を取る日だ。
「んで、生成型と操作型には、自身に影響を及ぼすか及ぼさないかの違いがある。私で例えると、私はこの自分で発現した氷は別に冷たくも何ともない。でも、はい」
私は近くにいた生徒に氷の塊を渡した。
「うわっ、冷た!」
「そう。私以外の人には普通に冷たい氷。魔力の密度とかで冷たさをある程度操作したりはできるけど、温かい氷とか、性質が違うものは発現できない。こら、まだ持ってろ。誰が手を離して良いと言った」
「す、すみません師匠!」
「うん。ということで、魔力を極めれば、触れただけで人を凍らせる殺戮氷塊ですら作れる。これは他の属性もそう。じゃあ、生成型の魔法は一切自身に影響を及ぼさないのかと言ったら、そうでもない。例えば──」
私は氷を消して、持っていた生徒の手を握った。
女子生徒は悲鳴を上げ、男子生徒は嘆いていた。当の本人は嬉しそうにがっちりと手を握ってきた。
「静かに! 今は授業中!」
本当にこいつらと来たら。私はアイドルか何かですか?
「もう。それで、私の氷によって冷やされた手を握れば、私も冷たいと感じる。つまり、生成型は直接影響を及ぼさないが、何かを挟んでの間接的な影響は受ける。分かった?」
「あ……。僕一生この手洗わない」
手を離した瞬間何気持ち悪いこと言ってんだこいつ。
「そしたら私は一生近づかないから」
「そんな! それは嫌です!」
「じゃあちゃんと清潔にする。はぁ、授業に戻るよ。逆に操作型は普通に直接影響を及ぼす。今渦巻かせているこの風も、元は自然のものであって、私の魔力じゃないからね。だから、風を自分に向ければ、服は靡くし、髪型も崩れる。操作型は生成型に比べて比較的魔法としては使いやすいけど、そういう自分にも被害が出てしまうという点では気をつけないといけない。だから、操作型の人は私の目の届く場所で練習して。はい、ということで、前半の座学は終わり。後半の実習訓練に移るから、比較的他人に危害を及ぼしやすい属性の人は外に出て」
流石に分身なんてできるはずないから、外に出ている人達は目ではなく、風魔法を応用し、感覚で見ている。中にいる人達はもちろん目だ。
「やっぱり出来てきているね。あの人本当に魔法に関してだけは頼りになるから。魔法に関してだけは」
「いえ、師匠の授業があったからこそです。師匠が我々に魔法の感覚や理解を事細かく教えてくださったから、ウィザルド先生の話を参考にここまで伸ばすことが出来たのです」
「世辞は良いよ」
「本音なのに……」
男が、しかも同い年の男がしょげても何も可愛くない。
「そういえば師匠、知ってますか?」
多少魔法が使えるようになったからってサボって私と雑談しようとは感心しないな。
「今は授業中。外に戻りなさい」
「まあまあいいじゃないですか」
いいわけないでしょうが。
「最近、女の子の行方不明事件が近隣国で発生しているらしいですよ。まだこの国では起こっていませんが、いずれはこの国でも起こるようになるのではと噂されています」
「人攫いが活発化しているとか?」
「それがどうやら人攫いとは異なるらしいのです。いなくなった人は数日経つとひょこっと帰ってくるらしくて」
「家出が主流……なんて馬鹿らしいことはないか。共通点とかないの?」
「全員、失踪中の記憶が全くないようです」
「…………」
不気味だな。呪法の類だろうか? でも、相手の記憶を操作したりなんて呪法、たとえあっても使用したら刑罰の対象だ。ならきっと、もう元から思い切っているだろう。
「……呪いが関係しているってこと?」
「そう考えているらしいですよ。でも、誰が何のためにかは分かりませんが」
「呪いを使うような人なんて、誰であろうと、何の目的だろうと到底私達には理解できないわよ。呪い保持者なんて、大抵代償を他の人に肩代わりさせているのだから、みーんな頭おかしい人よ。師匠〜、私そんな頭のおかしい人に目をつけられたら怖いです〜。守ってください〜」
「当然のように抱きつかない」
私は女生徒を引き剥がしながら考える。
たしかに、被害がこいつらに出てしまえば私の責任問題になる可能性がある。かといって、私が護衛するのは少し問題だ。
「全員集合!」
声を掛けると一瞬で集まる。もう犬だなこいつら。
「えー、まあ君らは多分全員知ってるんだよね。女性失踪事件、我が国ではまだ起こってないとて、近隣国で発生しているなら警戒せねばならない。呪いが関係している可能性を考えると、いくら魔法が使えるからって油断はできない。でも、呪いには必ず代償がある。女性のみが失踪しているということは、おそらく男性には効かない。ということで、男共、これから解決するまでは女の子を家に送り届けなさい。極端に家が離れているとかはないだろう」
「えー、師匠が送ってくださいよ〜。私師匠が良い〜」
一人の女子の我儘を皮切りに、他の女子も後押しするように続いた。
「師匠〜」
「私も師匠が良い!」
「し・しょ・う! し・しょ・う!」
ついにはコールまで発生し始めた。そんな女子共に、男子共は肩身の狭い思いをしていることがひしひしと伝わってくる。
これは久々に、本気で分からせねばならないようだ。
「そうか〜、君らは公爵子息に護衛しろと命じるのか」
明らかに雰囲気の変わった私を感じ取ったのか、場が一気に静かになった。
「君らは少し勘違いをしているようだ。たしかに、ここでは公爵家として扱わなくて良いと言っている。だが、それは私と君らが友達だからではない。あくまで教師と生徒として接するためだ。公爵家子息ではなく、ただの教師と思えば接しやすく、また、分からないことがあれば遠慮なく質問できると思い、そのように言った。これはあくまで私の善意だ。この善意を勘違いされたら困る。そうだよね?」
「は、はい……」
「分かればよろしい。それと、君らは守ってもらう立場だ。いいか、守らせるではない、守ってもらうだ。そのことも理解せずにやれ師匠が良いやら男共は嫌やら──」
「あの、嫌とは言ってないです」
「だとしても、言われた方はそう受け取ってしまう。言葉というのはそういう誤解を簡単に招いてしまう。発言には気をつけるように。場の空気に呑まれるな。呑まれる前に考えろ。分かった?」
「はい!」
「よし。それじゃあ男子諸君、あんな事言われて乗り気ではないと思うが、守ってあげなさい」
「師匠の望みとあらば!」
なんか、こいつら見てたら宗教作れそうな気がしてきた。
アドラのせいで宗教みたいなのはできているようなものだけど。
あそこに顔出したらどうなるんだろう。怖いもの見たさ的な興味は正直ある。




