とあるモブ令嬢のお話
名も無きモブ令嬢視点の話です。
ここ、エスティーニ学園には今、奇跡の世代と呼ばれるほど、凄い方々が在籍しているのです!
一番最初に目を引くのはやはりエミット・クライン王太子殿下!
金髪碧眼で、物静かな雰囲気のあるクールな王子様。切れ長の目と少し長めの前髪が殿下の儚げな雰囲気を冗長させつつ、近寄り難さを演出している。
身分からしても、たとえ上級貴族の方々ですら気安く声をお掛けするなんて畏れ多いため、皆殿下をこっそり見守ることが限界です。
しかし、そんな殿下に親しげに声を掛けられる数少ない方々がいらっしゃるのです!
「よお、王子! 相変わらずつまらなさそうな顔してるな!」
殿下に声を掛けたのは、ロヴ王国王宮騎士団団長の息子にして伯爵家のご子息、ネイト・バトラ様!
高い身長に鍛えられた肉体は彼の男らしさに拍車をかけている。逆立った赤髪をしており、少し怖そうに感じるが、茶色の目はくりくりとしており、常に楽しそうに笑っているのもあって、少し子どもっぽい印象がある。
それに、彼はとってもフレンドリー! 声を掛ければ挨拶を返してくれ、話しかければ対話してくださる! ただ、それで調子に乗って仲良くなろうとすると、令嬢方から冷たい目を向けられる為、節度が必要だ。
「ねえ、そこの可愛いお姉ちゃん。ボスどこにいるか知らない?」
「え、あ、アドラ様……! も、申し訳ありません、存じ上げません」
「そっか、急に声かけてごめんね。答えてくれてありがとう」
今私に声を掛けられたのはアドラ・レックス様。一言で表すなら、可愛いの最高峰。容姿はもちろん、言動すらも女の私達より圧倒的に可愛い!
ゆるふわパーマの青髪は、アドラ様のあどけなさを存分に発揮し、ピンクの瞳に見つめられてしまえば、一瞬で可愛いの虜になってしまう。
そして何より、アドラ様といえばその人懐っこさ! 自らどのような身分の者にも声をかけ、アドラ様のその可愛さを存分に発揮なさる! アドラ様のその可愛さを目の当たりにして、正気を保てる方はそうそういない。
たとえアドラ様に弄ばれていようと、ついつい許してしまうほど私達は堕とされる。
そんなアドラ様が今夢中になられている方がいる。それが、アドラ様がボスと呼ぶ人物である。
殿下、ネイト様、アドラ様が属するグループの中心人物と言っても過言ではない。
その方はロヴ王国公爵家子息、ヴィリアン・ロジャー様。
アドラ様が第一人者として、ファンクラブという、親衛隊のようなものを形成されるほど、水面下に多くの信者を抱えているお方。
茶色の前髪をかきあげた男らしい髪型。しかし、お顔はどこか女性らしさを感じさせる美しさ。シュッとしたツリ目がヴィリアン様の美しさを際立たせている。
ネイト様を凌ぐほどの強さであるにも関わらず、華奢な身体。そんなヴィリアン様には麗しいという言葉がお似合いでしょう。
また、ヴィリアン様は多才である。剣に魔法、勉強、また、噂によれば料理などの本来貴族がやらないようなことにも才能を発揮しているらしい。
ある男子生徒が、ヴィリアン様の料理を召し上がったそうだけど、今まで食べた物の中でもかなり上位に位置する美味しさだそう。
羨ましい、私も食べてみたい!
そんな魅力に溢れているヴィリアン様だが、私は直接関わったことがない。厳密にいえば、多くの者が関わろうとしない。
一つに、そもそもヴィリアン様はあまり積極的に他者との交流を図ろうとする方ではなく、挨拶をしても微笑んではくれるが、それだけだそう。勇気を持って話しかけるも、軽くあしらわれるだけらしい。
でも、殿下達以外にもヴィリアン様がまともに対応してくれる運の良い方々もいる。話に聞けば、学園に入る前からお世話になっていたそう。
本当に運が良い方々だ。私も学園前からお世話になっていればあるいは……。
もう一つ、ヴィリアン様の妹の存在が関係している。むしろこれが主な原因だ。
ヴィリアン様の妹、シスタ・ロジャーは白髪黒目とまるで呪いそのものの見た目をしている。白髪黒目は呪いの起源とされている人物、いや、悪魔と全く同じ装い。だから、たとえシスタ・ロジャーのその容姿が全く無関係の天然のものであろうと、呪いの被害者であろうと私達は畏怖せずにはいられない。
ヴィリアン様はそんな妹を溺愛していらっしゃるのもあり、下手に仲良くできないというのもある。よく一緒にいることはもちろん、ヴィリアン様と仲良くなれば、嫌でも妹と関わるようになってしまうのだから。
アドラ様のヴィリアン様親衛隊入隊条件にも、妹のことを決して悪く扱ってはいけないというものが含まれている。だから、ヴィリアン様の普通じゃ知れない一面を教えていただけ、アドラ様とも合法的に距離が近くなれるというメリットもあるのに、信者は中々増えない。
それほど、妹の存在はヴィリアン様と仲良くなりたい者には邪魔になっている。
私だって、ヴィリアン様と一対一で話せるのなら話してみたい! 今度機会があれば、一度くらい挑戦してみよう!
