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代理の王さま  作者: 海野宵人
第二章 外交

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18 男のバナナジュース (2)

 まだ三種類のジュースのうち、ひとつを試飲しただけなのに、すでにジェイは精神的に疲労困憊の状態だった。まだあと二種類も残っているのかと思うと、いろいろな気力が削り取られていく気がする。

 できればもう、試飲は遠慮したい。


 どうせ残りの二種類も似たようなものだろう。ならば、試飲はりんごジュースだけで十分ではないか。そんなかすかな期待を込めて、ジェイは質問した。


「ぶどうジュースとバナナジュースは、何が違うんだ?」

「性能よ」


 マティルダによれば、回復量が違うらしい。

 りんごジュースは初級ポーション相当、ぶどうジュースは中級ポーション相当、そしてバナナジュースは上級ポーション相当なのだそうだ。


 主な違いが効果だけなら、これ以上の試飲は必要ないのではないか。そう言おうとしたジェイの目の前で、小さなグラスにぶどうジュースが注がれる。ジェイは、何とも言えない絶望的な気分に襲われた。またこれを飲まないといけないのか。


 恨めしい気持ちで、グラスをじっとにらみつける。もう一度飲み干す気力を何とかかき集めようとしているうち、ひとつのことに気がついた。


「この量で、中級ポーション相当なのか?」

「ええ、そうよ」

「さっきのりんごジュースと、量が一緒だな?」

「そのとおり」


 マティルダはきょとんとしながらも、うなずく。ジェイの質問の意図がわかっていないようだ。ジェイは念のため、もうひとつ重ねて質問した。


「もしかして、バナナジュースも同じ量なのか?」

「そうだけど」


 怪訝そうにうなずくマティルダに、ジェイはため息が出る。

 おそらくマティルダは、ポーションを使ったことがほとんどないのだろう。だからきっと、初級と中級と上級では量が違うことを知らないのだ。


 初級ポーションは、ジェイが飲まされたりんごジュースの倍量ほどだ。

 中級ポーションは、初級ポーションの二割増しほど。

 上級ポーションは、中級ポーションのさらに二割増しほどだ。

 なお、回復量は、それぞれ約五割増しである。


 つまり、どういうことかと言うと、バナナジュースの携帯性がとんでもないことになっている。上級ポーションと同じだけ回復するというのに、重さがたったの三分の一ほどでしかないのだから。死ぬほどまずいという欠点を補って余りある利点となるだろう。

 ジェイのその説明に、マティルダは首をかしげる。


「携帯性がいいと、何か問題があるの?」

「使い勝手がよすぎて、上級ポーションの存在がかすみそうだな、と」


 彼女は「うーん」と少し考え込んでから、にっこりと笑顔で請け合った。


「大丈夫じゃないかな」

「そうか?」

「だって、たくさん持てても、連続して飲めなかったら意味がないじゃない? 安全を考えたら、ポーションは外せないでしょ」

「ふむ」


 確かにマティルダの言うとおりだ。利点が多いほど売りやすくなるはずなのだから、これ以上あまり気にしても仕方ない。

 それよりも、今この瞬間、ジェイにとってはもっと重要な問題があった。

 それは目の前に置かれた、ぶどうジュースだ。


 見ているだけで、自分の目から光が消えていくのがわかる。

 飲みたくない。心の底から飲みたくない。


 ことジュースに関しては、ジェイよりレイモンドのほうが思い切りがよかった。カッと目を見開いたかと思うと、「よーし!」と大きな声でかけ声をかけ、一気にあおる。そして率直すぎる感想をもらした。


「うええっ……。まっずうういいいい」


 これを聞くと、よけいに飲みたくなくなるんだよなあ、とジェイは心の中でぼやく。だが、さっさと飲まなかった自分が悪いのだ。仕方なく、息をとめて一気に流し込んだ。レイモンドが感想を口にしたときは「黙って飲めよ」と思ったジェイだが、自分の口からこぼれ落ちる言葉はとめられない。


「まっず……」


 やっと三分の二の試飲が終わった。残り一種類だ。

 ジェイはレモン水の入ったグラスに口をつけ、口直しをする。そのまま、あまり時間を置かずに自分で小さな方のグラスにバナナジュースを注ぎ、飲み干した。もはやこうなると、やけくそと勢いが頼みだ。


「うう……」


 こらえようと思っても出てきてしまう、うめき声。

 何だろう、ジュースの種類が変わるにつれて、まずさに磨きがかかっている気がする。何はともあれ、これでジェイの分の分担は終了だ。気が抜けたあまり、椅子に浅く腰掛けて背もたれに腕をかけて寄りかかる。

 ローリーが苦笑いしながら、ジェイの前にレモン水を置いた。


「お口なおしをどうぞ」

「助かる……」


 レモン水で流してもなお、後味が口の中に残っているような気がする。あのまずさは、やばい。特にバナナジュース。


 ジェイがひと息つく横で、レイモンドが最後の一杯を涙目で口に流し込んでいた。それを横目でチラリと見てから、ジェイはマティルダに素朴な質問を発した。


「いったい、何を入れたらあそこまでまずくできるんだ?」

「ごく普通の食材だけよ」


 ジェイが目顔で先をうながすと、マティルダは「りんごジュースは、まずりんごでしょ。それから──」と材料を挙げる。

 それによれば、りんごジュースの原料は次の食材だった。


 ・りんご

 ・ほうれん草

 ・にんじん

 ・きゅうり

 ・にんにく

 ・卵

 ・乾燥したコッコの皮の粉末


 材料を聞いて、ジェイはもの申したい気持ちでいっぱいになった。りんごはわかる。だが、その後がおかしい。どれもこれもジュースに使うはずのない野菜じゃないか。緑色の正体は、ほうれん草、お前か。しかも生で入れたらしい。道理で青くさいわけである。


 それでも、にんじんときゅうりまでは、百歩譲れば理解できないこともない、かもしれない。だが、さらににんにくと卵ときた。なんでジュースににんにくを入れるのか。ピリッとくる辛味は、お前だったのか。その上、卵だ。それも生。ますますありえない。

 ちなみに「乾燥したコッコの皮の粉末」は、無味無臭だそうだ。


「もしかして、ぶどうジュースはりんごがぶどうになっただけか」

「まさか。ちゃんとオリジナルよ」


 マティルダは、ぶどうジュースの原料を挙げた。


 ・ぶどう

 ・ケール

 ・アスパラガス

 ・セロリ

 ・にんにく

 ・卵

 ・乾燥したコッコの皮の粉末


 たしかに原料は違う。だが、やはりジェイは、もの申したい気持ちでいっぱいだ。にんにくと卵だけは共通しているじゃないか。なぜなんだ。一番許容できないものだけが共通している、この不思議。

 しかも抜かりなく、にんじんだのセロリだの、子どもの天敵であるだけでなく大人でも苦手に思う者の多い野菜がもれなく入っている。その上、りんごジュースに比べてクセの強いものにグレードアップしていた。ピーマンが入っていないのが、不思議なくらいだ。


 ここまで聞いたなら、バナナジュースの原料も聞かずにはいられない。バナナジュースの材料は、次のものだった。


 ・バナナ

 ・ルッコラ

 ・玉ねぎ

 ・ピーマン

 ・にんにく

 ・卵

 ・乾燥したコッコの皮の粉末


 いやはや。何をか言わんや。

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― 新着の感想 ―
[一言] にんにくは、生で食べるとお腹が負けてエライことになります…私と同じ体質の人が飲んだら、効果とプラマイゼロにならないか心配です。
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