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シスタ・ロジャー③

シスタ視点です。

 誕生日パーティーの会場に入る前はお姉様もいつもの調子でしたが、入った途端いつも以上に話しかけ、いつも以上に側にいました。

 話が二転三転していることから、お姉様は喋ること以外に意識を割いているように見受けられました。

 それもそうです、お姉様が聞こえているのなら私にだって聞こえています。いえ、むしろ近くにいるお姉様の話し声よりも鮮明に聞こえてしまいます。

 私はずっと、ロジャー家の人達が私に対して冷たいのは私が養子だからだと思っていました。でも、実際は違いました。


「あの子の髪と目、呪われそうね。一体どこの家の子かしら。あんな悪魔みたいな子、うちの子に近づけられないわ」

「顔は良いのに残念だな、あの子。人を死に追いやる白い髪に人の魂を奪う黒い目といったところか。将来苦労するだろうな。基本若ければ選り好みしない俺ですら、あれだけはお断りだ。死にたくないもんな」


 そんな言葉がいたるところから聞こえてきました。 お姉様はその声を私が意識しないように必死に話しかけてくださっているのです。

 ですから、私は何も聞こえていないふりをし続けました。

 泣きたくなったらお姉様を見ました。お姉様の言葉にだけ耳を傾けました。

 そうすると、自然と他の人の声が遠のいていくように感じました。

 けれど、それは勘違いでした。ただ、王家の方々が登場したから意識がそちらに逸れただけのようでした。


「ヴィリアラ」


 お養父様は他の貴族の方の目が向いていない時を狙ってか、お姉様に話しかけました。


「挨拶は父さん達に任せて、その子を連れて好きにしていなさい。挨拶を返すことは忘れずに、礼儀正しくしているように。もし足が痛んだりしたら、無理せず我が家の使用人の元へ行くように」


