03 辺境にて (3)
食事を終わらせ、午後の仕事を再開すると、驚いたことにレイモンドの動きはさらによくなった。ただ攻撃するだけでなく、ジェイに補助魔法をかけたり、敵に弱化魔法を使ったりする。それだけでも驚きなのに、敵が分散しそうなときには炎の壁を出現させて、ジェイが攻撃しやすい位置に魔物を追い立てることまで始めた。
不思議に思っていると、ローリーがはしゃいだ声でレイモンドに声をかけた。
「レイレイ、この補助魔法すごくいいよ! ありがとう!」
「ふふ、どういたしまして」
ローリーの絶賛に、レイモンドは締まりのない顔でにやにやする。
ジェイは狩りの手を休めることなく、無言のままその様子を横目で見ていた。楽しそうで、結構なことだ。レイモンドのように連携の取れないメンバーがいると、普通ならパーティーの雰囲気が悪くなりがちなのに、こうして和やかにやれているのは、ローリーの明るさのおかげもあるだろう。もちろん一番は、エリーの優しい気遣いのおかげだ。
そんなことを考えていたら、レイモンドの背後から、ローリーがいたずらっぽい表情でエリーに向かって何か合図しているのが、ジェイの視界の端に映った。ローリーはエリーに向けて親指を立て、片目をつぶってみせる。エリーはそれに対して微笑んで、口だけ動かして「ありがとう」と伝えていた。
なるほど、そういうことか。ジェイは、レイモンドにイライラしていた自分の大人げなさに気づいて、心の中で静かに反省した。ここは、この少年たちの作戦に乗っておこう。
「レイモンド、助かる」
「そうか、それはよかった。パーティー組んでると他の人にもかけられるって、今まで知らなくってさあ。しかも物理攻撃にも効果あるんだね」
レイモンドの言葉に、ジェイは唖然とした。そんなことも知らなかったのか。
しかしジェイのそんな内心をよそに、ローリーは真剣な顔で拳を握りしめて力説した。
「あるよ! 大ありだよ! 使わないともったいないよー」
「うんうん」
エリーも大きくうなずいてローリーに同意する。レイモンドは照れたように、頭の後ろをかいた。
「そうだね。これからはガンガン使うよ」
「わあい! よろしくう!」
「今まで『後衛らしく動け』とか言われても、どうすればいいのか全然わからなかったんだけど、こういうのっていいね。お互い協力し合って、いかにもパーティーで狩りをしてるって感じがしてさ」
「感じがする」も何も、それこそがパーティーを組む理由なのだが、賢明にもジェイがそれを口に出すことはなかった。せっかくやる気になっているレイモンドに、水を差すこともない。
その後もレイモンドは進化し続けた。ときおりローリーと顔を寄せ合って何か相談しながら、少しずつ、少しずつ動きがよくなっていく。
もともとレイモンドは、魔法師としては攻撃力が高いほうだ。しかも高価な装備に身を固めているから、敵から攻撃を受けても少々のことでは大きくダメージを受けることもない。ただしこれまでは、そうした長所をすべて台無しにするくらい、立ち回りがひどかった。
ところが、今はどうだ。いっぱしの魔法師として立派に通用するくらいには、まともに立ち回っているではないか。
レイモンドが何か新しいことを試してうまく行くたびに、ローリーは大げさなほど褒めたり、喜んでみせたりする。正直ジェイの目には、ちょっとやりすぎにしか見えない。普通の人間なら、馬鹿にされたと怒り出しそうだ。
なのにレイモンドときたら、ローリーの露骨なよいしょを真に受けて、ご機嫌になっている。
「レイレイ、すごい! テクニシャン!」
「へへ、そうかな」
「うん、かっこいいよ! じゃあさ、今度は──」
ローリーの巧みな誘導に、ジェイは舌を巻いた。
パーティーでの基本的な動きを、ローリーはレイモンドにひとつずつ教えていく。けれども当のレイモンドは、おそらく教わっているという自覚がないだろう。きっと相談しながらいろいろな「新しいこと」を試しているつもりでいるに違いない。
意外なことに、レイモンドは素直で真面目だった。
自分の持つ補助魔法が物理攻撃にも有効だと知れば、それ以降は切らすことなくかけ続けたし、魔物ごとの弱点を知れば的確に弱化魔法を使うようになった。その都度いちいち得意になるところがうざいが、そこはローリーが太鼓持ちを受け持ってくれている。
その日は運よくグリム・リーパーにも出くわした。
ジェイとエリーの二人だけでも倒せないことはない相手だが、ローリーとレイモンドのおかげで討伐は早かった。ローリーは攻撃力こそ高くないが、立ち回りにそつがない。そのローリーがレイモンドに張り付き、逐一「提案」の形をとった指示を出すので、周囲の雑魚の排除も、グリム・リーパーの召喚する死霊の処理も、非常にスムーズだった。
グリム・リーパーは、通常なら最低でも十人規模のパーティーで討伐する魔物だ。それを四人で討伐したのだから、報酬の分配も悪くない。
ジェイとエリーがペアで討伐したのと比べても、そう悪くなかった。なぜなら消耗品の持ち出しがほとんどなかったからだ。ポーションを出し惜しみせずに使いまくれば、ペアでも討伐は可能だが、使うポーション分だけ支出がかさむ。その分を差し引くと、結局四人で討伐するのと比べて、手取りの収入はそこまで多くないのだ。だったら討伐時間が半分以下で終わるほうが楽でいい。
この調子なら、もう少しレベルの高い魔物を狩りに行っても大丈夫かもしれない。
ギルドの片隅のテーブルを四人で囲んで報酬を分配しながら、ジェイはそんなことを考えていた。そしてそう考えながら、ふとあることに気づいてしまった。
この四人のパーティーのリーダーは、確かにジェイだ。行き先を決めたり、休憩時間を設定したりといった、パーティーとしての行動はすべてジェイが決めている。けれどもパーティーを回しているのは誰かというと、それは自分でない、ということに気づいてしまったのだ。
このパーティーを回しているのは、エリーだ。
ローリーとレイモンドにうまく役割を振って、パーティーが円滑に回るよう手を回しているのは、ジェイではなくエリーだった。なんだ、自分はお飾りのリーダーじゃないか。真のリーダーは、十歳ほども年下のこの少年なのだ。そう思ったら何だかおかしくなって、ジェイは口の端をつり上げた。
分配を終えて、解散しようとしたそのとき、ふいに空中に小鳥が現れた。
手紙を運ぶ魔法の小鳥だ。その小鳥は小さくさえずるとエリーの手にとまり、姿を手紙に変えた。




