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代理の王さま  作者: 海野宵人
第一章 即位

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05 帰郷 (2)

 レイモンドは、神狼デクがおとなしいとわかって安心したらしい。馬をデクの前まで進めながら、エリーに話しかけた。


「デクって、ちょっと変わった名前だね」

「そうかな? 番犬もできない、役に立たない子だったから。『でくの坊』から取ったんだ」


 手なづけ方もひどいが、ネーミングはそれに輪を掛けてひどかった。「でくの坊のデクなのか……」とジェイは思わず遠くを見る目になる。一応、伝説級の生き物なのに。話題を振ったレイモンドも返す言葉に窮したようで、視線をさまよわせていた。


 エリーはジェイとレイモンドの微妙な表情に気づくことなく、伏せたままのデクの背中にまたがる。鞍も手綱もない。「よし、行こう」と背中を軽く叩いてやれば、神狼はすっくと立ち上がった。

 エリーは神狼の背の上から、にこやかにジェイを見上げる。


「お待たせ」

「おう。行くか」


 気を取り直して出発したものの、出発早々、困ったことになった。神狼と馬では、移動速度が違いすぎるのだ。デクは、軽快な足取りで小走りに進む。しかし小走りでも馬の早足よりも早く、駆け足に近い。エリーを乗せたデクの姿は、見る間に小さくなってしまった。

 後ろ姿が豆粒のように小さくなった頃になってやっと、エリーは自分が他のメンバーを置き去りにしてしまったことに気づいたようだ。あわてたように取って返してきて、「ごめん」と謝った。ジェイは苦笑する。


「馬は、その速度だとすぐへたばっちまうな」

「わかった。デク、馬に合わせて歩いて」


 馬の歩く速さに合わせて、デクは足の運びを歩きに変えた。ときどきチラリと振り返っては、馬たちの位置を確認する。賢い子だ。


 だがその後ろ姿には、何とも言えない哀愁があった。効果音をつけるなら「とぼとぼ」以外にありえない、その歩み。なぜ狼が歩くと「すたすた」ではなく「とぼとぼ」になるのだろうか。無理矢理ゆっくり歩いているからなのかもしれない。

 見ているとじわじわくるが、ジェイは神狼に敬意を表して真顔を保った。が、レイモンドとローリーはどちらも遠慮がない。ときおり二人で笑い転げているようだった。


 デクにしてみると、あの小走りがすでに速度を抑えた状態だったらしい。エリーによれば、もっと速く走っても、何時間も走り続けられるそうだ。一方、馬は駆け足だと三十分ほどでへたばってしまう。馬を替えることなく移動するなら、移動効率が一番よいのは並足だ。一日の移動距離は、神狼とはまるで比較にならない。

 もしかして、エリーひとりなら一日で王都まで移動できてしまうのではないだろうか。


 そう思い至ったとたんに、ジェイの頭の中に、また別の考えが浮かんだ。もしかして狩りも、エリーはデクと一緒なら楽々ソロでこなせるのではなかろうか。普通の大きさの狼であっても、使役できれば十分に戦力になり得る。なのにこの大きさだ。見るからに強そうではないか。それがまるで犬のように従順にエリーに従っているさまを見れば、狩りにも使役できるだろうことは容易に想像できた。


 もしその考えが当たっているなら、エリーを守ってやっているつもりだった自分の、なんと滑稽なことか。そしておそらく、この考えはそう大きく外していない。そう気づいて、ジェイは愕然とした。

 昨日から、ジェイは今まで見えていなかったエリーのいろいろな面を見せられている気がする。


 道中は特にトラブルに見舞われることもなく、順調だった。

 宿泊地となる村の入り口で、エリーはデクから降りて解放する。神狼はエリーの荷物に鼻づらを押し当てて、何かねだるようなそぶりを見せた。エリーは笑って、革袋の中から何かを取り出す。


「ほら。あとは狩りに行っておいで」


 エリーが手のひらに干し肉をひとかけ載せて差し出せば、神狼は大きくしっぽを振りながらそれにかじりついた。しばらく機嫌よさそうに口の中でモグモグと噛んでいたが、やがてゴクンと飲み込むと、くるりと背中を向けて森のほうへ走って行って姿を消した。

 その背中を見送ってから、ジェイはエリーに尋ねた。


「干し肉が好物なのか」

「うん。干し肉や燻製肉が好きみたい。どうも、生肉と違ってかみごたえのあるところが気に入ってるらしいんだよね」


 保存用の肉だけでなく、焼いた肉も好物らしい。ただしかなりの猫舌で、冷ましてやらないと食べられない。肉を加工してほしいからなのか、自分で狩った鹿をくわえて持ってくることもあると言う。

 飼い主のために肉まで獲ってくる神狼の名に、デクとはひどいんじゃないか、とジェイは思った。もっとも当の神狼は、名前の由来など少しも気にする様子を見せないが。


 ジェイはエリーに手を差し出し、引っ張り上げて自分の後ろに乗せてやった。四人連れなのにひとりだけ徒歩だと、あまり世間体がよろしくない。


「宿を見つけるまでだから、後ろで我慢してくれ」

「うん、全然かまわないよ。ありがとう」


 この村には、宿屋はひとつしかなかった。

 宿屋の主人に部屋を頼む段階で、ローリーが小声でエリーに話しかけた。


「エリー」

「うん、いいよ。一緒でも」


 小声ではあったのだが、このやり取りにレイモンドが目をむいた。


「ちょっと待ちなさい。いいわけないでしょ」

「なんで? だって二人でひと部屋のほうが安いよ」


 ローリーは何を叱られているのかわからないという顔で、きょとんとしている。


「子どもじゃないんだから、ダメ」

「えええ。エリーは兄弟みたいなもんだよ?」


 納得できない顔で眉根を寄せるローリーに、レイモンドは焦ったように言い募る。


「たとえ兄弟だって、この歳で一緒の部屋ってありえないから」

「そうなの?」

「そうだよ、常識だよ。差額は私が出してあげるから、一人部屋にしときなさい」

「そんなの、レイレイに悪いじゃん」

「全然悪くない! いいから、大人の言うことを聞きなさい」

「う、うん」


 全然わけのわかっていない顔ながら、ローリーはぎこちなくうなずいた。

 胸の内では「さっきは『子どもじゃないんだからダメ』って言ったくせに、今は子ども扱いしてるじゃないか」などと、思うことが多々ありそうな顔をしている。だがレイモンドの剣幕に気圧されたのか、口には出さずじまいだった。

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