「ヴィリアン様よ! 今日はお一人みたいね」
「あなた話しかけたら? 一度ヴィリアン様とお話したいと申していたじゃない」
「で、でも、私以前妹の方にあまり良くない言葉を吐いてしまったから。もしそのことがヴィリアン様の耳に入っていたら、私……」
これは、ヴィリアン様がたとえ一人でいてもあまり声を掛けられない原因の一つ。ヴィリアン様はとにかく妹のことになると、相手が誰であろうと冷たい対応を取る。以前、取り囲んで平民とまとめて罵声を浴びせていた男子生徒達をきつく咎めたことは有名な話。それ以外にも、定期的に妹の悪口を言う者や軽くでも手を出した者には、たとえ令嬢であろうと咎めているらしい。だから、妹を毛嫌いし、それを少しでも表に出した者は皆、ヴィリアン様を恐れている。たとえ憧れていても。
でも、私にはそれがない。私は一度もヴィリアン様に咎められるようなことはしていない。だから、話しかけにいけ──。
「ヴィリアン様! 外にいないなんて珍しいですね」
「やあリシア。ニーファにたまには体を鍛える以外のことをするように言われてね。まあ、簡単に言うと休息日を作るよう叱られて。だから、今日は少し散歩をすることにしたんだ。学園にはまだまだ知らない場所があるからね。リシアは?」
「私は──」
あっさりとヴィリアン様と話せる機会を奪われてしまった。
女の私ですら、ついため息を吐いてしまうほどの美少女。聖魔法を宿しているだけで上級貴族の方々と同じ教室で学ぶことを許されている唯一の平民。
あの妹ですらあっさり受け入れられ、悪口を言われても自身は決して人を悪く言わない出来た人間。
彼女を見ていると劣等感に苛まれる。下級であろうと私は貴族。あの子はただの平民。社会的には私の方が上なのに、人として私は圧倒的に劣っている。容姿も、性格も、才覚も。
そして、学園を卒業する頃には社会的にも私は圧倒的に劣ってしまう。
こんな私が、一度でもヴィリアン様と対等に接しようと思ったことが間違いだ。
私は居た堪れなくなり、外に逃げた。ベンチに座り、涙を零した。
私は失恋した。関わったことなどないけれど、ずっと見ていた。ずっと見て、ずっと好きだった。だから分かる。私はヴィリアン様を振り向かせられない。元々叶うはずのない恋だった。分かっていた。分かっていたのに、どうしてこんなに涙が出てくるの。
私は手拭いを取り出して涙と鼻水を拭おうとしたが、手が滑って泥に落としてしまった。
服で拭うなんてできない。でも、こんな顔で表を歩くこともできない。
ここはほとんど人が来ない。来る方が奇跡の場所。この涙と鼻水が乾くまで、私は決して戻れない。
「あの、私ので良ければどうぞ」
顔を上げると、ぎこちない笑みを浮かべた妹が手拭いを差し出していた。
「えっと、ごめんなさい、私のなんて嫌ですよね。でも、放っとけなくて。あ、こ、ここに置いておくので、もし良ければ。その、返さなくて大丈夫ですから。あ、これ、ちゃんと新品の物を持ってきたので、その、はい。えっと、邪魔してごめんなさい。失礼します」
妹は、いえ、シスタ様は駆け足気味にこの場を去った。
さっきの言葉からして、私に気づいてわざわざ持ってきてくれたとしか思えない。
ああ、神よ。今まで関わらずに好き勝手思っていた私をお許しください。あの方は、シスタ様は、決して悪魔でも呪いでもありません。あの方は紛れもなく
「天使です」
いつの間にか私の失恋の傷は天使によって癒やされていたようです。
長かった三章第一部がようやく終わりました!
今回は各キャラ視点に抜擢するキャラがいなかったので、ちょっと変わった話にしました。まあ、抜擢するとしたら王子なんですけど、現状の話の内で書くと暗いのでやめました。
でも、おかげでモブ視点とか作者得しかない話を思いつけたので良かったです。メインキャラ以外の視点も中々に楽しいですね。
三章第二部は一部ほど長くありません!
それと、一話投稿に戻します。その代わり、一話二千は超えるように頑張ります。長くなりそうだなって思ったら二話投稿するかもしれませんが、書き溜めがかなり溜まるまではしないと思います。(目安としては十話分)
あと、今までの話の復習がてら改稿していきます。矛盾を見つけたらこっそり訂正、付け足しします。あまりに大幅な修正の場合はあとがきにて記載しておきます。
それと、もしかしたらキャラ設定作るかもしれません。というのも、作者自身もこのキャラってこんな感じだったっけ? って自信無くなることがあるので。メモから探すの面倒なんですよ。もし掲載するようなら、あとがきに書いておきます。
キャラ設定で話数が増えるのを煩わしく思う人がいるかもしれないので、作品は分けるつもりです。その代わり、一人一人丁寧に書きます。最新話のネタバレまでありで。息抜き程度に本編で書けないちょっとした小話なんか書くのもいいなって思ってます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。少しでも良いと思いましたら、ブクマ、評価、感想、いいね等いただけると励みになります!
感想は返信遅いですが、ちゃんと読んでます! 本当にいつもありがとうございます!
また、二回投稿のおかげもあると思いますが、二度もPV四千越えたのは嬉しかったです!
本当にこの作品を見つけてくださった読者の皆さん、ありがとうございます!




