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代理の王さま  作者: 海野宵人
第一章 即位

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03 辺境にて (3)

 食事を終わらせ、午後の仕事を再開すると、驚いたことにレイモンドの動きはさらによくなった。ただ攻撃するだけでなく、ジェイに補助魔法をかけたり、敵に弱化魔法を使ったりする。それだけでも驚きなのに、敵が分散しそうなときには炎の壁を出現させて、ジェイが攻撃しやすい位置に魔物を追い立てることまで始めた。


 不思議に思っていると、ローリーがはしゃいだ声でレイモンドに声をかけた。


「レイレイ、この補助魔法すごくいいよ! ありがとう!」

「ふふ、どういたしまして」


 ローリーの絶賛に、レイモンドは締まりのない顔でにやにやする。

 ジェイは狩りの手を休めることなく、無言のままその様子を横目で見ていた。楽しそうで、結構なことだ。レイモンドのように連携の取れないメンバーがいると、普通ならパーティーの雰囲気が悪くなりがちなのに、こうして和やかにやれているのは、ローリーの明るさのおかげもあるだろう。もちろん一番は、エリーの優しい気遣いのおかげだ。


 そんなことを考えていたら、レイモンドの背後から、ローリーがいたずらっぽい表情でエリーに向かって何か合図しているのが、ジェイの視界の端に映った。ローリーはエリーに向けて親指を立て、片目をつぶってみせる。エリーはそれに対して微笑んで、口だけ動かして「ありがとう」と伝えていた。

 なるほど、そういうことか。ジェイは、レイモンドにイライラしていた自分の大人げなさに気づいて、心の中で静かに反省した。ここは、この少年たちの作戦に乗っておこう。


「レイモンド、助かる」

「そうか、それはよかった。パーティー組んでると他の人にもかけられるって、今まで知らなくってさあ。しかも物理攻撃にも効果あるんだね」


 レイモンドの言葉に、ジェイは唖然とした。そんなことも知らなかったのか。

 しかしジェイのそんな内心をよそに、ローリーは真剣な顔で拳を握りしめて力説した。


「あるよ! 大ありだよ! 使わないともったいないよー」

「うんうん」


 エリーも大きくうなずいてローリーに同意する。レイモンドは照れたように、頭の後ろをかいた。


「そうだね。これからはガンガン使うよ」

「わあい! よろしくう!」

「今まで『後衛らしく動け』とか言われても、どうすればいいのか全然わからなかったんだけど、こういうのっていいね。お互い協力し合って、いかにもパーティーで狩りをしてるって感じがしてさ」


 「感じがする」も何も、それこそがパーティーを組む理由なのだが、賢明にもジェイがそれを口に出すことはなかった。せっかくやる気になっているレイモンドに、水を差すこともない。


 その後もレイモンドは進化し続けた。ときおりローリーと顔を寄せ合って何か相談しながら、少しずつ、少しずつ動きがよくなっていく。

 もともとレイモンドは、魔法師としては攻撃力が高いほうだ。しかも高価な装備に身を固めているから、敵から攻撃を受けても少々のことでは大きくダメージを受けることもない。ただしこれまでは、そうした長所をすべて台無しにするくらい、立ち回りがひどかった。

 ところが、今はどうだ。いっぱしの魔法師として立派に通用するくらいには、まともに立ち回っているではないか。


 レイモンドが何か新しいことを試してうまく行くたびに、ローリーは大げさなほど褒めたり、喜んでみせたりする。正直ジェイの目には、ちょっとやりすぎにしか見えない。普通の人間なら、馬鹿にされたと怒り出しそうだ。

 なのにレイモンドときたら、ローリーの露骨なよいしょを真に受けて、ご機嫌になっている。


「レイレイ、すごい! テクニシャン!」

「へへ、そうかな」

「うん、かっこいいよ! じゃあさ、今度は──」


 ローリーの巧みな誘導に、ジェイは舌を巻いた。

 パーティーでの基本的な動きを、ローリーはレイモンドにひとつずつ教えていく。けれども当のレイモンドは、おそらく教わっているという自覚がないだろう。きっと相談しながらいろいろな「新しいこと」を試しているつもりでいるに違いない。


 意外なことに、レイモンドは素直で真面目だった。

 自分の持つ補助魔法が物理攻撃にも有効だと知れば、それ以降は切らすことなくかけ続けたし、魔物ごとの弱点を知れば的確に弱化魔法を使うようになった。その都度いちいち得意になるところがうざいが、そこはローリーが太鼓持ちを受け持ってくれている。


 その日は運よくグリム・リーパーにも出くわした。

 ジェイとエリーの二人だけでも倒せないことはない相手だが、ローリーとレイモンドのおかげで討伐は早かった。ローリーは攻撃力こそ高くないが、立ち回りにそつがない。そのローリーがレイモンドに張り付き、逐一「提案」の形をとった指示を出すので、周囲の雑魚の排除も、グリム・リーパーの召喚する死霊の処理も、非常にスムーズだった。


 グリム・リーパーは、通常なら最低でも十人規模のパーティーで討伐する魔物だ。それを四人で討伐したのだから、報酬の分配も悪くない。

 ジェイとエリーがペアで討伐したのと比べても、そう悪くなかった。なぜなら消耗品の持ち出しがほとんどなかったからだ。ポーションを出し惜しみせずに使いまくれば、ペアでも討伐は可能だが、使うポーション分だけ支出がかさむ。その分を差し引くと、結局四人で討伐するのと比べて、手取りの収入はそこまで多くないのだ。だったら討伐時間が半分以下で終わるほうが楽でいい。


 この調子なら、もう少しレベルの高い魔物を狩りに行っても大丈夫かもしれない。

 ギルドの片隅のテーブルを四人で囲んで報酬を分配しながら、ジェイはそんなことを考えていた。そしてそう考えながら、ふとあることに気づいてしまった。

 この四人のパーティーのリーダーは、確かにジェイだ。行き先を決めたり、休憩時間を設定したりといった、パーティーとしての行動はすべてジェイが決めている。けれどもパーティーを回しているのは誰かというと、それは自分でない、ということに気づいてしまったのだ。


 このパーティーを回しているのは、エリーだ。

 ローリーとレイモンドにうまく役割を振って、パーティーが円滑に回るよう手を回しているのは、ジェイではなくエリーだった。なんだ、自分はお飾りのリーダーじゃないか。真のリーダーは、十歳ほども年下のこの少年なのだ。そう思ったら何だかおかしくなって、ジェイは口の端をつり上げた。


 分配を終えて、解散しようとしたそのとき、ふいに空中に小鳥が現れた。

 手紙を運ぶ魔法の小鳥だ。その小鳥は小さくさえずるとエリーの手にとまり、姿を手紙に変えた。

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