意味が分からない
教室に戻ると、少し帰ってくるのが遅かったためか心配されたので、トイレに行っていたと嘘をついておいた。
「あーあ、僕も剣術にしておけば良かったな〜。でも、可愛い僕に剣術はちょっと似合わないかな」
勝手に言ってろ。チラチラと伺っても私は構わんぞ。
「構ってよ〜! ボスに無視されるのは堪えるよ〜!」
「うわっ! 邪魔だ!」
「暑苦しい。……ボス? それって私のこと?」
「だってボス、お兄ちゃんって呼ばれるのは嫌がるじゃん」
「当たり前だ。貴様のお兄ちゃんになった覚えはない」
「いいからさっさとどけ! 俺に乗るな!」
「プリンスもダメって言われるし」
「シスタがダメって言うならダメだ」
「となると、ボスしかないでしょ。僕のこと名前で呼んでくれないのに、僕が名前で呼ぶのは不公平だし」
「おいこら、無視すんな! ヴィルもなんとか言ってくれよ!」
「はぁ、行儀悪いからちゃんと席に座る」
「はーい」
私が言わないと動かないアドラを見て、ネイトは不服そうだ。
「それで、なんでボス?」
「だってボス、性格的に正義の味方よりも悪の組織のリーダーが似合うから。悪の組織のリーダーといえばボスでしょ」
「はぁーなるほどな」
何納得してんだこの馬鹿は。てか機嫌直るの早いな。それだけは羨ましいよ。
「ヴィリアン様はお優しいですよ」
「それは君が女性だからだよ、お姉ちゃん」
「失敬な。君らがまともなら私だって優しくする。優しく扱ってほしいなら自分達の性格をまず見直せ」
「えー、本当かな? 僕、まだボスが男性に優しくしているところ、見たことないよ」
そう言って、アドラは立ち上がって私の側まで来た。
あー、このシチュ知ってるわ。セリフと相手は違うけど。ゲームでは座っているリシアに対して、アドラが立ち上がって顎クイするんだよね。身長の低いアドラを下から見上げる数少ないシーンだから、めちゃくちゃ作画気合い入ってるんだよ。これだから運営の推しはいいですよねー。
……あれ? そういえばこの後ってなんか分岐あったよね。なんだっけ?
「でも、ボスって態度はアレだけど、実は面倒見が良くて優しかったりするよね。だから、その優しさを独り占めしたくなっちゃう」
心なしか顔が近づいてきてる気がするんだが。いや、してるわ。
「何考えてるの?」
「嫌なら拒んでもいいよ」
あーそうだ、拒む拒まないの選択分岐だ。何で相手私なんだよ。すぐ近くに正ヒロインがいるじゃん。
「だ、ダメです! いくらアドラ様であろうとそれはダメです!」
シスタが私の口を押さえ、リシアが私を寄せ、ネイトがアドラを自分に寄せ、私はアドラの胸を押す。うん、なんだこれ。
「ちぇー。いけると思ったのに」
「いくらチビでもヴィル相手にそれやると殺されるぞ! こいつ何気にモテてるんだから!」
なんだよ何気って。攻略対象の貴様らと私じゃ月とすっぽんだろ。調子に乗るなよ。
「ヴィリアン様、油断してはダメですよ! 心臓に悪いですから!」
「大丈夫だよ。間違ってもそんなことは起こさないから」
私の反射神経を持ってすれば、体を寄せられようと阻止できるし。
「それにしても、私のことでリシアが心臓を悪くしなくてもいいんだよ。関係ないんだから。でも、ありがとう」
「え、あ、そうですよね、私なんて関係ないですよね。すみません……」
関係ないは余計だったかな。まあ女子だもんね、色恋沙汰はいくつになっても大好物だもん、気になっちゃうよね。私だって恋愛話好きだもん! シスタ以外の恋愛話なら大歓迎! だから、関係ないって聞かせてもらえないと辛いよね。分かる、分かるよ。よし、ここは誤解を解いてもらおう。
「あ、えっと、そういう意味じゃなくて、なんていうか、リシアの時は私も力になるから! その、さっきはありがとう!」
そんな声を掛けると、背中をバシッと叩かれた。
「お前それは悪手だろ」
「ボス、それは流石に可哀想だよ」
「別に変なこと言ってないでしょう。ただリシアに好きな人ができた時は全力で応援するって言っただけなんだけど」
そう言うと、二人に溜息を吐かれた。なんか腹立つ。
「こいつやべーな。チビも分かるだろ」
「ボスが奥手だって噂を聞いたことはありますが、まさかあんな地雷を踏み抜くほど経験ないとは思いませんよ」
「女に手出したことないってのも案外本当かもしれないな」
「僕に靡かないのもたぶんそれ関係してますよね」
「それはちげーと思う」
「とにかく、もっと意識させる為にもここは協力しましょう」
「おお。次の休み時間にでも手を打つか」
何意味分かんないこと喋ってんだか。とりあえず変なことに巻き込まれるのは勘弁だから、次の休み時間はどこかに避難しよ。




