他者の為
歯切れの悪い返事にすかさずリシアは口を出す。
「違うと思います。私、シスタちゃんに話されたことがあるのです。自分と一緒にいるとヴィリアン様が不幸になる。だから、関わりを断とうと考えたことがあると。けれど、ヴィリアン様が受け入れてくださるから、今こうしていられると。ニーファさんもきっと、ヴィリアン様と一緒にいたいから、今もメイドとしてお側に仕えているのではありませんか?」
「それは……」
「ヴィリアン様は、シスタちゃんやニーファさんのこと大切に思っていますよね」
「もちろんだよ」
「それと同じくらい、お二人もヴィリアン様を大切に思っています。そして、お二人も気づいております。このままでは一生、ヴィリアン様は他者の為にしか生きないと。ご自身の為には動かれないと。ですから、シスタちゃんは一人になったとしても、ヴィリアン様には自身の道を歩いてほしいと願うのです。歩いて、見つけてほしいのです、ヴィリアン様のやりたいことを。見つけられたら、シスタちゃんも心置きなくまたヴィリアン様と一緒にいられると思います」
「……ごめんリシア。私は、私の為に生まれてきていない。人の為に生まれてきた。だから、たとえもし本当に、シスタもニーファも、リシアにも私に自分の為に生きろと言われてもそれだけはできない。シスタの為に離れることはできる。でも、私の為に離れることはできない。誰かの為なら我儘になれるけど、自分の為に我儘になることはできない。私はそうやって生きてきたから」
リシアは少々険しい顔をした。真面目でも、厳かでもない。例えるならば、ありえないものを見た時のような仰天したような顔。
「ヴィリアン様は一体、どのように育ったのですか?」
リシアなりに考えうる中で一番オブラートに包んだ質問だろう。
「普通だよ。両親は少々過保護だけど」
「ちゃんと、愛されて育ちましたか?」
「そうだと思うよ」
「どうして愛されて尚ご自身を蔑ろにできるのですか?」
リシアは俯きがちに悲壮な顔をして聞いてきた。
「シスタを守る。物心がつく前から決めていたこと。時が経つにつれて、ニーファ、ラウザ、そしてリシア、他にもたくさん守らないといけない人ができた。だから、自分なんてどうでもいい」
「それじゃあ、ヴィリアン様が苦しむだけじゃないですか……」
「私は目の前の人が苦しむくらいなら自分が苦しんでいる方が良い。それに、私案外悪意には強いんだ。どうでも良い人に言葉のナイフを投げられたところで傷はつかないから。さあ、着いたよ」




