試験終了
私達も率先して動くようにしたが、残念ながら寮の門限は過ぎてしまった。無理に協力させた結果これだ、文句の一つや二つどころじゃないだろう。これは私の責任だ、しっかりと受け止めよう。
「すみません皆さん。時間、過ぎてしまいました」
頭を下げて、周りの目を見ないようにした。自然と手に力がこもっていく。私が頭を上げないでいると、見慣れない靴が視界に入った。
「気にしないでください、ロジャー卿。僕らの行動が全て無駄になったわけではありません。見てください、最初は不安げな顔を浮かべていた者達が、今では笑顔になれるまでになったのですから」
名前も知らない男子生徒がそう声を掛けてきた。親しい人物ならいくらでも励ましの言葉をかけてくるだろう。それが当たり前となってしまうと、言葉の効果は薄いものとなる。だからこそ、よく知りもしない彼の言葉に励まされた。
「ありがとうございます。力及ばずで申し訳ありません」
「いえ」
さらに時計が一針進むと、突然ドアが開かれた。ソルシーを筆頭に何人かの教師が入ってくる。
「試験終了でーす! ささ、疲れたでしょう、早く寮に戻って休んでくださいね!」
外出許可証を提出していない私達に対しての嫌味かと思ったが、そうではなかった。
「寮に戻れと言われても、時間は過ぎている。今さら試験終了にされても我々にはどうすることもできない」
「ではでは、皆さんに一つ問題を出しましょう! この世界には魔法があります。そして、魔法には属性があります。しかし、この世界にはどの魔法属性にも適さない魔法がありますよね。例えば、この学園にある剣は人を傷つけられないようにしているとか。では、それはどういう仕組みで成り立っているのでしょうか。お答えください!」
「呪法ですよね。呪いの仕組みを魔法に落とし込んだ方式。合ってますか?」
「流石はシスタ様! 正解です!」
相変わらずテンション高いなこの人は。疲れている私達との温度差が半端ない。
「呪いというのは、一見全てが悪のように感じられますが、正しく使えば私達の助けになるのです。けれど、呪いと言ってしまうと印象が悪くなるじゃないですか。だから、良い呪いは呪法と呼んでいるのです。皆さんの安全も呪法によって守られているんですよ。例えば──」
「授業はいいから早く言いたいこと言って」
「ヴィリー様はせっかちですね」
「みんな疲れてるの。分かるでしょ」
「仕方ないですね。簡単に言ってしまいますと、まだ門限はきていませんよ。私は天才ですからね、呪法もある程度は使えるんですよ! というわけで。時計に呪法を掛けさせてもらいました! 時計の時間を早く進める呪法を」
皆呆れて物も言えないようだ。私もそうだ。何を誇らしげに語っているんだこのダメ教師と思ってしまう。
「ですがまあご存知の通り、呪法はあくまで呪いですから、代償というものが必要なんですよ。ですから、この空間にいると少し疲れやすくなっちゃうんですよね。ごめんなさい」
ここまで悪気が無さそうなごめんなさいを私は見たことがない。
「ま、とりあえずは試験終了ですので、皆さんお疲れ様でした〜。皆さんの使用人さん達は、皆さんの帰りを待っていますので、ご心配なく〜」
色々と言ってやりたいことはある。それは他の人も同じだろう。だけど、今日は精神的にも身体的にも疲れ過ぎた。私達は、開かれたドアからノロノロと退出していった。
「この試験、明日まで続く可能性もあったんですよ」
帰り際にソルシーの横を通るとそんな風に話しかけられ、思わず足を止めた。
「過去の例を元にしたってこと?」
「そんな疑問系にしなくても、確信していたんですよね」
「なんでこんな試験にしたの」
「それは、結果が出てから個人的にお話してあげますよ。今は教師ですから、あまり詳しくは語れないので。とにかく今はお疲れ様です。ゆっくり休んでください」
「言われなくとも」
あとから思ったのだが、たとえ非番の日でも一生徒にテストの詳細を話すのってダメじゃない? やっぱりあの人教師向いてないや。




