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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
55/64

幼女は呪いを解きに行く⑥

「……見つけた!」


 もう幾度目かにもなる探索の末、ナナは再びアルラウネを見つけ出した。そしてチラッとミオとユリスの様子を見る。

 ユリスの顔色は相変わらず、血の気が引いたような死人のようで、それを背負うミオは疲労のせいで体全体で大きく息をしていた。

 もはやこれ以上、鬼ごっこを続ける余裕なんてない。そう感じたナナは全力でアルラウネに突撃をした!

 死角となる背後から飛びかかり、後頭部を掴んで地面に押さえつけようと手を伸ばす。しかし、手が届くギリギリの位置でアルラウネが振り返った!

 目が合った瞬間にすばやく身を翻し、ナナの伸ばす手を回避する。


(背後からこのスピードで襲って避けられた!?)


 ナナはすぐにブレーキをかけ、再度飛びかかろうと前傾姿勢となる。だがその時すでに、アルラウネの体は半透明になり、消える直前となっていた。


「逃がさない! インストール、ヴェイン!!」


 周囲に強力な重力場が発生して、樹木や岩が地面へと沈みだした。

 通常のおよそ十倍の重力によって、アルラウネも、ナナでさえその場から動けなくなる。そんな状態でも、アルラウネの透明化が完全となり姿が消えた。


「何度も追い回しているうちに分かってきたわよ。その透明化、長い間は維持できないんでしょ? 定期的に戻らないといけないから、周囲をうろつくだけですぐに見つかってしまう。さぁ姿を見せて! 時間切れまでここに拘束しても構わないのよ!!」


 アルラウネの姿は消えている。しかし、彼女の居る場所は確かに重力の影響を受け、地面が窪んでいた。

 すると諦めたかのように、アルラウネは姿を現す。少しむくれた表情でナナを見つめていた。


「おとなしく捕まりなさい!!」


 超重力を解除するのと同時に、ナナはアルラウネに向かって飛び掛かる。アルラウネもまた、瞬時に身を起こして、ナナから距離を取ろうと必死にステップを踏んでいた。

 ナナが超高速で動き回る。地を蹴り、木を蹴り、枝を蹴り、縦横無尽に動き回りながらアルラウネを翻弄ほんろうする。そして彼女が一瞬ナナを見失った瞬間を見計らい、再び抑え込もうと頭上から襲い掛かった!

 ナナが頭を鷲掴みにしようと手を伸ばす。しかし、アルラウネはまたしてもスルリと紙一重で身をかわした。

 さらにそれだけでは終わらない。アルラウネは避けるのと同時に、左手でナナの手首を掴み、右手でナナの背中に触れ、そのまま一気に地面に叩きつけた。


「かはっ!?」


 掴んだ手首を背中に押し当て、逆にナナが地面へと抑え込まれてしまった。


「こ……のぉ……! インストール、ヘカトンケイル!!」


 ミシッと、ナナの間接が軋みだす。

 巨人の怪力を用いて、組み伏せられた状態を強引に抜け出そうとしていた。

 アルラウネも必死に力を込めて抑え込もうとするが、ついに捕まれている手を振りほどき、ナナが拘束を抜け出す。


(この子、私の力や勢いを利用するような体術を使ってくる。この手のカウンター型は苦手だなぁ……)


 ナナが再び高速で動き回る。そんな様子を、ミオやゼルはもちろんの事、シンディさえも少し離れた位置から見守っていた。


「なんか重力を変えられたり、音速で跳び回ったりして助太刀するタイミングがわからないんだけど……」

「私、あの重力を重くする技嫌い……」


 あえて邪魔にならないように影から応援していた……

 そして跳び回るナナは、大木の後ろへ回り込んだ。そして、その剛腕で思い切りその大木を殴りつける!


 ——ベキベキベキ!!


 大人が腕を回しても指が付かないほど太い大木が、気味の悪い音を立ててへし折れる。

 折れた際に飛び散る木の幹が、木くずが、つぶてとなってアルラウネに降り注ぐ。それを彼女は横に跳び、回避する。

 だが、もちろんそれだけではない。へし折れた巨大な大木が、まるでここが無重力であるかのように回転しながら飛んで行く。周囲の木にぶつかり軌道を変えながら、小さなアルラウネを薙ぎ払おうとしていた。

 だが彼女は、飛んでくる大木の軌道を正確に読み、体をひるがえしてやり過ごす。


(やっぱり私の動きを見切るだけの事はある。目が良い……)


 次にナナは、へし折れて残った株の部分を思い切り蹴飛ばした!

 すると大木が張っていた根っこが地面から飛び出し、極太ごくぶとな鞭のように暴れ出す。まるでタコのように根っこは何本もの触手となり、複雑な動きでアルラウネに襲いかかった。

 それでもアルラウネは冷静に、うねりながら飛んでくる全ての根っこを華麗に避ける。


 ——ズサァ……


 蹴り飛ばした根っこに隠れて、ナナがアルラウネのすぐ真横まで移動していた。そしてその拳を彼女に向けて振り抜いた!


 ——ぐるん!!


