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代理の王さま  作者: 海野宵人
第一章 即位

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01 辺境にて (1)

 聖歴八百十五年、二つの大国にはさまれた小国フロリアに、弱冠十八歳の少年王が即位した。

 少年王の名前はエリオット。水属性の治癒師だ。

 王の傍らには、黒髪の青年が常に控えていた。


 少年王エリオットの治世は、のちにフロリア王国の黄金時代と呼ばれることになる。彼の即位は、その黎明期の幕開けだった。


 エリオットは、フロリア王家の五番目の、そして末の王子だ。

 兄たちは長兄の聖騎士アランを始めとして、優秀な王子がそろっている。王家の直系であるとは言え、第五王子であるエリオットに王位が回ってくることなどない──はずだった。

 にもかかわらず彼が即位するに至ったのは、緊迫した国際情勢による影響だけでなく、いろいろな要因が重なったからである。ただしその「いろいろ」が具体的に何であるかについての記録は、残念ながら後世に残されていない。



 * * *



 フロリア王国北部の国境近くの、とある村にて。

 ジェイは、今朝も人待ち顔で冒険者ギルドの依頼票を眺めていた。


 彼はフリーの冒険者で、高レベルの依頼をソロで引き受けることのできる実力の持ち主だ。得意な役回りはアタッカーで、攻撃力が非常に高い。立ち回りもうまく、何種類もの得物を器用に使いこなすオールラウンダーだ。だから当然のように、あちこちのパーティーからの勧誘が引きも切らない。けれども彼はこれまでのところ、特定のパーティーに属することは一度もなかった。どれほど名の知れたパーティーからの勧誘であろうと、あっさり断ってしまう。


 そんな彼が待っているのは、ここ一年ほどの間ずっと相棒として一緒に行動している、少年の冒険者だった。ほどなくして、待ち人が現れた。


「ジェイ、おはよう」

「おはよう、エリー」


 エリーと呼ばれたその少年は、重戦士らしく筋肉質なジェイとは対照的に、少年期に特有のほっそりした体型だ。髪の色も対照的で、黒髪のジェイに対し、エリーは輝くようなサラサラとした金髪だった。少女と見まごうばかりの優しげな面立ちの美少年で、風貌を裏切ることなく治癒魔法を使う。ただし残念なことに、口さがない者たちから「ハズレヒーラー」などと陰口を叩かれることの多い、水属性の治癒師だった。


 治癒師には、光属性と水属性の二種類がある。

 世間一般ではヒーラーと言えば、通常は光属性の治癒師のことを指す。パーティーでの募集も、ヒーラーの場合は属性を指定されていることが多い。治癒魔法自体は属性魔法ではないにもかかわらず、である。回復役としてだけ見れば、実は光属性の治癒師でも、水属性の治癒師でも、能力面では何ら差はないはずなのだ。


 ではなぜ水属性の治癒師は敬遠されるかと言えば、水属性の治癒師は魔力管理が下手だと思われているからだった。肝心なときに魔力が枯渇していて、回復魔法が使えない。いくら回復魔法を覚えていても、魔力がなければ使いものにならない。

 そして実際、光魔法の治癒師に比べると、たいていの水属性の治癒師は回復魔法に割く魔力が少なかった。使い手にもよるが、ひどい者になると回復魔法を一度も使わずに魔力を枯渇させてしまう。回復役を求められているのにこのありさまでは、敬遠されるのも無理はない。


 こうした違いは、両者の使える魔法の違いに由来する。

 光属性の治癒師には完全復活魔法が使え、水属性の治癒師は一般的な回復魔法の他に、魔力の回復ができる。しかしこの、魔力回復というのがくせものだった。


 魔力回復と呼ばれているが、言葉を変えれば自分の魔力を相手に譲渡するだけなのだ。自分の魔力と引き換えに、同じ量だけ相手の魔力を回復させる。便利ではあるのだが、これを多用すればしただけ、当然魔力は減っていく。状況を考えず、優先順位も設けずに、片っ端からパーティーメンバーの魔力を回復させていたら、自分の魔力などすぐに枯渇して当然である。


 一方、光属性の治癒師は、基本的には回復魔法しか使えないので、あまりよけいなことをしようがない。それでももちろん腕の差は出るが、平均して見るとやはり圧倒的に光属性のほうが安心感があるのだ。


 そんな水属性の治癒師とジェイが組んでいるのは、何となくこの少年を放っておけなかったからだ。属性のせいでまともなパーティーには入れてもらえず、かと言ってソロで仕事ができる職種でもない。見るからにおっとりと育ちがよさそうで、警戒心も薄く、たちの悪いやつらから簡単に騙されてひどい目に遭わされそうにしか見えなかった。


 それでも普通なら、わざわざ自分が面倒を見てやろうなどとは思わなかっただろう。だがこの少年の面立ちには、ジェイの心にどこか刺さるものがあった。彼が自分の過去を捨てるきっかけとなった出来事の、被害者の男を思い出させるものがあるのだ。彼の一方的な思い込みのせいで死に至らしめてしまうことになった、あの才能にあふれた美しい男。


 エリーがおかしな連中に目をつけられたりしないよう気を配り、仕事にあぶれないよう自分の相棒として連れ歩いているのは、あの男への贖罪の気持ちが込められているのかもしれなかった。


 きっかけは「放っておけないから」だったが、行動を共にしてみると、十歳ほども年下であるにもかかわらず、エリーはとても気楽な相棒だった。もともとジェイはソロでも仕事ができるくらいだから、回復魔法が必要となる場面は多くない。初級ポーションで十分間に合うくらいだ。だからポーションでは回復できない魔力を回復してもらえるというのは、仕事の効率を上げるのに重宝した。

 しかもエリーは魔物狩りの場で決して前に出すぎることなく、かといって遅れることも離れることもなく、ジェイの邪魔になるようなことを決してしない。理想的な相棒だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作お待ちしてました!嬉しいです。 控えめだけど勘所を押さえた少年と、その活かし所を承知した大人のコンビ、最高です。
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