会えない
姿が戻って一週間、ようやくやれ残念やら、やれ寂しいやらと言われなくなった。
「時間は取らせない。ついてきたまえ」
王子が呼び出しとは珍しい。碌なことがないだろうな。行きたくないけど、王子の命をそう簡単に断ることはできない。
「ごめんシスタ、ちょっと行ってくるね」
「あまり焦らなくても大丈夫ですからね」
「うん、すぐ戻ってくる」
王子と二人になると、一枚の紙を渡された。
「その日、僕に付き合ってほしい。誰も付けず、君一人だけだ」
「え、今週末じゃん」
「問題ないだろう」
「いや、だとしても用件くらい教えてよ」
「時が来れば分かる。とにかく、空けとくように」
「はいはい。でも私の時間を奪うんだから、それなりのお礼くらいしてよ」
「なら君自身でお礼を考えるんだな。遅れるなよ」
やや強引気味に約束を取り付けられてしまった。
「寒っ。この天気じゃ、雪が降りそうだな」
どうしてよりによってこんな日に王子と出かけないといけないんだ。
「早いな」
「私は約束を守るから。寒いから早く馬車に乗らせて」
「君は余裕すらないのか」
今外に出たあんたと違って、私はずっと外にいたんだよ!
「帰るよ?」
「早く乗りたまえ。君が催促したのだろう」
相変わらずムカつくな。
「はぁ。それで、どこ行くの?」
「着けば分かる」
「あーそうですかー」
ここで一旦会話が途切れた。別に私達は仲の良い友人関係というわけではない。ただ、なんかよく分からないが一緒にいる機会が多いというだけ。私達二人だけじゃ、静かな空間になるのも必然なことだ。
「君は僕のことを好ましく思っていないだろう」
「今さらなに当たり前のこと言ってるの?」
「僕も君のことは好かない」
「改めて言わなくてもいいよ。なんか腹立つし」
「そうか。そんな君に一つ頼みがある」
「はいはい何でしょうか」
王子が口だけでもこんな前置きをするなんて珍しい。
「君が僕をどう思ってくれても良い。だが、たとえ偽りであろうと、これから会う人の前では友人として振る舞ってほしい」
「え、人に会うの?」
それって高確率で王族の人だよね⁉︎ 私手ぶらなんだけど⁉︎
「捉え方によってはそうかもな」
「なにそれ……」
天気のせいだろうか、普段と変わらない表情のはずなのに、なんとなく王子が寂しそうに見える。
私も少しでも暇を紛らわそうと外を眺めると、少々焦ってしまう光景が見えた。
「あ、あれ? ここ、王城?」
一度だけ見た景色、そして我が家よりも圧倒的に厳重な門に警戒体制。王子の発言で多少なりとも覚悟していたとはいえ、実際来ると冬だというのに汗が出てくる。
「降りたまえ。ここからは歩きだ」
城の中に入らされて私の緊張は限界突破してしまっている。一体こいつは何を考えているんだ!
「ここで待っていろ」
王子はドアの前に私を待機させると、どこかへ行ってしまった。お願いですから陛下や王妃様が来ませんように。本当にお願いです!
「何をしているんだ君は」
王子はバケツと花束を持って現れた。変な組み合わせだ。
「あんたが私を一人にしたから祈っていたところだよ」
「変な奴だな」
あんたには言われたくない!
「そこで突っ立っていないで付いてきたまえ」
「言われなくとも」
本当に一々腹立つな。
しばらく中庭を歩くと、異様に目立つ石が立てられていた。
「ただいまリジー。しばらく来れなくて悪いな。良い子にしていたか? 前も言ったが、僕は今学園に通っているから、中々会いに来れないんだ」
王子は両膝を地面につけて、白い息を吐きながらその石に語りかけていた。
邪魔をしないようにゆっくりと近づくと、その石にはエリザ・クライン、ここに眠る。という文字が書かれていた。
そこでようやく謎が解けた。私が小さくなってしまった時の言動の謎が。
「この花、学園の近くの花屋で見つけたんだ。リジーは花が好きだからな、喜んでもらえると嬉しい。ああ、でもその前に綺麗にしないと。リジーは女の子だから、いつでも綺麗でありたいよな」
王子はバケツに水を汲んでくると、手を入れてタオルを濡らした。
「すまない、水だと冷たいな。でも、お湯でもここまで運ぶ頃には冷めてしまうんだ。辛いとは思うが、少し我慢してほしい」
手を真っ赤に染めながらも、ずっと墓石に語りかけながら手入れをしている王子を見ていると居た堪れなくなった。
どうして王子は私を呼びつけたのだろうか。今ここにいる私は明らかに邪魔者だ。
「綺麗だ、リジー。これならより一層花が似合うな」
王子はそう言って墓石の前に花束を置いた。
「リジー、実は今日来てくれたのは僕だけじゃないんだ。学園に通っていると言っただろう。学園でできた友人がわざわざ駆けつけてくれたんだ。今日はリジーの大切な日だからな」
王子は振り返って私を見た。それはいつもの無表情ではない。口角は上がっているが、笑顔でもない。我慢している、いや、強がっている顔だ。
王子は私に何を言うでもなく立ち上がり、私と同じ所まで下がってきた。ほんの少しの躊躇いの後、墓石の前までいき、両膝をついた。
「初めまして、ヴィリアン・ロジャーと申します」
当たり前だが、返事は返ってこない。関わりのある人物ならともかく、全く知らない人の墓石に話しかけるのは少々言葉に困ってしまう。
「王……エミットとは、選択科目以外は同じ授業でして、よく構ってもらっています。選択科目では私の妹が同じ授業でしてね、よく面倒を見てもらっています」
……呼びに来ないということは、まだ話せということなのだろう。
「……すみません、つまらないですよね。話題を変えましょう。一つ、妹様がお兄様を誇れる話をしたいと思います」
私はそこで、小さくなった時王子に助けられ、その後散々目に掛けてもらったことの話をした。
「本当に、エミットがいなかったらと思うとゾッとします。貴方のお兄様には大変感謝しております。素晴らしいお兄様ですね。このようなお話の機会を設けてくださったエミットと妹様には感謝しております。つまらないものですが、どうかお礼の印として受け取ってください」
私は氷の魔法で菊の花を一つ作り、墓前に置いた。
王子がすぐ隣に膝をついたので、私は後ろに下がった。
「リジー、僕は上手くやれている。だから、心配しなくても大丈夫だ。近いうちにまた来るから、その日を楽しみにしておいてくれ」
墓石に置いた王子の手に、雪が一つ落ちた。それを見て、王子は少し嬉しそうに微笑んだ。
「誕生日おめでとう、リジー。世界が君の誕生を祝福している」




