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シスタ・ロジャー①

シスタ視点です

 私がお姉様と初めて出会ったのは二歳の頃でした。 その頃は自分の部屋で起こることが世界の全てで、私の常識でした。

 ですが、お姉様のおかげで私の世界は広がりました。


「シスタ! ドアの前にいるならどいて! 部屋の奥に行って!」


 初めて聞く声で、初めて人に名前を呼ばれた時でした。

 私は困惑しつつも、その声に従って部屋の奥でじっと扉を観察していました。

 すると、鍵が壊され、金具が壊され、終いにはドアが半壊しました。

 埃が舞った中を通り、咳をしながら現れたのは、顔や服が汚れても気にせず笑顔を浮かべたお姉様でした。


「初めまして、私はヴィリアラ・ロジャー。シスタのお姉ちゃんだよ」


 驚きのあまり部屋の床に座り込んで動かないでいる私に手を差し伸べながらお姉様はそう声をかけました。

 お姉様の背後は埃が舞って薄暗いはずなのに、私には光が差し込んで見えたことがとても印象に残っています。


「は、初め、まして。シスタ・ロジャーです」

「ちゃんと挨拶できてシスタは偉いね」


 これが、私達の初めての会話でした。

 そのあとすぐにお姉様は連れ戻されましたが、隙を見て侵入したり、運ばれる物に潜んで入ってきたりと様々でした。


 その度にお姉様が怒られることを案じたりしていましたが、本心ではお姉様がやってくることを楽しみにしていました。

 お姉様が持ってくる本は面白く、おやつは美味しく、植物は綺麗で良い匂いがしたので、自分の部屋から見える世界しか知らなかった私にとってはとても新鮮で、毎日がワクワクで満ち溢れていました。


 けれど、そんな日常もお姉様の怪我によって一変しました。

 以前も連続でバレてしばらく監視をつけられていたようで、中々会えない日が続いたりしましたが、お姉様が元気であるということが分かっているだけで次会える日を想像し、その日を楽しみに待っていました。


 けれど、怪我をされた時はそうもいきませんでした。

 お姉様のお付きのメイドさんによると、命に別状はなく、時間が経てば治るとの話でしたが、それでも私の心は不安でいっぱいでした。

 天気の良い日も嵐のように感じ、毎日が暗く、光がないように感じました。


「シスタ」


 扉の向こうでお姉様が私を呼ぶたびに心が締め付けられました。

 応えたいと思いました。けれど、私はロジャー家の本当の子どもでないから、もしその言葉に応えてしまうときつい叱責が待っており、お姉様がこの部屋に近づくことも叶わなくなってしまいます。

 だから私は扉の側に座り、ただただお姉様の叫びに心で応えることしかできませんでした。


 しかし、それも数日するとぱたりと止まりました。 お姉様のお付きのメイドさんによると、お姉様は怪我に加え、病で床に伏せてしまったと聞きました。


「お姉様は⁉︎ 大丈夫なのですか⁉︎」

「このまま安静にしていれば治るとのことです」

「そうですか」


 そうは聞いても、お姉様は今苦しんでいる。そんな時に何もしてあげられないことがどうしようもなく悔しくて、どうして私はロジャー家の子でないのだろうと自身の運命を恨みたくなりました。


「お願いします。どうかお姉様を助けてください」


 私はただ天に向かって手を合わせ、祈ることしかできませんでした。

 ずっと、ずっと。どれくらい時間が経ったか分からない時、お養父様(おとうさま)お養母様(おかあさま)に呼ばれました。

 お二人が私の前に顔を出すことは珍しく、何かまずいことをしてしまったのではないかと少々焦ってしまいました。


「何も言わずについてきなさい」


 お養父様はそう言って、どこかへ向かいました。

 着いた先は大きな部屋で、そこにお姉様は眠っていました。


「許可を出すからしばらくついていなさい」


 お養父様とお養母様はそれだけ言って部屋を出ました。


「シスタ様、こちらへどうぞ。何かありましたら、部屋の外で控えていますので何なりと申しつけください」

「ありがとうございます」


 お姉様のお付きのメイドさんが座っていた椅子に座り、私はただじっとお姉様を見ていました。

 苦しそうに呼吸をしているお姉様を見て、つい言葉がもれてしまいました。


「お姉様」


 私からしたら本当に小さな声だと思ったのですが、その一声でお姉様は目を覚ましました。

 開き切っていない目をこちらに向け、ふにゃっと頬を緩ませました。

 いつものお姉様とは違う、少し幼い笑い方がとても新鮮で、可愛らしいと思いました。

 お姉様はそのまま眠そうに


「シスタ」


 と呟き、私もつい興奮気味に応えてしまいました。


「お姉様! お目覚めになられましたか?」

「シスタ」

「はい」

「やっと、返事返ってきた。嬉しい。今までの私気持ち悪かったよね、ごめんね。シスタのことがどうしようもなく大好きなんだ」


 お姉様はすごく嬉しそうで、けど言葉は弱々しくて泣いてしまいそうになり、少しでも話を続けて気を紛らわそうとしました。


「私も、お姉様のこと大好きです。お姉様がドアを破ってまで私と会いに来てくれた時、どうしようもなく嬉しかったです!」

「そんな昔の事覚えてたんだね。すごく嬉しい。私はね、もっと昔のことを覚えているよ。シスタと初めて会った日のこと。シスタはお父様に抱っこされていたの。シスタに触れようとしたけど出来なかった。でもね、初めて見た時確信したんだ。この子は私の人生で一番大切な人だって。自分よりも誰よりも」


 お姉様が話しているのはきっと、私が初めてこの家に来た日のこと。

 まだ一歳にもなってない、生後数ヶ月の頃の記憶だというのに、お姉様はそんなに昔から私を思ってくださっていたと思うだけで、今のお姉様の手前、不謹慎になってしまいますがとても嬉しく思ってしまいました。


「どうしようシスタ、夢なのにすごく眠いよ。やだな、ずっとシスタと一緒にいたいのに。シスタ、手握っててくれる」


 ああ、そうですよね。

 お姉様にとって今の私は夢の存在。でしたら、不謹慎にも嬉しいと思ってしまったことはお姉様の夢の世界に留まらせてください。お姉様が夢から覚めた時、たくさんお姉様と負い目なく話せるように。

 自分勝手な妹で申し訳ありません。今は治すことに集中して、早く元気な姿を見せてほしいです。そのために私ができることならなんでもやりますから。


「お姉様、早く元気になってくださいね。そしたら、またいっぱい話しましょう。私も楽しみにしていますから」

「うん。シスタのためなら、なんでも、でき──」


 お姉様は笑顔を浮かべたまま眠りにつきました。

 私はお姉様を起こさないようにそっと手を離し、お付きのメイドさんにお姉様が再び眠りについたことを話しました。

 私達の会話の内容については深く聞いてこず、ただ一言


「ありがとうございます。シスタ様も、あとは私に任せておやすみください」


 とだけ添えてくださいました。

本日中にあと二話投稿する予定です

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