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何も分からない

 あまりに暗い顔をしていたのか、リシアに手を強く握られた気がした。


「それだけではない気がします。ヴィリアン様は元から何事に対しても責任感が強いのだと思います」

「そう見えるだけだよ」


リシアは何も言わずに首を振った。


「ヴィリアン様、料理を教えてくださる時も、先ほど編み物について話された時も、申し上げにくいのですが、楽しそうには見えなかったのです。どちらかと言いますと、腕が劣ることを恐れ、続けることを義務に感じられているのではと。もちろん、楽しさも見出しているとは思いますが、心の底からは楽しんでいないように感じるのです」


そんなことはない。料理も編み物も始めた動機は不純だが、ただの一度も止めたいなんて思ったことない。暇つぶしにも丁度いいし、完成した時の皆の反応も楽しみで……あれ? 何だろう、この違和感。


「私は、楽しんでやっているはず。だって、出来ることが増えるのは良いことだから」 

「ヴィリアン様が一番好きな趣味って何ですか?」

「それは……」


料理? 編み物? 掃除? 筋トレ? 剣? 魔法? 違う。私はシスタが喜んでくれることなら、シスタの為になることなら何でもやる。だから、分からない。


「そんなこと、考えたこともなかった。だって別に、私の為に始めたことなんて一つもないから」

「ヴィリアン様、先程シスタちゃんから離れるのが怖いと申してましたね」

「うん」

「シスタちゃんはヴィリアン様に離れてほしいと思っています」

「……うん」

「その原因が今はっきりしました。薄々勘付いてはいましたし、答え合わせのようなものですが。ヴィリアン様、シスタちゃんは決して一人でこの状況をどうにかしようとは考えていません。ヴィリアン様次第では、シスタちゃんは気兼ねなく頼れるようになります。まだ付き合いの浅い私が言ってしまうのもあれですが、ヴィリアン様は自分を持っていません」

「持っていない? そんなことは──」

「いいえ。持っていません。ヴィリアン様は先程仰られましたよね、ご自身の為に始めたことは何一つ無いと。それって、ご自身の為に行動したことがないってことですよね」

「そんなこと、ないよ。だって、私は自分のエゴでシスタと関わることを決めて、ニーファに婚約を蹴ってもらったし」

「それって本当にヴィリアン様だけの意思ですか? 本当にシスタちゃんが仕方なくヴィリアン様と一緒にいることにしましたか? ニーファさんが女性の価値に繋がる大事機会である婚約をヴィリアン様の為だけに諦めましたか?」

「そう、だよ」


よく分からない。よく分からないのに、心の奥がむずむずする。

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