来客
二人でお風呂を上がり、最低限の下着だけつけてバスローブを着る。服はいつも髪を乾かしてから着るのだ。ちなみにドライヤーなんてものはない。ではタオルのみで髪を乾かすのか? いや違う。この世界には魔法がある。つまり、魔道具が存在する。このハンディファンみたいなのがこの世界のドライヤーだ。ドライヤーほどの音はなく、しかしちゃんと温風は出る。こんな風にたまに前世のものより良いものがあるんだよね。これなら周りの音が普通に聞こえるから、髪を乾かしながらの会話なんて普通にできる。
「今ノックされなかった?」
「されましたね。シスタ様でしょうか? 対応してきますね」
「変な人かもしれないから、確認取れるまでドア開けちゃダメだよ」
「ヴィリアラ様に危険が及ぶような真似はしませんよ」
一応のことも考えて、私は剣を持ってニーファの帰りを待つ。シスタ相手ならすぐに戻ってくるでしょう。
「……来ない」
まさかとは思うが本当にまずい奴だったのではないだろうか? とにかく、すぐに戦えるよう臨戦態勢になりながら隣の部屋に入る。
「あ、ヴィリアン様、本日はお疲れ様です」
お茶を出されて座っている来客を見て一気に冷や汗が出た。まさかリシアがいるとは思わないよ。しかも私服。どうしてわざわざ私服に着替えてまで私の部屋に。とりあえず声を出していなかったのと、前のめりに屈んでいたのが唯一の救いだ。私は急いでドアを閉めて靴を履き、再び何事もなかったかのように姿を見せた。
「リシア? どうしたの?」
「あの、私の制服がどこにもなくて。もしかしたらニーファさんが預かって下さったのではと思いまして」
「そうなんだ」
ど、どうしよう。シークレットシューズは履いたものの、他の装備がない。特に革鎧をしていないから、今リシアに胸を触られるなんてことが起こったら一巻の終わりだ。ああ、手袋もないし。男装セットがないだけでこんなに不安になるなんて。とりあえず、リシアとは距離を取ってバレないようにしなければ。
「そういえば、ヴィリアン様はいつも部屋ではその格好なのですか?」
「ううん。どうして?」
そう言うと、リシアは顔を赤くし、明らかに気まずそうにしていた。
「え、あーいえ、その。そ、そうですよね。はい……」
一体どうしたのだろう。バスローブってそんなに変だろうか? シスタもラウザもお風呂上がりはよくバスローブでいるから変ではないと思うんだけど。
「すみませんリシアさん、ヴィリアン様とシスタ様の物と一緒に洗濯してしまって。今確認したのですが、まだ乾いていなくて。後日返しますので、本日は勘弁してもらってもよろしいでしょうか?」
「いえそんな、大丈夫ですよ。むしろわざわざ洗濯していただきありがとうございます。すみません、お手間をお掛けしてしまいまして」
「大丈夫ですよ。二人も三人も手間は変わりませんので。あと、ほんのお詫びですが。制服の件本当に申し訳ありません。ぜひ受け取ってください」
ニーファは私がよく飲む紅茶の缶とティーセットを差し出した。おそらくこの品を用意するのに時間が掛かっていたんだろうな。
「そんな、もらえません。洗濯もしていただいて。むしろ私がお礼をしなければいけない立場です」
「いいえ、リシアさんの制服を勝手に洗濯したことにより、わざわざ受け取りに来られたリシアさんの足を無駄にしてしまったのです。お詫びするべき事案です」
「いえそんな、私こそ特に急いでもいないのに、無断で来訪してお二人の時間を邪魔してしまい申し訳ありません」
リシアの最後の一文に引っかかり、私とニーファは顔を合わせた。
「お二人の時間?」
お二人の時間、バスローブ、お風呂上がりのためか上気した顔、濡れている髪や肌……ま、まさか!
「ち、違う! ただお風呂入ってただけ!」
「え、あ、お風呂……」
「あ、ち、違くて、そ、そう! 私は一人でお風呂に入ってたの! それで、ニーファはシスタとお風呂に入ってたの! ニーファは私の髪を乾かす為に来ただけだから! だからその、違うから! 健全だから!」
本当に何もやましいことなんてないのに、こんなに必死で弁明していると我ながら不健全に思えてくるよ。
「ヴィリアン様の仰る通りです。リシアさんが気遣うような事など何もありません」
「そうなんですね。すみません早とちりをしてしまったようで。──そっか、ないんだ」
リシアは安心したのかほっと息をついた。今回に関しては状況が状況なだけに私ですらリシアの立場ならそう思うだろうなと思ってしまうので、たとえ心の中だとしても何も言えない。
それにしても、リシアってどこでそういう知識を身につけるんだ? 私だってオタク文化にハマらなければ知り得なかった情報だよ。平民だから本だって碌に読めないだろうし。でもそんな事言い出したらそもそも何でリシアは頭良いのかっていう設定の根本に関係する話になりそうだから、深掘りするのはやめておこう。