 きっとその言葉の中に私はいないのでしょう。

 私は嫌われ者ですから。

 そう思っていましたから、お姉様の言葉が嬉しかったです。


「分かっています。私達を誰だと思っているのですか。五歳といえど、ロジャー家の令嬢です。それくらいの心得はしっかりとあります」


 私達と、私も含めてくださった。

 そんな何気ない言葉が私には大きな救いとなっていました。

 お養父様達が挨拶回りに向かわれますと、お姉様が笑顔を浮かべて私の方を見ました。

 何も言わず、私の手を引いて真っ先に料理の元へ向かいました。


「シスタは何か食べたいのある?」

「そうですね」


 料理に目を向けますと、まだまだ知らない料理がたくさんありました。

 その中でも、たくさんの色で彩られている丸い料理に気を取られていますと、お姉様がそれを一つお皿に乗せて私に渡しました。

 それを少し躊躇いつつも口に含みました。触れた感じは固いのに、柔らかく砕かれていく食感に、口いっぱいに広がる生クリームとチョコレートの味。


「美味しいですお姉様!」


 私は他のお菓子や料理もたくさん食べました。飲み物もたくさん飲みました。

 少々はしたなかったかもしれませんが、お姉様は嬉しそうに見ており、私もそんなお姉様の顔が嬉しくて、ついつい限度を考えずに料理を堪能してしまいました。

 その結果、お手洗いに行きたくなったのです。


「す、すみませんお姉様」

「どうしたの?」

「お、お手洗いに……」

「それじゃあ一緒に──」

「初めまして、私──」


 お姉様が何かを言おうとしたタイミングで、お姉様のメイドさんほどの歳と思われる女性がお姉様に話しかけてきました。

 お姉様は咄嗟に私を庇うように前に出て、少し背を反り、小声で言いました。


「シスタ、使用人に言って付き添ってもらって。ここは私がなんとかするから」

「は、はい。分かりました」


 正直に言ってしまうと、お姉様のお付きのメイドさん以外の使用人の方々は少し怖く、待ってでもお姉様と一緒に行きたかったのですが、体は我慢できませんでした。


「あの、すみません」


 私が声をかけても使用人の方はこちらを向かず、ただ真っ直ぐ前を向いていました。

 その間にも、近くにいた他の家の使用人に色々と言われました。

 老耄(ろうもう)のような、骨のような生気を感じない髪と。底知れぬ闇を彷彿とさせる、魂を奪われてしまいそうな人の物とは思えない目と。

 泣きそうになりましたが、スカートを強く握ってどうにか堪えてもう一度声をかけました。


「あの、お姉様にお手洗いに連れてってもらいなさいと言われまして」


 私がそう言うと、使用人の方は深い溜息を吐くと、何も言わずに歩きました。

 私はその後を小走りでついていき、なんとかトイレに間に合いました。


「あの、ありがとうございます」


 やっぱり視線は私から外れ、何も言葉を発しませんでした。


◇◆◇◆◇

 

 トイレが済んで外に出ると、既に使用人の方はいなくなっていました。

 ついていくのに必死で道も覚えておらず、私は迷ってしまいました。

 どうしようかと悩んでいると、同い年くらいの男の子が話しかけてきました。


「さっき君と一緒にいた人が探してたよ。案内してあげるからついてきて」

「あ、ありがとうございます!」


 その男の子も後ろにいる子達も笑っているので、私は安心してその子達のあとについていきました。

 けれど、だんだん奥まった方に向かっている気がして少しずつ不安が募っていきました。


「あの、行き止まりですけどどこにいるのですか?」


 私がそう言うと、声をかけてきた男の子を筆頭にみんな笑いだしました。


「いや〜、本当に馬鹿だね君。そう易々と人を信用しちゃいけないって教えられなかった? あー、君は悪魔の子どもだから教えられるわけないか」

「ど、どういうことですか? 嘘ついたんですか?」

「そうだよ。お前は悪魔だからな」

「この悪魔め! 悪魔は大人しく地獄にでも帰れ!」

「ち、違います」

「お前、僕の言葉を否定するのか?」

「僕は父上と母上から聞いたぞ、お前のその白い髪は人を死に追いやる呪いがかけられて、お前のその黒い瞳は人の魂を奪う呪いがかけられていると! だから、今この場でお前を退治してやる!」

「さすがはボブ様! かっこいい!」

「ボブ様、これを」


 女の子が渡したのは私の腕くらい太い木の棒でした。

 ボブ様と呼ばれた男の子はその木の棒を一瞥すると、口角を上げて思いっきり掲げた。


「よし、覚悟しろ、この悪魔め!」


 私は頭を守るように腕を頭上で組み、縮こまりました。

 その時、どこかでお姉様の声が聞こえた気がしました。


「お姉様……」


 助けてください、お姉様。

 けれどお姉様は来ず、腕に激しい痛みが走りました。

 何度も、何度も。

 間もなくして痛みも止みました。

 腕が麻痺したのかと思いましたが、どうやらお姉様が来てくれたようです。

 いつものように優しく抱きしめてくれましたが、私はただただ痛みで涙を流すことしかできませんでした。

 お姉様の謝罪の言葉に返事をすることも、感謝をすることも、何もできませんでした。


 しばらくすると、ロジャー家の人達がやってきました。


「ヴィリアラお嬢様、大丈夫ですか⁉︎」


皆口々にお姉様を心配しました。すると、お姉様は私をさらに強く抱きしめて叫びました。


「なんで、なんで私なの! どう見たってシスタの方を心配するでしょ! どうして私なの! なんで、なんで、おかしいよ! この世界の人間全員おかしいよ! どうして誰もシスタを心配しないの! どうして私なの! 私だけなの! 嫌だ、嫌だよ。なんでみんなシスタを心配してくれないの。なんでよ〜。シスタ、こんなに泣いてるのに、どうしてよ。みんな、嫌いだよ。シスタをいじめた奴も、心配しない奴も、守れなかった私も全員、全員大っ嫌い。ごめん、ごめんねシスタ。ごめんね」


 お姉様が離れようとしないので、使用人の方は少々ぎこちなく私達を抱き上げ、馬車へと乗せました。

あと一話ありました。

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