別人
次の日、シスタに起こされる形で目を覚ました。昨日シスタと寝たいと駄々をこねた甲斐あって、シスタから今日を始められてとても幸せだ。ま、体は戻ってないけど。
ソルシー曰く、睡眠中に六時間掛けて元に戻るらしいから、朝起きて戻っていなければ、その日一日は覚悟を決めなければならない。
「行きましょうか、お姉様」
「うん!」
まあ、もう知り合いには知られてるし、この幼女体系を利用してシスタに甘えられると考えると、案外都合の良い体だったりする。
「きゃっ!」
咄嗟に私を抱く力が強くなった。一体何に悲鳴を上げたのかというと、頭を下げているアドラだ。
「本当に昨日はすみませんでした」
アドラは高そうな菓子折りを前に出した。
「いえそんな、顔を上げてください」
散々可愛い可愛いと大切にしている顔にクマを作り、泣いていたのか知らないが、目元が赤く腫れている。
こんなに疲れ切ってボロボロなアドラをゲームですら見たことがない。
「昨日も仰いましたが、結果としておね──お兄様は無事でしたので、そこまで思い詰めなくて大丈夫ですよ」
「そうだよ。まあ、駄々こねて暴れた私の自業自得でもあるわけだし」
「でも……」
本当にもう、こういうタイプは面倒くさいな。
「別に私はアドラを一切責めていない。そんな顔を見せられる方が迷惑」
「…………ごめんなさい」
「だーかーらー! ……はぁ。分かった、じゃあ今度出かけた時はアドラが奢って。そしたら許す。王子は知らん。そっちはそっちで解決して」
こういうのは、どんなにこっちが許すと言ってもしこりを残したままだ。なら、言葉じゃなくて、別の形としての謝罪を提示するほうが手っ取り早い。
「あ、ありがとうボス」
「シスタの分もね」
「それはもちろん」
アドラはどうにか活路を見出したと言わんばかりの表情をした。さて、私にはもう一人落ち込んでいる奴を慰める仕事が残っている。
……そう思っていた時も僅かながらありましたよ、ええ。
「よおヴィル! 昨日は悪かったな! 今日は調子に乗らないように気をつけるから、またいつも通り接してくれ!」
馬鹿は寝たら全ての悩みを消せるようだ。羨ましい限りだよ。
「なんだその目は?」
「いや、幸せそうだなって」
「……?」
今日も授業はリシアの膝で聞く。ちょっかいを出さないと言って、はいそうですかとなれるほど信頼していない。
「……ん、終わった?」
鐘の音が耳に入ると同時に目を開ける。少し伸びをしようと手を動かすと、何かがずるずると落ちていく。
「何これ?」
ブランケット? 高そう。でも我が家のじゃないな。
「おはようございます、ヴィリアン様。授業が始まってすぐ眠りにつかれましたね」
リシアは頭を撫でながら微笑んでいる。リシア……はありえないな。
「これ何?」
「王子様がお兄様にとわざわざ持ってきてくださった物です」
「……え?」
昨日の今日で一体どうなっているんだ?
私は後ろにいる王子の方を向くと、それに気づいた王子は昨日ほどではないが、少し顔を綻ばせた。
「今の君はすぐに体を壊す。風邪を引いては大変だろう」
ほんっとうにどうなってんの⁉︎
その後もずっと王子は私を目に掛けた。
「落ちたら大変だろう、これで体を固定したまえ」
と長い紐をリシアやシスタに渡してきたり。
「これなら君でも食べられるだろう。服を汚さないためにこれをつけたまえ。ナイフは危ないから持つな」
と、どこから持ってきたのやら、幼児用の食器やエプロンを渡してきたり。
「歩くのか? なら手を出したまえ。転んで怪我をしては大変だ」
シスタ達を巻き込むのも忍びなくなり、自分で歩くと言うとこうだ。私が精一杯手を上げなくて済むように、王子が腰を屈めるだなんて誰が思うだろうか。
この別人としか思えない変化に、私だけでなく今までの王子を知る者全員驚いている。シスタとリシアでさえも。




