突破口
アドラの話を聞いたからと言って、私達が出来ることなどない。ただただ大人しく試験が始まるのを待つだけ。……始まる。
「そういえば、この試験って開始時間も終了時間も言われてないけど、寮の門限は決められているでしょう。私達外出許可証を寮に提出していないから、そろそろ始めてくれないと入れなくなるんじゃない?」
そう言うと、シスタ達だけでなく、近くにいた貴族達も時計に目をやった。
寮は防犯の為、時間がくると施錠されてしまう。いくらテストだろうと例外は認めてくれないだろう。寮の外出許可証は例え学園内にいようと、門限を過ぎるのなら事前に申告しないといけない。その許可証と名乗った人物、学生証が一致して初めて寮の鍵が開けられるので、どれか一つでも欠けると上級貴族であろうとその日中は入れない。これは、外部犯によるなりすまし防止の為でもある。その為、いくら教師が口添えしようと意味がない。その教師が……なんてことも考えられるからだ。ちなみに、門限内でも学生証を提示しないと入退室はできない。
「着替えは自室で行うとしても、今のままではまずいな」
「ここ、食事はありますがベッドやお風呂はありませんよね」
リシアの言葉を聞いた時、シスタがチラッと私を伺った。そう、寮に戻れないということは、今日一日男装状態で過ごさなくてはいけないということになる。私はリシアのようにぎゅうぎゅうに抑えているわけではないが、万が一胸に触れられた時でも違和感がないように内にプレートの入った革鎧をつけている。つまり、とにかく蒸れる! ただでさえ厚い生地の服を着ているのに、この状態で一日は中々に堪えてしまう。
「リシアは胸を潰しているんでしょう? 僕ら以上に辛いんじゃないの?」
「ですが、どうすることもできませんので」
「審査員の方はこの試験で何を見ようと思っているのですかね。忍耐強さですかね……」
「どうだろう。正直、忍耐強さならもう十分見ていると思うけど」
本当に何なのだろうか。
「なあお前ら、なんか変じゃないか?」
ようやくこの異常事態に気づいた馬鹿がやってきた。
「皆そのことに気づいていますよ」
「いや、そうじゃなくて。俺さっき手洗いに行ったんだけどよ、廊下は暗いし外には誰もいなかったんだ」
「審査員の方も?」
「ああ」
一応、会場内には使用人に徹している審査員はいる。けど、入る時に廊下にいたはずの審査員がいなくなっているのか。やはり、生徒全員会場に入ったということだろうか。それとも別の意図でも?
「僕達を放置した……? いや、そんなことしたら親が問題にする可能性がある……」
「あくまで推測なのですが、過去の事例を元に私達が不測の事態でどう動くかを審査している。という可能性はありませんか?」
「不測の事態か。そういえば聞いたことがあるな、とある社交界で主催が亡くなったのを公表できぬまま当日を迎え、参加者は皆、主催の現れないパーティーで途方に暮れてしまったと」
「そういうのは早く言ってくださいよ」
「今思い出したんだ。僕の教師は歴史が好きだったからな、こういう教科書に載らないような歴史を雑談としてよく語ってくれた」
「それで、その時はどうしたんですか?」
「別国に嫁いだ主催の妹が日を跨いでやってきて謝罪したそうだ」
「ダメじゃないですか」
今は日を跨がない方法を探しているのだから。
乙女ゲームではどうだったっけ? ……無理だ。この世界で読んだ物語でさえ内容を鮮明に覚えていないのだから、前世でやったゲーム、ましてやシスタが出てこないであろうテストの話なんて覚えているはずがない。
「もう帰っちまえばいいんじゃねーか?」
「それで教養実習の点数がもらえなかったらどうするつもりだ。相変わらず君は何も考えていないのだな」
「じゃあどうするんだよ」
「それを今考えているんだ」
「ずっと考えて何も答えが出ないなら意味ねーじゃねーか。全員帰りたいんだろ? だったら帰れば良い」
「なら君だけ帰ればいいさ」
「俺がいつ帰りたいと言った。帰りたがっているのはお前らだろ。俺は別に一日くらいここにいても問題ない。野宿したこともあるんだ、屋根があって飯があるだけで俺は十分だ」
「ならごちゃごちゃと横から口を挟まないでくれ」
「まあまあ落ち着いて。お二人とも疲れているんですよ」
アドラが二人の間に入るなんて珍しい。…………あ⁉︎ そうだ、そうだそうだそうだ! ちょっと思い出した! これ、確か三人のどれの提案に乗るかってやつだった気がする! 正しい選択なら全員の好感度が上がって、外れの選択肢だと、提案者からの好感度は変化なしで、あとの二人からの好感度は下がるんだよね。あー良かった、思い出したよ!
しかし、ゲームでは数時間後みたいな表記であっさり流れていたから、実際はこんなに深刻だとは思わなかったよ……。




