休憩
そろそろ終わりの雰囲気を出していたが、むしろこれからが本番だ。まずは取捨選択から。
「これ壊れてるしいらないでしょ」
「直せば使えます!」
「うわっ、汚ったな! これは捨てて!」
「洗えば使えます!」
「……何これ? ノート?」
ベッドの下とはまたベタな。
「それは見ちゃダメです!」
そんなこと言われると気になっちゃうんだよね。
「何書いてるんだろうね〜」
ま、フリだけで見ないけど。
「だ、ダメですって──⁉︎」
まずい、近過ぎて対応が!
「はあ、大丈夫?」
結局、私ごと受け身を取る感じで何とかリシアを受け止めた。
私の周辺だけでも物を退けといて良かったよ。
しっかし柔らかい体だな。特に一部が。羨ましい限りだよ。
「はい、なんとか……」
「なら良かっ──た」
お、思ったより顔近かった。ほぼゼロ距離で、身だしなみちゃんとしていないとしても美少女、流石に照れる。
リシアの方も……耳まで顔真っ赤。
「ヴィリアン様も照れるんですね。顔真っ赤です」
「リシアの方こそ」
「そうですね。でも、私はヴィリアン様の新しい一面を知る度に照れていますよ」
「私は唖然としたよ。この部屋を見て」
「嫌いになりましたか?」
「ならないよ。リシアも完璧じゃないんだなと思っただけ」
「ヴィリアン様と比べれば、私なんて凡人ですよ」
「私にだってできないことはあるよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。芸術だけはどうしても無理だった。昔、シスタと一緒にやりたいって理由で音楽に手を出したけど、あまりにも酷い音で聴くに堪えずすぐにやめたよ。絵も幼児の方がマシなレベルだよ」
「ヴィリアン様の意外な弱点ですね」
「嬉しそうだね」
「少しだけ近い存在に感じられましたので」
「なら、話した甲斐があるね」
「お二人さん、ひっついて話している暇があれば早く掃除してここから僕を解放して」
アドラはここの誰よりも疲れ切った表情をしていた。一番動いていないくせに。
「じゃあアドラも手伝って」
「僕はここの空気を吸ってるだけでいっぱいいっぱいだよ」
「じゃあ二人で頑張ろうね、リシア」
「はい。アドラ様、本当に申し訳ありません」
「気にしないで。数時間前の僕が悪いんだから。そう思うとちょっとお手洗いに行きたくなってきた。行ってくるね」
数時間というほど時間は経っていないけど、アドラはそう感じているんだな。
「いいけど、逃げないでよ」
「逃げたら後が怖いから逃げないよ」
よくお分かりで。
アドラがいない間に少しでも進めてあげようと、リシアの背中を軽く叩く。
「リシア、立って。ノート見てないし見ないから」
私は一言添えてノートをリシアに返す。
「すみません、思わず焦ってしまいまして」
「いいよ、リシアに怪我はなかったし。それより、ノートにどんなこと書いてるの?」
見られたくないノートってなると、やっぱり黒歴史ノートだよね。
「えっと、その、好きな人についてとかです」
ああ、例の優しい人。そっか、好きな人になったのか〜。その人は幸せ者だな。掃除スキルさえあれば。
……あれ? じゃあこっそりでもノート開けばリシアの好きな人知れたってこと⁉︎ うっわー、惜しいことした。リシアの好きな人気になるな。
「誰なの?」
「言いませんよ」
「だよね。前気になるって言ってた優しい人?」
「はい」
「優しい人か……」
チラッとさっきまでアドラがいた方を見る。違うなと言いたいけど、最近リシアとアドラ、授業が一緒なのもあるのか仲良いんだよね。ダメンズの中では一番まともだし。あ、でも出会った当初を考えると違うな。やっぱないわ。
他に優しい人といえば……え! まさかのシスタ⁉︎ まさかの百合の花咲いちゃった⁉︎ シスタ、うーん、リシアならまあ、任せても……。いやでも、お姉ちゃんとしてはシスタが誰かの者になるのは悲しい。推しが結婚するってこんな気持ちなのかな。幸せになってくれるのは嬉しいし祝福したい。けど、手に届かないなんて分かっているのに、私達と推しを隔てていた、ずっと見えないでいた目の前にあった透明な壁が認識できるようになってしまった気分。
「その優しい人って私も知ってる人?」
「はい」
「性別は?」
「男性ですよ」
シスタじゃないんだ、そっか。なんかそこはちょっと安心した。となると、リシアの相手がより気になるな。リシアって男を見る目がないから本当に心配。優しいっていうのも上っ面だけ見せてるクソみたいな男じゃないのか? 誰だその優しい男ってのは。私直々に評価してやる。
うーん、私が知ってる男ね……。そういえば、前ソルシーが私じゃないかとか言ってたし、もしかして私とか? ……ないない。自分で言うのもなんだけど、私は中々見る目ある方の男に入るはずだし。でも、私の知る限り優しい男なんて知らないな。でも、私が知らないだけで皆リシアには優しかった説もあるし。うーん、ここは気持ち的にも多少は絞りたい。とりあえず、絶対ないところからいこう。
「うーん、私だったりして。なんてね。自惚れるのも大概にしろだよね」
そう言うと、リシアは顔を真っ赤にし、口元を隠すように鼻下に本の縁をつけた。
え、何その反応。
「さて、どうでしょう。ヴィリアン様としてはどうあってほしいですか?」
リシアは目をにっこりと細めた。ああ、これは私を試しているんだな。
「立場を考えると応えるのは難しいけど、好かれてくれる分には悪い気はしないよ」
「そうですか」
リシアは本を横顔を隠すように持ち直した。
そして、私の頬にキスをすると、耳元で囁いた。
「私の好きな方、いつか必ずヴィリアン様にお教えします」
リシアはそう言って、何も無かったかのように自分の持ち場に戻った。




