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格差

 授業終了を知らす鐘が鳴ると同時に、背もたれに手を掛けてそのまま後ろの通路に逃げる。いや〜、背もたれが低くて助かったよ。


「猿かよお前⁉︎」

「失敬な、どっからどう見ても人間だよ」


その後の休み時間もそうやってなんとか切り抜けていたが、ついにその作戦が使えなくなってしまった。シスタに何吹き込んでくれたんだか、授業終了間際になるとシスタが私の服を掴んだ。しかも脱げる上着とかマントではなく、ズボンをだ。

シスタ相手だと力づくで離せないから困った。まあ、それを分かっているからシスタにお願いしたんだろうけどね。

仕方ない、心苦しいが、ここは最終手段を使わせてもらおう。


「あ、お、おに、いさま、や、やめ、ふふ」


最終手段、くすぐり攻撃。大きな声で笑うのははしたないからね、必死に声我慢しちゃうよね。意識そっちにそれちゃうよね。そして力が緩んだところで、引き剥がす。


「手強いなお前」

「私は厳しく育てられたから」


教官にね。ほんと、あのハゲゴリラ剣術以外もスパルタだから。よく耐えたよ私。


「こうなったらお兄さん行ってくださいよ! 図体はボスより大きいんですから!」

「嫌だよ、こいつ俺に容赦ないからな」

「やってみないと分からないじゃないですか! 挑戦もしないで諦めるんですか!」

「おめーだって男だろ」

「こんな可愛い僕になんてこと言うんですか! ほら、早く! ボスが逃げてますよ!」

「あ、こら待て!」


手を掴まれたので、そのまま捻って後ろに回してやった。もちろん怪我しないように配慮しているからご心配なく。


「いててて! ギブギブ!」

「使えないですね」

「うっせー!」

「はぁ、もういいでしょ、何企んでるのか知らないけど、変なこと考えないの。午前の授業も終わったし、私は食堂に行くから」


通路に出ようとすると、リシアが通せんぼしている。一体どうやってリシアまで動かしたんだか。


「リシア、通してくれる?」

「駄目です」

「私よりあいつらに協力するの?」

「利害の一致です」

「そっかー」


私はリシアをお姫様抱っこして、後ろで立ち上がったネイトに託した。


「じゃ!」


はぁ、これで諦めてくれたらいいんだけど。


「スティーディアー! 来ったよー!」

「うわっ!」

「あれ? ヴィリー様じゃないですか! まだ教室に残ってたんですか?」

「今から食堂に行くの」

「教師! そいつを捕まえろ! 教師もそいつの好み知りたいだろ!」


そんな事のためにわざわざ皆を動かしていたのかい!


「無視していいよ。私は行くから」


廊下まであと一歩。しかし、そのあと一歩が踏み出せない。


「すっごい面白そうな話じゃないですか! ぜひ聞かせてください、ヴィリー様!」

「ティディに用事があるんじゃないの? 魔法解いてくれる?」

「ヴィリー様の恋バナほど大事なことはありませんよ。ほら、戻りましょうね、ヴィリー様」


くそー! 絶対ティディに告げ口してやるからな、ソルシー!


 結局席に戻されたし、私の肩はソルシーががっちり掴んでいるから抜け出せなくなってしまった。


「はぁ、一体何なの本当に」

「やっぱ女の好みをはっきりさせといた方が今後の為にも俺はいいと思うんだ」

「自分が聞きたいだけでしょ」

「人の恋バナほど面白いものはありませんよ。ヴィリー様となれば特に」

「参考の為にもボスの好みくらい知っておきたいな」


何が参考だよ。どう頑張ろうがお前は対象外だっての。


「まあまずは簡単な質問だから安心しろ」

「何が安心だ。シスタもリシアもこれの為に協力したの?」

「お兄様のこんな話滅多に聞けませんから」

「私も興味ありますので」

「そうですか」


流石は女子。


「ヴィリー様、諦めてちゃんと答えてくださいね!」


何でこの人はいつにも増してテンション高いんだ。


「ヴィル、お前巨乳と貧乳どっち派だ? 俺は巨乳だな! 触って幸せ、埋もれて幸せ、巨乳でしか味わえない弾力ってのがあるからな!」

「僕は小さいのを恥じらっている姿を可愛いと思えるから貧乳だね」


何が簡単な質問だよ。初っ端から飛ばしてるじゃないか。


「ほら、ヴィルはどっちだ?」

「そんなの考えた事ない」

「なら今考えろ。ちょうど両方あるだろ」


そう言ってネイトはリシアとシスタを指した。こいつデリカシーないにも程があるだろ。


「人様の胸を指すな。この馬鹿」

「いいじゃねーか。分かんないなら今見て決めろ」


何これ。男子ってこんななの? それともこいつが特殊なの? もう誰か教えてよ。シスタとリシアの顔見れないよ。


「ちなみにソルシーは?」

「え、どうして私に聞くんですか?」

「参考の為に女性にも聞こうかと」

「えー、そうですねー」


答えてくれるのか、この人は。いやまあ解釈一致ではあるけどさ。


「やっぱりある方が触って楽しいですね。でもありすぎると不快なので嫌ですね。いいですよね、胸があるって。羨ましいですねー」


ソルシーはそう言ってリシアの胸を見た。


「大きくてもあまり良いことはありませんよ。太って見えますし、服も胸だけ出てしまうのであまり自由に服を選べませんし。何より重いですし、暑い季節なんか常に蒸れて……どうされましたか?」

「そんなこと言われても持たざる者は皆羨ましいしか思えないんですよ、リシアさん」

「私なんて上着を着たら膨らみが無くなるんだよ、リシアちゃん」


私なんて巻いて潰さなくても男装できるんだよ、リシア。


「胸なんてあるだけでありがたいんだよ。あるだけで」

「お、おう」

「そ、そうだね」


なんか、格差を感じて悲しくなった。

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