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代理の王さま  作者: 海野宵人
第一章 即位

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30 即位の夜 (3)

 ゆっくりと食事を終えた後、ヴィヴィアンは義弟とその二人の友人に向かっておもむろに声をかけた。


「では、行きましょうか」


 張り詰めた空気を感じて、ジェイとレイモンドはどちらもぎこちなくうなずいた。先導するヴィヴィアンの後をついて食堂ホールを出る。


 てっきり王族の居室のあるという三階に向かうとばかり思っていたのに、なぜか階段を降りて地下へと向かった。いぶかしく思ったジェイは、同じように怪訝そうな表情を浮かべたレイモンドと目が合ってしまう。だがもちろん、ヴィヴィアンのすぐ後ろを歩いている状態では、疑問を口にすることなどできるはずもなかった。


 地上と違い、空気がひんやりと冷たい。

 薄暗い通路をしばらく歩いた先に、重厚な扉が現れた。見るからに重そうだ。だがその扉はヴィヴィアンが取っ手を回すと、見た目を裏切って不思議なほど軽やかに音もなく開く。


 白い漆喰の壁の部屋には家具らしい家具が何もなく、飾り気もなく、雰囲気は寒々としていた。実際に部屋の空気も冷え切っていて、とても病人が養生している部屋とは思えない。

 一応、部屋の奥には寝台らしきものがあり、その上に人が横たわってはいる。


 ただしその「寝台らしきもの」が普通ではなかった。そもそも寝台と呼ぶのが間違っているようなしろものだ。高さこそ寝台と同じくらいだが、象牙色の大理石製のそれは、台座と呼ぶほうがふさわしい。その台座の上には、水晶でできた透明な棺のようなものが置かれ、その中にひとりの青年が仰向けに眠っているのだった。


 いや、本当に眠っているのだろうか。と、ジェイはいぶかしんだ。顔には血の気がなく、洗いたてのシーツのように真っ白だ。胸の上で組んでいる手はぴくりとも動かず、呼吸している様子がない。呼吸していれば、多少は上下するはずなのに。

 眠っている青年の周りは、小さな白い花で埋められている。そんなところも棺のように見えるゆえんだ。どうにも死の気配が濃く漂っている。


 言葉を失っているのはジェイだけではない。普段はにぎやかなレイモンドも、今は無言だ。


 ヴィヴィアンにいざなわれるままに、ジェイは眠っている人物に近づいてみる。男らしく端正な顔立ちは、ケインとよく似ていた。しかし輪郭はエリーと似ているような気もする。

 問いかけるような眼差しをヴィヴィアンに送ると、彼女はうなずいた。


「そうよ、これが夫のアラン。この状態では国王なんて務まらないから、譲位したのよ」


 国王が務まるかどうか以前に、生きているのだろうか。そう疑問に思ったジェイの心の中の声に答えるように、ヴィヴィアンは言葉を続ける。


「実はね、毒殺されたという噂は、半分本当なの」


 ヴィヴィアンによれば、毒を盛られて倒れたという部分は事実だ。

 だが、死んではいない。今は仮死状態になっているだけなのだと言う。


 優れた光魔法の使い手であるヴィヴィアンでも、この毒は解毒ができなかった。ヴィヴィアンは解毒魔法を極めている。解毒できる者のほとんどいないバジリスクの毒でさえ、ヴィヴィアンは解毒可能だ。その彼女でも解毒できないとなると、新たな魔法を開発するか、解毒薬を探し出すしか、アランを救う方法はない。

 だからヴィヴィアンは、アランが倒れてからというものずっと、魔法を組み合わせて試行錯誤を続けるかたわらで、解毒薬を探し続けているそうだ。


 話を聞き終わって、ジェイはため息をついた。


「こんな重要な秘密を、俺たちなんかに教えちゃってよかったんですか」

「ええ。だってエリーが信頼している友人なんでしょう? 協力者は多いに超したことがないもの」


 ヴィヴィアンの「エリーが信頼している友人」という言葉に、それまで息をひそめていたレイモンドが、にんまりと得意げな表情を浮かべた。


「もちろん全力で協力しますよ。持てる限りのつてを使って、世界中から解毒薬を探し出しましょう」

「まあ。なんと心強いのかしら」


 この世のどこかに解毒薬が存在するとして、確かにレイモンドであれば他の誰よりも手広く探せそうだ。そう豪語できるだけの人脈を持っているだろうから。たとえ本人になかったとしても、親にはある。確実に。


 それにしても、なぜこんな冷え切った部屋の中の、このような棺桶めいた箱の中に寝かせているのだろう。いくら仮死状態であるとはいえ、もっと寝心地のよい場所に移したほうが本人のためではなかろうか。

 ジェイが遠回しにそうヴィヴィアンに尋ねてみたところ、彼女は首を横に振った。


「ここじゃないと、だめなの」


 冷えた部屋に寝かせておくのは、気温が高いと毒の周りが早くなるから。棺に見える入れ物は光属性の水晶でできていて、花とともに仮死状態を維持する効果があるそうだ。


 無防備な状態で寝かせておかねばならないのであれば、なるべく守りの堅い部屋がよい、という理由もある。何しろ暗殺されかけた人物である。生きている限り、何度でも再び狙われるだろうことは想像にかたくない。かといって人手不足のこの城では、二十四時間ずっと十分な警護を行えるような人員を配備する余裕などない。だったら安置するのは、城の中で一番頑丈な部屋であるべきだ。

 この部屋が選ばれたのは、低気温と堅牢性という二つの条件を兼ね備えているからだった。


 理由を聞いて納得した後、ジェイはふと宝物殿のことを思い出して質問した。


「もしかしてこの部屋の入り口も、王族以外が扉を開こうとすると雷が落ちるのか?」

「もちろん」


 ジェイの疑問にはエリーが即答し、さらに説明を追加した。

 ただ雷が落ちるにとどまらず、城中に幻影の小鳥が大量発生して大騒ぎする仕様になっているらしい。宝物殿よりよほど警戒態勢が厳重だった。


 ヴィヴィアンは、まるで彫刻のように生気のないアランの額をなでながら、穏やかな声で話しかけている。


「アラン、エリーのお友だちが訪ねてきてくれたわ。ひとりはレイモンド、もうひとりはジェイと言うの。戴冠したエリーのお手伝いをしてくれるのですって」


 ジェイはアランの眠る台座まで歩み寄って、挨拶をした。


「ご紹介に預かりました、ジェイです。力の及ぶ限り、支えていく所存です」

「レイモンドです。父が商業ギルド長をしています。財政再建はおまかせください!」


 ジェイが挨拶するのを見て、あわててレイモンドが隣に並び、続いて挨拶する。

 眠っているように見えても声だけは聞こえていることもあると、ジェイは聞いたことがある。アランに二人の挨拶は届いただろうか。

 ジェイとレイモンドは二人そろって深々と頭を下げてから、アランの眠る部屋を後にした。

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