 その瞬間にナナの上下は逆転する。振るった拳を捻り、その勢いのまま投げ飛ばされたのだ。

 方向感覚がわからなくなったナナは、そのまま飛ばされて後方の大木に背中から激突する。


「ぁ……ぅ……」


 ズルリと崩れ落ち、地面に倒れ込むナナ。

 するとその間に、アルラウネは逃げようと体が薄くなっていく。


「まずい! また逃げられる!!」


 シンディがやぶれかぶれか、その場を飛び出した。


「……全く、ここまで苦戦するなんてね……インストール、ライカンスロープ!!」


 ゆっくりと身を起こしたナナが、能力を入れ替える。そして、その更なる力を覚醒させる!


「転身!!」


 バチンッ!!

 電気が弾けるような音が鳴り響き、ナナの姿が変貌する。

 それと同時にアルラウネの姿もまた、完全に見えなくなってしまった。


「逃がさない……」


 獣の耳と尻尾が生えたナナが、四つん這いの状態からフッと消えた。

 そして……


 ——ズシャア……


 姿を現したナナが、透明の何かを地面に抑え付けていた。


「ようやく捕まえた。ホント手こずらせてくれたわね……」


 するとナナの下にいる、透明化していたアルラウネが姿をあらわにした。困り顔でジタバタともがいている。


「ナナ殿、よく捕まえられた。透明化した時は逃げられたかと思った」


 飛び出してきたシンディがホッとした表情で見下ろしていた。


「重力を操作して動けなくした時に気が付いたの。この子の透明化は足音も消えるし気配が完全に読めなくなる。けどね、地面を踏みしめた跡はちゃんと残るの」


 わかるような、わからないような。シンディはそんな表情をしていた。


「なるほどね。つまりナナっちは、踏みしめた時の草花の倒れ具合を肉眼で確認して、そこに人が立っているかどうかを見極めたって事だね」


 ゼルも茂みから顔を出し、そう提言した。


「そう言う事よ。ここがジャングルで助かったわ。地面に草が生えていなかったら本当に手がかりがつかめなかったかもしれない……」


 そう言いながら、ナナは未だ暴れるアルラウネの首筋に顔を近付けていく。


「すっごい苦労したし、もう少しだけお仕置きしてあげる」


 そしてアルラウネの首筋をペロリと舐めた。その瞬間に、少女はビクリと体を強張らせる。

 ナナはペロリ、ペロリと何度も舐め、彼女は怯えるように小刻みに震えていた。

 もちろん、ゼルもシンディも、ミオでさえ唖然として状況が飲み込めずにいる。

 そしてナナは、何度も舐めたその首筋にカプリと噛みついた!


「!! !? ⁇ !? !!」


 アルラウネはまるで抵抗する力を奪われた様にぐったりとして、蕩けた表情のままビクンビクンと体を跳ね上がらせていた。


「な、なんかエロいね……って言うか、血を吸っているのか……?」


 ちょっと興奮した様子で、ゼルがそう言った。


「ぷはっ、そう、ヴァンピールの唾液には噛みついた時に痛くならないよう麻酔の効果がある。ついでに言うと気持ち良くなるような催淫効果もある」


 首筋から口を離したナナが、そう説明をする。


「と言う事は、ナナ様は透明化の能力を得た訳ですか?」


 と、ミオが聞いた。


「そうね。これでアルラウネの能力ゲットだわ! ……って、アルラウネって種族名じゃないのよねぇ。まぁいいや。せっかくだし、もう少し吸っとこ♪」


 クテッと倒れるアルラウネの首筋を、再び舐めながら吸い始める。

 すると少女はビクリと体を震わせ、涙目になりながら助けてほしそうに周りを見つめていた。


「ナナ様に押さえつけられながら肌を舐められるなんて、なんて羨ま……いえ、それがあなたの罪の重さなのですよ!」


 なぜかミオはちょっと羨ましそうであった……


「さて、あんまりやり過ぎても怒られるし、この辺にしとこうかしら」

「え? 怒られるって誰に?」

「まぁ、気にしなくていいわ。それよりもあなた!」


 シンディの質問を曖昧にして、ナナはアルラウネを押さえつけながら耳元で叫んだ。


「私達の質問に答えて! そうじゃないとユリスを助けられないんだから! 私達は二年前のアレスが殺された事件の真相を知りたいの。あなたは本当にアレスを殺したの?」


 ピクリと、アルラウネが体が反応する。ミオはすぐさま彼女の前に移動して顔を覗き込んだ。

 アルラウネは……目を細めて、唇を噛みしめていた……


「ナナ様、アルラウネ様はそんな事はしていないとおっしゃってます!」


 みんなから騒めきが起こる。


「じゃあ誰がアレスを殺したの!? ミオの目をみて答えて。彼女はあなたの言いたい事が理解できる能力があるから」


 アルラウネはジッとミオの目を見つめる。その瞳は悲しそうで、涙で光が揺らめいていた。

 その時だった。


「何をしている。約束が違うぞ」


 森の奥から男の声が聞こえてきた。

 ミオ以外、その声のする方へ視線を移すと、そこにはグリン村にある墓の前に立っていた、アレスの友人のジークと名乗る男が佇んでいたのだった……

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