好み
……あれ? 何でみんな黙ってるの? 特にリシア。いつもならありがとうございますって美少女スマイルを向けてくれるじゃん。
「お兄様、それはダメです」
「え?」
「奥様と旦那様に言われても正直半信半疑だったのですが、これはダメですね。まさかこれほどまでとは」
「え、何。何の話?」
「お兄様、一つ理解してください」
「え、あ、はい」
「お兄様はモテます」
「え、うん」
知ってるけど。
「私がいるからお兄様に声をかけてお近づきになろうと考える人が少ないだけです」
「……はい」
「私がいなければ多くの婚約話を持ちかけられているでしょう」
「はい……」
「お兄様はそれほど多くの女性から好意を寄せられています。面白半分で甘い言葉を囁かないでください。人によってはそれを本気と捉えてしまい、私達では手に負えなくなる可能性があります。分かりましたか?」
「はい……」
私何でシスタに諭されてるんだ?
「お前は無自覚な分こいつよりタチ悪いな」
「僕は自然と振る舞っているだけですよ〜」
「嘘つけ! お前腹ん中真っ黒じゃねーか」
「えー、何のことかな〜、僕さっぱり分からなーい」
「……私をこいつと同類にしないで」
「お前はこいつよりタチが悪いって言ってんだ」
「何でよ⁉︎ 私別に誰かに好きになってもらおうとか考えてないから⁉︎」
「そのことを言ってるんですよ、ヴィリー様」
「君も学ばない奴だな」
「絶対私の言葉の意味分かっていないですよね」
「ヴィリアン様のこと知っていなければ私も正直勘違いするところでした」
何でフォローしたのに皆に責められないといけないの……。
「ま、ボスも分かってないみたいですし、これくらいにしときましょう。元はボスの好みをはっきりさせる為の集まりですし。ということで、ボスはどんな人が好き? やっぱり僕みたいに可愛い子?」
「たしかに可愛い子は嫌いじゃないけど君は例外」
「むー」
「じゃあどんな奴が好きなんだ?」
「えー、恋愛的にでしょ?」
「もちろん」
「うーん」
考えたこともない。シスタは好きだけどあくまで推しとしてで、恋愛としてではないんだよね。
うーん、好きな人か〜。
「素敵な笑顔を浮かべる人」
なんか、パッとその言葉が思いついた。
「ふっ、ヴィル、お前って奴は」
「ボス、色々と言ってますけど結局僕なんですね」
「いや〜、ヴィリー様ってば素直じゃないですね」
「…………」
「何全員自分のことかって顔してんの! てか王子! 困るなって澄ました顔してるけど、そもそも私王子の笑顔見たことないからな! あと全員違うから!」
「照れんなって」
「そうですよ、結局ボスも僕に堕ちる運命だったんですね」
やだこいつら、全く話通じない。
「シスタ〜」
「……具体的にはどのような笑顔なんですか?」
「具体的にって言われても……」
なんか、そう思い浮かんだだけだしな。
「……輝いている笑顔かな。やり遂げた後みたいな? もう分からないよ。好きになった人が好きなんじゃないの?」
「それは当たり前だろ」
「参考にならないよ〜」
「だから君は対象外だって言ってるでしょ」
「それって僕が男だから? 可愛さの前に性別はなしだよ、ボス」
「男だからじゃなくて、好みの問題。はっきり言って、可愛げがない」
アドラは衝撃を受けた顔をした。いや、分かるでしょ。狙った可愛さほどうざったいのは無い。
「僕、可愛くないの?」
「ヴィリー様はしつこい人を好まないですからね〜。一歩引いた感じの子が好きなんですよ」
「お前より教師の方が分かってるじゃねーか」
「十年の付き合いですからね、自然と分かっちゃうんですよ!」
「私の好み分かってるならそのしつこいのどうにかならないの?」
「私はありのままの私を好きになってもらいたいので嫌でーす」
「……あの、ソルシー様って本気でお兄様が好きなのですか?」
ソルシーこんなんだから本心見えないもんね。分かる。私も冗談なのか正直分からないし。
「うーん、どうなんでしょうね。考えたこともないです。でもヴィリー様のこと好きなのは本当ですよ。私のたった一人の弟子なんです、私から離れちゃうぐらいなら、側に置いといた方が安心じゃないですか? シスタ様もそう思いません?」
「私は、お兄様が幸せならそれで良いです」
「じゃあシスタ様が幸せにならないとダメですね! ヴィリー様はシスタ様とラウザ様が自分よりも大切ですからね!」
「お前、妹の為なら命捨てそうだもんな!」
「んな不謹慎なこと明るく言うな!」
「それ、ロジャー家の人達もよく言ってますよ。ヴィリー様は絶対早死にしそうって。──ですから、私達がいるんですよ、ヴィリー様。危ない真似はしないでくださいね」
ソルシーは私にしか聞こえないように言ってきた。担任にティディ、魔法にソルシーと固めてきたのは、私の事情と監視、シスタのサポート目的だと思っていたけど、ソルシーがこうやって言うってことは割とガチでその意味があるのかもしれない。




