04 帰郷 (1)
エリーの手の中にある手紙に、他の三人の視線が集中する。
レイモンドがにやにやして、冷やかすようにエリーに声をかけた。
「お、ラブレター?」
「まさか。兄からだよ」
エリーは封筒を裏返して差出人の名前を確認すると、笑いながら首を横に振る。そして封を切って中身を取り出し、さっと目を走らせると、鼻の上にしわを寄せた。
「頼みたいことがあるから帰ってこい、だって」
ため息をつきながら便箋を封筒に戻すエリーに、レイモンドが尋ねる。
「エリーの実家って、どこなの?」
「王都だよ」
「へえ。この国の王都は、まだ行ったことないや」
「なら、観光がてら一緒に行く?」
エリーに誘われたレイモンドは、ローリーを振り返った。
「ローリーはどうする?」
「僕はエリーと一緒に帰るよー」
「なら、私も連れて行ってもらおうかな」
エリーはレイモンドとローリーに笑顔でうなずいてみせてから、ジェイのほうを振り向いた。
「ジェイも暇があるなら、一緒に行かない?」
「そうだな。せっかくだから、付き合うよ」
そんなわけで、ジェイとレイモンドはエリーとローリーの帰省に付き合うことになったのだった。
フロリア王国は小さな国ではあるが、それでもこの辺境の地から王都までは馬で五日ほどかかる。各自で馬と食料を調達して、翌朝出発することになった。
ジェイにはもちろん持ち馬がいる。けれどもエリーが馬の世話をするところは、見たことがなかった。つまり持ち馬がなく、これから調達するはずだ。ならば、目利きがいたほうがいいだろう。そう思って、ジェイはエリーに声をかけた。
「エリー、馬は持ってないだろ?」
「うん」
「今から調達するなら、選んでやろうか」
「ありがとう。でも大丈夫」
エリーから返ってきたのは、意外な答えだった。だが本人が大丈夫だと言うなら、それ以上の口出しはよけいなお世話だ。ジェイはエリーにうなずきを返して、宿に戻るべくテーブルの上を片付けた。
同じく荷物を片付け始めたエリーに、ローリーが期待に目を輝かせて声をかけた。
「エリー!」
「うん、いいよ。後ろに乗って」
「やった」
名を呼ばれただけなのに、言いたいことが伝わったらしい。エリーは笑いながら同乗の許可を出した。しかし、そのやりとりに焦った表情を見せたのはレイモンドだ。
「ローリー、私なら前に乗せてあげるよ。後ろは揺れがきついから」
「え、いいの?」
「もちろんさ」
「わあ。レイレイ、ありがと!」
いいところを見せようと張り切るレイモンドがおかしかったが、ここで笑ってへそを曲げられても面倒くさい。ジェイは顔をそらして、笑いをかみ殺した。エリーはローリーににこにこと「よかったね」と声をかけ、ローリーはくったくなく満面の笑顔で「うん!」と返す。
エリーはそのまま、残りの三人に笑顔で「また明日」と手を振って、まっすぐ宿へ歩いて行った。それを見てジェイは眉をひそめる。馬はどうした。持ってないんじゃなかったのか。どうして調達しに行かないんだ。まあ、でも本人が大丈夫と言っていたのだから、他人がとやかく言うことじゃない。ジェイは肩をすくめて、自分も荷物を手に宿へ向かった。
* * *
翌朝、ジェイが集合場所である村の南側出口に到着すると、すでにそこにはエリーがいた。いつものようにひとりで。そこに馬の姿はない。大丈夫と言っていたはずなのに、どうしたことだろう。ジェイは首をかしげた。
もっとも、別にエリーに馬がなくても困りはしない。ジェイの馬に同乗させればよいだけだ。
そうしている間にも、馬に二人乗りしたレイモンドとローリーがやってきた。
「エリー、ジェイ、おっはよー」
「おはよう」
元気よく挨拶する二人に、ジェイとエリーも「おはよう」と挨拶を返した。
エリーは挨拶のあと「少しここで待っててね」と言い置いて、ひとりで村の外へ歩いて行ってしまう。二十歩近くも離れたところで、エリーは首から提げていた小さな呼び笛を取り出し、節をつけるようにして鋭く吹いた。
するとその音に呼応するかのようにして、どこからともなくエリーの足もとへ一匹の狼が飛び出してきて、お座りの姿勢をとった。
その姿に、ジェイは自分の目を疑った。なぜなら、その獣は姿かたちこそ狼だが、大きさが尋常ではなかったのだ。背の位置は馬に比べるとやや低いものの、ロバやポニーと変わらない。どこからどう見ても、立派に猛獣だ。見るからに凶悪な姿のその獣に、エリーは短く命令を発した。
「伏せ」
獣は素直に体を伏せて、前足の間に頭をペタリと地面につける。地面の上に敷物のようにぺったりと平らに伏せた獣を見ると、エリーはげんなりした顔でつぶやいた。
「いや、そこまで伏せなくていい……」
エリーのつぶやきを拾ったらしい獣は、パッと頭だけ上げて、土を払うように首をブルブルと振ってからエリーを見上げる。サイズがおかしいことをのぞけば、その姿はよくしつけられた犬のようではあった。
エリーはため息をついて獣の頭をなでてやってから、ジェイたちのほうへ向き直り、声を張り上げた。
「もういいよ。馬をびっくりさせないよう、ゆっくりこっちへ来て」
我に返ったジェイは、馬を繰ってエリーの前まで進めた。レイモンドも、おっかなびっくりやってくる。それを横目で見ながら、ジェイは質問を口にした。
「こいつは、いったい何なんだ」
「僕のペットで、名前はデク。普段は放し飼いにしてる」
「いや、名前を聞いてるわけじゃなくて、何者かって意味なんだが」
「ああ。たぶん神狼族じゃないかな」
ジェイはあっけにとられた。神狼とは、伝説上の生き物ではないか。それがペットだなんて、意味がわからない。
「どうしたらそんなものがペットになるんだ」
「デクがまだ子どもの頃に、うちの実家の裏庭でよく悪さをして困らされてさ。だからといって、駆除するのもかわいそうじゃない? それで死なない程度に殴りながらよく言い聞かせて、放すときにエサとポーションやったら、飼い主認定されちゃったみたいなんだよねえ」
困ったような顔で説明された内容に、ジェイは絶句した。死なない程度に殴りつけるのは、かわいそうじゃないのか。優しげな顔をしていながら、エリーのやり方が割とえげつないことに、口の端を引きつらせそうになる。




