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不便な体

 気づくと授業内容が変わっていた。どうやら眠っていたようだ。これは仕方ない。子どもにこの授業は退屈すぎる。動き回れないのなら、寝るのが必然となってしまう。それに、人肌って本当に寝るのにちょうど良い温度だから、眠気には抗えない。


「あ、起きましたか? 今のヴィリアン様には少々退屈かもしれませんね」

「ん……」


私はリシアが書いているノートを見て、自分でノートを取ることも、授業を聞くことも諦めた。今の私が書けるのは、この頃の読むのも大変な汚ったない字。授業を聞いているのも疲れるから、もう一眠りして時間を潰すことにした。授業の内容はシスタでもリシアでも、後でいくらでも教えてもらえるし、大抵のことなら十五の私ならノートさえ借りれば理解できる。

だから、未来の私に面倒なことは託す。


「まだおねむでしたか。寝る子は育つとよく言われていますからね」


リシアに撫でられていると、ただでさえ強い眠気がさらに力を増していく。


「リシアの手、好き──」


子守唄代わりの授業とリシアの温もりに包まれ、再び眠りの波に身を任せる。


 人間って不思議だな。授業が終わった途端目が冴えるんだから。


「すっかり目がぱっちりしましたね、ヴィリアン様」

「うん。ご飯は寝てられない」


五歳児の口の大きさの感覚が掴めず、いつもと同じ量を頬張るとポロポロと落としてしまう。昨日はラウザに食べさせてもらっていたから気づかなかったけど、この大きさすら今の口には入らないのか。


「はい、お兄様。これなら食べられますか?」

「…………うん、ありがとう」


なんか、自分からせがんでシスタに食べさせてもらうのと、自分の不甲斐なさでシスタに食べさせてもらうのじゃ、こんなにも気持ちに差が出るんだな。


「お口が汚れてしまっていますね、ヴィリアン様」


自分で拭けるというのに、なぜ私はリシアに口を拭いてもらっているのだろう。


「あ、髪の毛口に入っちゃってるよ。もう結んじゃおうか」


何で髪留めを持っているのかは聞かないでおこう。てか横からよくできるな。


「君は一人で食事もとれないのか」


あんただって急に小さくなったらこうなるよ!


「本当に世話の焼ける」


そう言って私の足にナプキンをかけた。一言嫌味を言わないと行動できないのか、この王子は。


ちなみに、一番うるさいはずのネイトはまだ私に言われたことを気にしているのか、時々ちらっとこちらを伺うだけで、静かに食事をしている。私が心の優しい人物なら、罪悪感に駆られて声の一つくらい掛けるだろうが、私は絶対にしない。むしろ普段より静かで心地よいくらいだ。


「……何?」


 じーっと見られていると食べづらいんだけど。


「いや、普段のボスなら絶対僕らが世話をしようとするものなら、全力で阻止しようとするはずなのに、今は全部受け入れるんだなって思って」

「仕方ないでしょ、ここにあるのは全部大人用なんだから」

「じゃあリシアじゃなくて僕の膝においで」

「嫌だ」

「えー、何でよ。別に僕でも良いじゃん」

「リシアからわざわざ移る理由もない」

「じゃあ明日は僕の膝だね」

「いや結構」

「僕の膝に来てくれても良いじゃん!」

「…………私が座ったことにより、万が一でも侯爵家のご子息の膝を痛めてしまったなんてことがあってはいけませんから〜」 


ということにしておこう。さっさと諦めるんだな、アドラ。


「公爵家のご子息の力になれるなんて大変名誉なことです。たとえ怪我をしようとお釣りがくるくらいですよ。さて、どうします、ボス?」


くそっ、言い返してきた。さてどうするか。


「普通に考えて甘やかされるなら男より女の子でしょ」 

「それはたしかに」


よし勝った!


「でも、僕だって女の子に負けないくらい可愛いよ」

「可愛いはリシアとシスタで間に合ってるから」

「いや、それは……負けました」

「うん」


今度こそ勝利だ。

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